ヒットの裏に激しい主導権争い〜韓国モバイルバンキング事情韓国携帯事情(2/3 ページ)

» 2005年01月12日 14時13分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

各社のサービス内容

 金融チップによるモバイルバンキング先駆者であるLGTは、戦略にも長けている。全国6000以上の銀行で、BANK ONブランドを前面に出して対応端末を積極的に販売している。

 サービス開始初期の2003年10月から2004年5月末まで、利用手数料とモバイルバンキングで発生するパケット代を無料にしたほか、銀行でのイベント期間中にBANK ON対応端末を購入した会員に限り、BANK ON利用料金かパケット代金を、最大2005年12月末まで無料とする戦略に打って出た。その成果があってLGTは、BANK ONだけで150万人の加入者を誘致したという(2004年12月現在)。

屋台売り戦略といえばやはりLGT。銀行の前や地下鉄の駅、街中で、BANK ON対応端末の売り込みに積極的だ

 これとともに、BANK ONに関連した7件の特許も登録した。内容は「移動通信端末機を利用した金融決済サービスの方法」「移動通信端末機を利用した金融決済システム」などで、他社より先行してサービスを開始しただけに、顧客や自社技術の保持に熱心だ。

 海外進出にも積極的なSKTのM BANKは、自動ローミングの手続きさえすれば海外でも利用できるという特徴を持っている。パケット代は、韓国国内65ウォン(約6.5円)に対して、例えば中国でのパケット代が70ウォン(約7円)程度と大差はない。現在のところ中国国内12カ所とニュージーランドのみの対応だが、東南アジアなど他国にも拡大予定。いずれは日本でも使えるようになるかもしれない。

 KTFのK・bankは、交通費決済機能が強化されているのが最大の特徴だ。韓国では地下鉄やバスの料金を、プリペイド式の交通カードやICチップ搭載のクレジットカードなどで決済するのが一般的だが、K・bankを利用すれば、首都圏はもちろんほぼ全国の交通機関で利用できるようになる。

課題解決に向けたキャリアの対応は?

 便利になった一方で課題も残る。1つはキャリアごとに提携銀行が異なる点だ。中でも最大の課題といえるのが、銀行ごとに金融チップが別であること。

 利用したい銀行が複数あれば、それだけチップが増え、取り引きの際には銀行別にチップを取り替えなければならない。チップを発行してもらうためには、各銀行の窓口へ行って手続きしなければならないので、平日昼に忙しい会社員などは申請するのが面倒だ。またチップ発行を受けただけでは交通カード機能や証券機能などは使えず、別途申請が必要となる。さらにATMには、モバイルバンキング対応とそうでないものがある点も不便だ。

 チップが統合されない背景には、キャリアと銀行間の激しい争いがあった。当初、国民銀行はSKTと手を結び、モバイルバンキングサービスを実施する計画だったが、キャリアと銀行のどちらが主導権を取るかで競争が激化。結局、国民銀行はLGTとの提携を決め、LGTも国民銀行側に最大限の譲歩をすることでサービス開始に至った。これによりキャリアへの権力一極集中は防がれたものの、結果的にはユーザーが不便をこうむることとなってしまった。

 こうした現状をキャリアが放っておくはずはなく、今年からは新しい動きもありそうだ。SKTとKTFは、複数の銀行サービスやクレジットカード、交通カードなどの機能を統合した汎用チップの発行を計画しているという。今年2月以降には、容量を16Kバイトから72Kバイトに増やし11個以上のアプリケーションを載せられるICチップをモバイルバンキング対応端末に搭載。汎用チップ戦略へ弾みをつけたい意向だ。

 一方でLGTは、これまで通りBANK ONサービスを継続する予定で、新たな動きはまだ見せていない。

 今年、大きな動きを見せることとなりそうな、韓国のモバイルバンキング。今後さらに普及させられるかどうかは、サービスのユーザビリティにかかっているといっても過言ではない。

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