カスタムジャケットと並び、携帯ならではのデザインを模索した例の1つが、ボーダフォン「V501T」の「着ぐるみカバー」だ(6月16日の記事参照)。
携帯自体は敢えて特徴のない形状にデザインし、そこに着せるシリコン製のカバーに異色のデザインを持ってきた。「最初は指触りを楽しむことからスタートしました。そのうちに、若いデザイナー達が、吸盤を付けたらどうだろうとか、毛を生やしちゃえと」。着ぐるみカバーの生い立ちをそう振り返るのは、東芝でV501Tをデザインした中野展子氏だ。
メインイメージであるカバー「ブル」は、携帯が着信すると揺れることに着目し、足を付けることから発想が始まった。「プルプル動くのが最初の発想。足を生やすなら耳を生やせばブタとか牛になるんじゃないか。最後には角を生やしてしまえと」(中野氏)
これまでの携帯デザインの常識ではあり得ない着ぐるみカバー。それを「肯定的な意味だが、ついにここまで来てしまった」と評するのは、グッドデザイン賞の審査員である戸島國雄氏。「家のドアノブなどに布をかぶせてあるのが以前ありました。今はそれをプロのデザイナーがするようになった」。
ブルのような斬新なカバーが登場しただけではなく、カバー自体を端末メーカーのデザイナーが行う時代。まさにこれこそ、携帯デザインの“ファッション化”を象徴しているのかもしれない。
とはいえ、携帯のデザインはまだ過渡期にある。夏モデル、冬モデルとうたわれ、機能面だけでなく、デザインでも新しさが訴求される点や、カスタムジャケットや着せ替えカバーといったものは出てきていることはファッション化を象徴する1つ。
しかし、普通の携帯電話は流行に沿って買い換えるものに成り切ったわけではない。1年から2年といわれる買い換えスパンも、ファッションとしては長いし、ほかの製品に比べれば短い。あくまで契約商品であるため、ファッション的に数多くの携帯を買って、気分で使い分けるというわけにもいかない。
「時計のように10個買って持てるわけではない。まだファッションの域まで達していないのではないか。予感はあるが時間はかかる」(グッドデザイン賞の審査員である安次富隆氏)
また“ファッション的”なカスタマイズの道具が出てくる一方で、デザイナーの意識はファッションではなく、プロダクトとして愛着の持てる道具をデザインしたいところにある。
「ハード(デザインとしての見た目)が良ければいいんじゃない。できるだけ長く使って飽きのこない、愛着の持てるものである必要がある」(KDDIのプロダクトデザインを担当する小牟田啓博氏)
「プラスチックに塗装。1年、2年使ったらボロボロになる。そういうものに愛着が持てるのか。その意識から生まれたのがDOLCE」(シャープの水野理史氏)
移り変わりの激しいファッションの1つとしてデザインされていくのか、それとも長く愛着を持って使われる道具としてデザインされていくのか。携帯デザインの方向性が1つでないことだけは確かだ。
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