日本が世界市場から学ぶべきこと──ボーダフォン津田氏ワイヤレスジャパン2005:

» 2005年07月13日 14時54分 公開
[斎藤健二,ITmedia]

 「日本は海外よりも2年以上進んでいるのではないかという。しかし今後日本で起きるはずの変化を、世界市場は既に経験している」

 ボーダフォンの津田志郎会長は、7月13日に開催されたワイヤレスジャパン2005の基調講演で、日本の携帯業界も、海外を参考にすべき点があると話した。

 日本で起きるはずの変化を、世界市場は既に経験している──。その例として津田氏が挙げたのが、MNP、新規参入、MVNOの3つだ。

MNP──「ときには市場は失敗する」

 日本でも2006年に導入が予定されているMNP(モバイルナンバーポータビリティ)。電話番号を変えずにキャリアを変更できる仕組みだが、海外では各国が日本に先行して導入している。

 津田氏が指摘するのは、導入時の手数料などの施策により利用率が大きく異なり、国によっては“競争が過熱しすぎる”可能性があることだ。

 「フィンランドは(MNPを導入した)2003年の段階で、キャリアがかなりのディスカウントを行った。1つは無料でDVDプレーヤーを配布した。手数料や加入料はもちろん免除。香港でも、月額基本料を無料にしたり端末を無料にしたりした結果、インセンティブは実施前より2.6倍に高騰した。これによってほとんどのキャリアが赤字に転落した」

フィンランドや香港ではMNP利用率が20%程度に達している

 こうした事例から、津田氏は競争の過熱を懸念する。「もちろん止めるべきだと申し上げているのではないが、あまりに加熱した競争は市場を混乱させるだけではないか」

新規参入──市場性があるのかどうか

 同じく2006年を見込まれているのが、1.7GHz帯や2GHz帯(TDDバンド)など新たに携帯用に使われる周波数帯域を使った事業者の新規参入だ(7月8日の記事参照)

 ここでも津田氏は市場性を疑問視する。「以前、PHSは3事業者あって、日本では7事業者で競争する状況にあった。それが淘汰されて今の状況にある。携帯だけ見ても、3Gに取り組んでいるのは3事業者。国全体で最大6社がサービスするとなると市場性があるかどうかは慎重に考えるべき」

 こう話すのは、海外で新規参入を果たした事業者がなかなか軌道に乗れないでいるという現状があるからだ。同氏は英国などで3G事業に参入した「3」を例に挙げ、「3は、開始当初から低価格で端末を売り、一定のシェアを取ろうという戦略を採った。しかしキャッシュフローの予測によると、2004年から2011年に渡りかなりの期間がマイナスでいく」

英3は事業から生み出されるキャッシュフローがプラスになるまでに、約8年が必要だと予想されている

 津田氏が懸念するのは、市場性がなかった場合に市場が混乱しユーザーに迷惑がかかる可能性がある点だ。

 「(携帯が)社会インフラと考えられると、参入チャンスがオープンであることに異論はない。しかし参入した事業が長続きしない、また売り買いされることになるとお客様に迷惑を与える可能性がある」

MVNO──既存事業者が撤退に追いやられる可能性も

 携帯事業への新規参入にあたり、諸外国の中には既存のキャリアが通信設備を貸し出すMVNOを義務づけている国もある。日本でも新規参入事業者がMVNOなどを求めているが(6月22日の記事参照)、津田氏はこの点についても牽制した。

 挙げたのはデンマークの例だ。既存キャリアにネットワーク開放義務を課したところ、MVNOオペレータが乱立。わずか100万人(全体のシェア23%)のユーザー数に対し、13社が競争する状況になったのだという。

 「これにより価格が下がったことは間違いないが、設備を持っている事業者の経営が難しくなって、そのうちの1社Orangeが撤退することになった。過当な競争が日本にとって正しいかどうかは検討すべきことだ」

デンマークでは既存キャリアにネットワーク開放義務を課したところ、負担が増大し、既存キャリアの撤退を招いた

 デンマークの例では、6カ月で大幅に料金が下がった。音声で45%、データ通信で50%の低下が見られたという。

 こうした各国の例を挙げて、津田氏が伝えたかったのは、過当競争によって価格競争に突入し、新しいサービスを開発することが困難になるということだ。

 「やはり健全な成長が必要。イノベーションを起こしうる体力を持っていかなくてはいけない」。津田氏は“日本への提言”として、このように述べた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2025年04月25日 更新
  1. 「楽天ペイ」と「楽天カード」、どちらで支払う方がお得? 還元率の違いをチェック (2025年04月23日)
  2. スタートした「Nintendo Switch 2」抽選販売情報まとめ ビックカメラ、TSUTAYA、ゲオ、ヤマダ、セブンなどの条件は? (2025年04月24日)
  3. ドコモの「irumo」わずか2年で新規終了の理由 0.5GBプラン廃止の影響は少ない? (2025年04月24日)
  4. ドコモ、月550円からの「irumo」受付終了へ 代替えの新プランは「4GBで2750円」「10GBで3850円」の“2択”に (2025年04月24日)
  5. ahamoは死なず続投、ドコモ新料金「MAX」「20GB」など一挙投入 ポイ活で毎月最大5000p還元 (2025年04月24日)
  6. 楽天モバイルは「知らないうちにスマホと衛星がつながる」――三木谷氏がアピール “アンテナマーク”はau Starlink Directと違う? (2025年04月24日)
  7. ドコモの新料金「irumo」のお得度を検証 Y!mobile/UQ mobileより安いケースが多いが注意点も (2023年06月29日)
  8. 楽天モバイルの衛星通信は「アンテナが大きいからつながりやすい」 三木谷氏が語る優位性 (2025年04月23日)
  9. ドコモ、DAZNを「追加料金なし」で見放題に 条件は何? 業務提携の狙いは? (2025年04月24日)
  10. 「一括1円」から購入できるスマホまとめ【2025年4月版】iPhoneも月々1円で持てる? (2025年04月24日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2025年