「日本は海外よりも2年以上進んでいるのではないかという。しかし今後日本で起きるはずの変化を、世界市場は既に経験している」
ボーダフォンの津田志郎会長は、7月13日に開催されたワイヤレスジャパン2005の基調講演で、日本の携帯業界も、海外を参考にすべき点があると話した。
日本で起きるはずの変化を、世界市場は既に経験している──。その例として津田氏が挙げたのが、MNP、新規参入、MVNOの3つだ。
日本でも2006年に導入が予定されているMNP(モバイルナンバーポータビリティ)。電話番号を変えずにキャリアを変更できる仕組みだが、海外では各国が日本に先行して導入している。
津田氏が指摘するのは、導入時の手数料などの施策により利用率が大きく異なり、国によっては“競争が過熱しすぎる”可能性があることだ。
「フィンランドは(MNPを導入した)2003年の段階で、キャリアがかなりのディスカウントを行った。1つは無料でDVDプレーヤーを配布した。手数料や加入料はもちろん免除。香港でも、月額基本料を無料にしたり端末を無料にしたりした結果、インセンティブは実施前より2.6倍に高騰した。これによってほとんどのキャリアが赤字に転落した」
こうした事例から、津田氏は競争の過熱を懸念する。「もちろん止めるべきだと申し上げているのではないが、あまりに加熱した競争は市場を混乱させるだけではないか」
同じく2006年を見込まれているのが、1.7GHz帯や2GHz帯(TDDバンド)など新たに携帯用に使われる周波数帯域を使った事業者の新規参入だ(7月8日の記事参照)。
ここでも津田氏は市場性を疑問視する。「以前、PHSは3事業者あって、日本では7事業者で競争する状況にあった。それが淘汰されて今の状況にある。携帯だけ見ても、3Gに取り組んでいるのは3事業者。国全体で最大6社がサービスするとなると市場性があるかどうかは慎重に考えるべき」
こう話すのは、海外で新規参入を果たした事業者がなかなか軌道に乗れないでいるという現状があるからだ。同氏は英国などで3G事業に参入した「3」を例に挙げ、「3は、開始当初から低価格で端末を売り、一定のシェアを取ろうという戦略を採った。しかしキャッシュフローの予測によると、2004年から2011年に渡りかなりの期間がマイナスでいく」
津田氏が懸念するのは、市場性がなかった場合に市場が混乱しユーザーに迷惑がかかる可能性がある点だ。
「(携帯が)社会インフラと考えられると、参入チャンスがオープンであることに異論はない。しかし参入した事業が長続きしない、また売り買いされることになるとお客様に迷惑を与える可能性がある」
携帯事業への新規参入にあたり、諸外国の中には既存のキャリアが通信設備を貸し出すMVNOを義務づけている国もある。日本でも新規参入事業者がMVNOなどを求めているが(6月22日の記事参照)、津田氏はこの点についても牽制した。
挙げたのはデンマークの例だ。既存キャリアにネットワーク開放義務を課したところ、MVNOオペレータが乱立。わずか100万人(全体のシェア23%)のユーザー数に対し、13社が競争する状況になったのだという。
「これにより価格が下がったことは間違いないが、設備を持っている事業者の経営が難しくなって、そのうちの1社Orangeが撤退することになった。過当な競争が日本にとって正しいかどうかは検討すべきことだ」
デンマークの例では、6カ月で大幅に料金が下がった。音声で45%、データ通信で50%の低下が見られたという。
こうした各国の例を挙げて、津田氏が伝えたかったのは、過当競争によって価格競争に突入し、新しいサービスを開発することが困難になるということだ。
「やはり健全な成長が必要。イノベーションを起こしうる体力を持っていかなくてはいけない」。津田氏は“日本への提言”として、このように述べた。
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