第1回、第2回と2回にわたり、英Vodafoneのモバイル事業における課題を見てきた。今回は、Vodafoneが新しく打ち出したFMC戦略について、欧州のトレンドと比較しながら考察していこう。
→英Vodafoneの現状と今後(1):巨額の赤字で、戦略転換へ──英Vodafoneの“次の”一手
→英Vodafoneの現状と今後(2):苦戦する「Vodafone live!」と行き詰まる成熟市場のジレンマ
Vodafoneがデータ通信サービス事業の確立や、3Gサービスの立ち上げを図る中、通信業界では新しいトレンドが起こりつつあった。固定と携帯の融合――FMCだ。
FMCは現在、2005年6月に世界に先駆けて英British Telecom(BT)が「BT Fusion」を開始するなど、欧州、なかでも英国が先行している。FMCでは、BTのような固定オペレーター(キャリア)もプレーヤーとなるため、携帯オペレーターのほかにも競争相手はさらに広がる。現時点でFMCに積極的なのは、すでに携帯電話にパイを奪われ、かなり前から事業の見直しを迫られてきたBTのような固定オペレーター(BTはモバイル事業部を売却している)、そして、固定と携帯電話の両事業を持つ(旧)国営系企業だ。
通信業界全体のトレンドとしては、多くのオペレーターが、携帯電話、インターネット接続サービス、固定電話の3セット(“トリプルプレイ”)、これにIPテレビを加えた4セット(“クアドラブルプレイ”)という戦略をとるオペレーターが多い。
だが、モバイル事業のみで展開してきたVodafoneはここで出遅れた。FMCに詳しい米IDCのアナリスト、ラーズ・ヴェスターガード氏は1月、FMCのイベントで、Vodafoneの株価低迷の大きな理由をFMCにおける戦略の欠如と指摘した。
Vodafoneは、BT FusionでGSM網を提供している(BTは、MVNOとしてVodafoneの回線を利用)が、Vodafoneブランドで携帯電話、インターネット接続サービス、固定電話のトリプルプレイを提供する具体的な計画は、明らかにされていない。実際、BTを始めとする欧州各社が次々と何らかの形でFMC戦略を打ち出す中、モバイル事業しか持たないVodafoneは沈黙を守っていた。これも、株価低迷に影響を与えたといわれている。
同社がFMCを展開すると市場に示したのは、今年5月末の新戦略発表においてだ。現時点では、第1回目で触れた戦略の3番目「モバイルのみの事業モデルの見直し」で固定サービスを検討しており、新事業部のMobile Plusが担当することを明らかにしているが、具体的な戦略や計画はまだ発表していない。
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