佐藤可士和氏とのコラボレーションによる「N702iD」と「N703iD」、折りたたみではFOMA最薄の「N703iμ」、ステファノ・ジョバンノーニ氏がデザインした「N904i」。これらの端末の形状はいずれも、NECが生みだし、今やグローバルスタンダードとなっている折りたたみ型(クラムシェル)の携帯電話だ。
しかしこれらの端末は、従来のNEC製携帯電話とは、その表情もコンセプトも大きく異なっている。単に有名デザイナーを起用したからではなく、NECのデザインに対する考え方や、取り組み方そのものが変化しているのだ。
NECは2006年、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズのクリエイティブプロデューサーだった佐藤敏明氏を招いて「クリエイティブスタジオ」という新組織を設立した。かつてNECは、何年にも渡って販売シェア1位を独走する、自他ともに認めるトップメーカーだった。しかし昨今、その勢いは失われシェアは低下。悩みながら模索した答えの1つが、クリエイティブスタジオ設立にあった。
NTTドコモの携帯電話が、ムーバからFOMAへと移り変わっていく中、NECが発表した「N900i」「N900iS」「N901iC」は、いずれも「アークライン」という折りたたみデザイン。メインディスプレイ背面に、カメラと縦長のサブディスプレイという、よく似たフォルムのデザインを採用していた。新技術が次々に追加され、デザインの自由度が少なかったこともあるが、ムーバの時代にNECブランドを支えていた「変わらない安心感」を、そのままFOMAにも持ち込んだ。しかし、「変わらない安心感」はいつの間にか、「変わらないことへの不満」へと変化してしまっていた。
佐藤氏は「個人的に、NECが大きなシェアをとっていたことや、リーディングカンパニーであることの自負が、逆にエンドユーザーの存在感を希薄にしてしまっていたのかなと思っています。それに対するユーザーのストレスが、結果として変わってほしいという思いや、変わらないことに対する不満となっていたかもしれません」と話す。
実際、N900iは2004年のグッドデザイン賞を受賞したものの、その後、NECの販売シェアは大きく転落。長らく守ってきたシェアトップの座を、他メーカーに明け渡すことになる。続く「N901iS」から「N902i」「N902iS」にかけては、変化を求めるユーザーの声に背中を押されながらもその方法を暗中模索していた、迷走時代と言えるだろう。
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