大阪市営地下鉄長堀鶴見緑地線の大正駅から南下し、大正区役所を経由して、なみはや大橋付近の鶴町までのルートである。沿線に住宅や工場が多く、鶴町には大型店舗もあることから需要が期待できる。
しかし上記8号線延伸と同じく、大阪市の財政問題で工事は止まったままだ。大阪市交通局では建設の優先順位として今里筋線を1位に挙げている。つまり、今里筋線の延伸に着手できていてない現状では、建設着手はかなり先のことになるだろう。
大阪府堺市が建設を進めているLRT事業。南海本線の境駅を起点とし、東側は南海高野線の堺東駅、西側は堺浜を終点とする。東側区間の開業目標は2010年度としている。その後、境浜地区にシャープの新工場の誘致に成功したため、西側についても開業を早める意向を示した。公設民営方式を採用し、軌道設備を堺市が整備する。運行主体は公募の結果、南海電鉄と阪堺電気軌道の共同事業体が担う。
堺市の軌道交通については阪堺電気軌道の南北方向のみであった。東西方向については大正時代に近鉄、昭和時代に南海電鉄が免許申請を行ったものの、実現しなかった。その後、モータリゼーションの普及により軌道への期待は潰えた。
しかし、1994年に堺市公共交通懇話会から東西方向の軌道系交通機関の必要性が提案された。関西新空港などのプロジェクトを受けて、堺市を臨海新都心として活性化させるためには「大阪中心からの放射状鉄道と臨海部を結節する軌道型交通機関が必要である」という理由であった。
これを受けた堺市は独自研究を進め、1999年にLRTの導入可能性を調査、2003年には市民の意見を募集するなど検討材料の収集を始めた。2006年からは特に活発な動きを見せ、欧州のLRT視察に市民を公募し、堺市が費用を半額負担した。また、堺浜でゴムタイヤ式LRT「トランスロール」の実験を行ったり、次世代路面電車計画を公表し、民間企業から29件もの事業提案を受けたりした。そして、堺市の南北軌道交通を担う阪堺電気軌道に対して、大阪市から堺市に越境乗車する際の90円の加算運賃を2カ月間に渡って補助した。これは堺市のLRTと阪堺電気軌道の連携や運賃体系を模索する実験だった。
ところが同年、阪堺電気軌道とその親会社の南海電鉄は、堺市に対して、業績不振を理由に堺市からの撤退または支援を打診する。阪堺電気軌道の堺市内区間は、乗客数がピーク時の7分の1まで落ち込んでいた。これに対し堺市は支援を受諾。堺市は東西LRTの検討の中で、阪堺電気軌道の堺市内部分の買収も検討していたようだ。その後、堺市は東西鉄軌道の運営会社を公募したところ、応募は南海電鉄のみだった。そこで南海電鉄と阪堺電気軌道は共同事業会社を設立し、堺市のLRTの運行を担うことになった。
2008年12月25日、堺市は東西鉄軌道の基本計画を発表。開業時期は堺駅前東口−堺東駅前が2010年度末、堺駅前西口−境浜は東区間に引き続き早期開業を目指すとした。また、阪堺電気鉄道の堺市内区間全域を含む我孫子道−浜寺間は、阪堺電気軌道から軌道の無償譲渡を受け、東西鉄軌道と一体的な整備を実施していく。このほか、軌道緑化、LRTとバスの同一ホーム乗り換え(バス&ライド)、軌道円滑化のための道路交通規制の再編を実施する。
運賃は市内200円均一。堺駅前東口−堺東駅前間は所要時間10分、ピーク時最大運行本数は1時間あたり12往復。堺駅前西口−堺浜間は所要時間17分、運行本数は検討中となっている。今後はこの基本計画を元に市民からの意見を取り入れて開業を目指す。
堺市の取り組みは新規建設路線を含めると、日本で初めての広範囲なLRT整備計画となる。今後LRTを導入予定の各都市にも大きな影響を与えることになるだろう。
→どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(2)東京エリア編その1
→どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(3)東京エリア編その2
→どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(最終回)成田新線・新交通編
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