自分が使っている携帯電話の料金が上がると、ユーザーはどう行動するのか。そんな問題に、京都大学の助教授が取り組んだ。
総務省が移動体通信領域の市場画定を進めていることを受け、この補助的研究として行われたもの。京都大学大学院の経済学研究科の依田高典助教授が、現在の移動体市場を最新の「離散選択モデル」を用いて分析した。
離散選択モデルとは、アンケート調査をもとに“需要の代替性”を定量的に分析する学術的手法。需要の代替性とは、分かりやすくいえば「この選択肢がダメだとすると、ユーザーはどの選択肢を選ぶか」という傾向を指す。
今回は移動体市場の調査であるため、「ドコモの3G」「auの3G」「ドコモの2G」「auの2G」「ボーダフォンの2G」「PHS」を各選択肢として設定。「この選択肢(サービス)の料金が1%上がると、別の選択肢(サービス)にどれだけユーザーが逃げるか」を計算した。
― | ドコモ3G | au3G | ドコモ2G | au2G | ボーダフォン2G | PHS |
---|---|---|---|---|---|---|
ドコモ3G | −0.771 | 0.070 | 0.423 | 0.060 | 0.245 | 0.253 |
au3G | 0.034 | −0.554 | 0.028 | 0.408 | 0.034 | 0.029 |
ドコモ2G | 0.171 | 0.023 | −0.296 | 0.026 | 0.103 | 0.108 |
au2G | 0.012 | 0.143 | 0.011 | −0.218 | 0.012 | 0.015 |
ボーダフォン2G | 0.086 | 0.025 | 0.051 | 0.026 | −0.294 | 0.127 |
上表が、移動体市場の「加入需要に対する弾力性」を表している。縦軸の「ドコモ」欄を見ると、ドコモの料金が1%上がると加入需要は「0.771下がる」ことが分かる。つまり、それだけほかのサービスに逃げるということだ。
逆にauの3Gサービスは「0.070」だけ上がっている。ドコモの2Gは「0.423」上がっており、こちらのほうが上昇の幅が大きい。どうやら、ドコモの3Gサービスから逃げたユーザーの受け入れ先は、ドコモの2Gサービスが有力であることが分かる。ちなみに、ボーダフォンの2Gサービスの上昇値は「0.245」となっている。
依田氏は、表を見る限りユーザーは2G/3Gといった規格にこだわるというよりは、事業者にこだわる傾向があると指摘。例えばauの3Gをやめたユーザーは、ドコモの3Gよりはauの2Gを選ぶとした。
依田氏はまた、「3G」と「2G」というくくりで見たときに需要価格弾力性はどうなるかを示している。
― | NTT | KDDI | ボーダフォン | 計 |
---|---|---|---|---|
3G | −0.737 | −0.474 | ― | −1.211 |
2G | −0.234 | −0.166 | −0.180 | −0.580 |
結果は上表のとおり。3Gサービスの料金が1%上がると、3Gサービス全体として見れば「−1.211」だけ加入需要が減っている。2Gの場合、料金が1%上がると全体で「−0.580」だけ加入需要が減る。
依田氏は、こうした分析では「−1」より大きいか小さいかを見るものなのだと説明する。つまり、3Gの弾力性は大きい(価格の影響を受けやすい)し、2Gの弾力性は小さい(価格の影響を受けにくい)ということになる。
「3Gは普及期にあるサービスで、ユーザーは価格へのセンシティビティが高い(価格に敏感に反応する)。2Gはそれほどでもないが、極度に非弾力的というわけでもない」(依田氏)
なお、依田氏はこうした離散選択モデルは学術研究の場で「議論が収れんしていない」と断った上で、「理論と現実は違う。2005年以降に当てはまるかも分からず、経時的な調査が必要だ」と締めくくった。
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