携帯電話と無線LANの融合が進んでいる。ビジネス向けでは、既にドコモがFOMA/無線LANのデュアル端末「N900iL」を発表している。Motorolaもビジネスコンシューマー向けに、無線LAN対応のFOMA端末を開発予定だ(8月25日の記事参照)。将来的には、一般ユーザーも3Gと無線LANのデュアル対応端末を手にする日が来るだろう。
期待されるのは、両方式がシームレスに統合されること。状況に応じていちいち通信方式を選択するのでなく、「車に乗って携帯で会話していたら、気付かないうちにエリアが変わり無線LANのVoIPになっていた」――そんな利用が実現するのが望ましい。
もっとも、そんな「未来」を目指すにはそれなりのアーキテクチャが必要のようだ。この問題について研究を重ねている情報通信研究機構、横須賀無線通信研究センターのワイヤレスアプリケーショングループリーダー、工学博士の黒田正博氏に、携帯と無線LANの融合に必要となる要素を聞いた。
同氏が所属するのは、「新世代モバイル研究開発プロジェクト」と呼ばれるプロジェクト。3G携帯とIEEE 802.11系のIPネットワークを統合する「MIRAI+」と呼ばれるアーキテクチャ(2003年5月12日の記事参照)を研究、提唱している。
同種の取り組みは、海外でもあると黒田氏は話す。「去年の春ぐらいから、米国でも『規格が必要だ』という話になった。我々も協力して、3月に『IEEE 802.21』の立ち上げに成功している」(同氏)。
IEEE 802.21は、「IEEE 802系と非802系を含む、異種ネットワークの相互運用性を実現するための標準規格」。もっとも、現時点ではそれほど規格が固まっていないようだ。同研究センターでは方向性が似ていることから、研究の成果を802.21向けに提案できるようにしたいという。
なぜ、このようなシステム基盤が必要になるのか。 黒田氏は「たとえば、セルラーには発呼の仕組みがきちんと入っているが、無線LANにはそれがない」と説明する。
「各端末メーカーが無線LANの音声端末を独自に作ったとすると、それは独自スペックになる。ほかのメーカーの端末には電話がかからない、ということになりかねない」。プロジェクトでは、共通的な呼制御の機構(コモンシグナリング)を実現すべく、一番コアのセットを標準化するという。
「2年後の2006年頃には、無線LANのチップベンダーも(携帯のような省電力を実現する)ディープスリープモードを搭載したチップ(2003年5月30日の記事参照)を出してくる。その頃にはTD-CDMAも世に出てくるの。そのタイミングで標準化が進むようにしたい」
黒田氏は、セキュリティのフレームワークも含めて通信のインタフェースを標準化したいと話す。「あまり上のレイヤでやると、標準化が難しくなる。レイヤ(用語参照)は“TCP/IP未満”、レイヤ2.5でやるつもりだ」。
携帯と無線LANのハンドオーバーは、現状でも可能だ。ただ難しいのは、無線LANから3Gへ切り替える場合に、タイムラグが発生することだと黒田氏は話す。 「無線LANは接続が『軽い』。従って、3Gから無線LANに切り替えるには20ミリ秒程度しかかからない。問題は無線LANから3Gに切り替えるとき。3GはPPP接続なので、発呼して電力制御して、リンクを貼るのに時間がかかる。それこそ“秒”――数秒単位の時間がかかる」 これでは、通話が途切れることは避けられない。解決するには、ソフトウェアの設定変更などでキャリアの基地局に手を入れることも必要になってくるという。 |
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