PCM再生はDSDアップコンバートも含めて多彩なフィルターによる音の違いが楽しめるところも本機の魅力になるが、今回はNT-503のすっぴんの音を確かめるため各フィルターはオフにして聴いた。DSD再生は2種類のデジタルフィルターから150Hzに設定している。
椎名林檎の「長く短い祭」では切れ味鋭いボーカル、ズシンと響く骨太なベース。「T1 2nd Generation」の持ち味であるシャープな解像表現力と、初代機よりも肉厚さを増したベースラインの力強さが余すところなく再現される。空間再現は少しタイトなキャラクターで、むしろ力強さをぐいぐいと前に押し出してくるイメージ。パーカッションの音色の違いが色鮮やかに引き立ち、演奏の立体感が高まる。ハイレゾの情報量がしっかりと引き出される印象だ。演奏の空間を満たす音の密度が濃く、つながりもスムーズで一体感が高い。楽曲が後半に向かうに連れて熱気を帯びてくると、ダイナミックレンジの広い再現力がいっそう際立ってくる。ドラムスの鮮烈なビートに、ブラスの透明で伸びやかな高域がバランス良く溶け合いながら、生き生きとしたグルーブがうねりをあげる。
小沼ようすけのアルバム「GNJ」から「Explorer」では、バンドの楽器の音がきれいに分離して、それぞれの音像がシャープに描かれる。メロディラインが鮮明でレスポンスも非常に良い。ハイインピーダンスの「T1 2nd」をしっかりと鳴らし切れていることの証明といえるのではないだろうか。ギターの弦のしなり具合や、暖かくウェットなボディのハコ鳴りから生まれる倍音が空間に充満していく。余韻の階調感もきめ細かい。ギターのハイトーンはサスティーンがねばっこく、余韻の消え入り際も繊細に再現される。エレクトリックベースは常に安定したリズムを刻みながら、フットワークは非常に軽やかで、力強いアタックの立ち上がりと立ち下がりの俊敏さは特筆できる。「T1 2nd」を力強くドライブしながら、まだいくらでも余力を残しているかのようだ。アコースティック楽器の音色がとても自然に再現される組み合わせだと思う。
マイケル・ジャクソンのアルバム「XSCAPE」から「Loving You」では、中央に定位する鮮度の高いボーカルを軸に、打ち込みのリズムが足場をどっしりと固める。打楽器系の音源の打ち込みが分厚く広がるが、繊細なシンセサイザーのディティールにおおいかぶさることがなく、それぞれの音源は輪郭が引き締まっていて彫りも深い。きらびやかで透明なボーカルの声とバンドの演奏がスムーズにつながって、広々とした空間を描き上げる。
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮によるベルリン・フィルの「ドヴォルザーク:交響曲第9番『新世界より』」から「第4楽章:フィナーレ(アレグロ・コン・フォーコ)」では、NT-503とT1 2ndによる組み合わせの美味しいところが最も明確に現れた。透明でスピード感あふれる低域は、旋律の輪郭が非常に明瞭で引き締まっている。演奏の空間に漂う張り詰めた空気感が鮮明に浮かび上がってくるようだ。弦楽器や管楽器の高域はディティールを丁寧に引き立てるが、T1 2ndで聴く音ならではの独特な粘り強さも同居している。クレッシェンドのたびに押し寄せてくる楽器のエネルギー感と、その真に迫るリアリティを生々しく再現してくれるベストな組み合わせだ。チューバやトロンボーンの音色からは肉厚な空気が押し出される情景までも目に浮かぶようだった。
最後にDSDの音源は、ホリー・コールのアルバム「Girl Talk」のタイトル曲を試聴した。冒頭のウッドベースのぶ厚く芳醇な余韻に包み込まれる。ボーカルは声の繊細なニュアンスがありのままに再現される。ピアノの音も粒立ちが良く、高域のサスティーンもしなやかに響かせる。甘くて柔らかい、そしてなまめかしく豊満なサウンドだ。
「NT-503」は、ソースに込められたアーティストやエンジニアの思いを忠実に再現するティアックのフィロソフィーに従って、どこまでもピュア、かつナチュラルな音につくりこまれたプレイヤーだ。音楽に無駄な色をつけず、ソースの魅力をバランスよく引き立たせるセンスの良さも感じさせた。
スマホやタブレットとの親和性も高く、NASを活用しながらデスクトップで、ヘッドフォンによるハイレゾ再生環境を手軽に構築できる。かたやパワーアンプをそろえてスピーカーをつなげばリスニングのバリエーションも広がる。フルサイズのコンポよりも設置性が高く、スペースファクターや操作の取り回しが良いところは言うまでもなく503シリーズの大きな強みだ。NT-503は先端のネットワークオーディオ再生やハイレゾ再生にすぐ対応ができて、よりハイグレードなオーディオ再生システムにも発展性のある、入門者にも最高の出発点となり得るプレイヤーだ。
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