よりよいサービスはオープンなビジネスモデルと競争から生まれる――モバイルメディア企画の石原氏MediaFLO Conference 2008

» 2008年03月25日 13時22分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo モバイルメディア企画の石原弘取締役

 2011年のアナログ停波後の跡地利用を巡る戦いは、すでに始まっている。周波数帯の獲得を目指す各社は技術とサービスをアピールし、通信と放送の融合を実現させるための法整備も着々と準備が進んでいる。

 米QUALCOMMが開発した携帯電話向けマルチメディア配信プラットフォーム「MediaFLO」で、携帯端末向けマルチメディア放送サービスの事業化を目指すモバイルメディア企画は、どんなビジョンの元にサービスを構築し、提供しようと考えているのか。MediaFLO Conference 2008の講演に登場した同社の石原弘取締役が説明した。

Photo 日本では、これまで通信と放送とで分かれていた法制度を2011年に向けて見直そうという機運が高まっている。「今まで縦割りだったものをレイヤーごとに分け、それぞれ規制を作っていった方がいいのではないかという動きになっている」(石原氏)。2007年8月から総務省が「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」を開催し、関連各社が集まって討議を続けている

携帯向けマルチメディア放送は、こうあるべき――6つの視点

Photo 新たな市場を形成する上で重要となる6つの視点

 “携帯端末向けマルチメディア放送”と一言で言っても、そのとらえ方は業界によって異なるが、インターネットをなりわいとし、携帯電話事業を推し進めるソフトバンクは「携帯電話に提供するサービス」と位置づけていると石原氏は説明する。そしてサービスのあるべき姿については6つの視点に基づいて検討しているという。

 1つ目は“視聴者のニーズへの対応”だ。新たな周波数を割り当てて展開するサービスであるからには、新しいライフスタイルを創出するサービスを新たな技術を使って提供するべきという考えで、ビジネスを成功させるのに重要なのは、「何を視聴者が求めているか」を考えることが重要だという。「いちばん大事なのは“いつでもどこでも”。いつも肌身離さず持っているものに対して、どんなサービスを提供するかが大事」(石原氏)

 2つ目は“地域社会の発展”。情報発信の観点から見ると、地域から全国に配信する際には、携帯電話を持っている人すべてがターゲットになり、情報配信の機会が拡大するという見方だ。

 3つ目の“産業の振興・発展”については、「いかにオープンにするかが大事」だと石原氏。オープンなビジネスモデルの採用で市場が活性化すれば、価格が下がってさらにさまざまなプレーヤーが参入できるとし、それが「我々が思っても見なかったサービスが出てくる」(同)ことにもつながると予測する。

 4つ目は“文化・社会への貢献”。新たな文化を創造するためには、ユーザーが情報を発信できる環境を提供することが重要で、それがケータイを使ったモバイルマルチメディアの中でより活性化するというわけだ。

 5つ目に挙げるのは“国際競争力の向上”。国内の携帯市場が飽和に向かう中、日本が上向きになるためには「いかに国際競争力をつけるか」が重要で、そのためにも端末面ではグローバル展開が見込める技術の採用、ビジネス面では海外との連携、システム面ではプラットフォーム間の連携の3つがポイントになるという。

 「いかに世界で戦える技術をタイミング良く持ってこれるかが重要。事業者はユーザーにサービスを提供する上で、いかに安く仕入れるかが大事であり、それを実現するにはグローバルで展開できるかどうかがカギを握る」(石原氏)

 6つ目は“コンテンツ仕様の拡大”だ。携帯電話向けのコンテンツ市場は着実に成長しており、これを飛躍的に伸ばすためにも「オープンなビジネス環境」「新規参入の促進」「さまざまなビジネスモデルへの対応」といった要素が重要になるとした。



次世代マルチメディア放送を成功させるための必要条件

Photo 日本初のビジネスモデルを生み出すための必要条件

 次世代マルチメディア放送のあり方については、総務省が2007年8月から「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」を開催し、関連各社を招いて討議を行っている。

 石原氏はこの懇談会で方針を決めるにあたり、「競争政策の促進」「オープンなビジネス環境の構築」「技術の中立性」「国際連携」の4項目について、議論を尽くすべきという考え方を示した。

 “競争政策の促進”という観点では、周波数帯の割り当てに言及。モバイルメディア企画としては、小型端末でのマルチメディア放送を容易にするVHF帯ハイバンドの割り当てを望んでいるとし、207MHzから222MHz間の14.5Mを2つの事業者に割り当てるのが望ましいとした。

 「競争しないと新しいことは生まれず、価格も安くならない。懇談会では(技術方式は)1つにすべきという話も出ているが、私たちは2社以上に分けて競争になるのが望ましいと考えている」(石原氏)

 また、事業者間のイコールフィッティングについては、次世代マルチメディア放送が放送寄りの技術であることから、「いままでの放送事業者とは違う人が入った方がいいのではないか」という考えだ。石原氏は「手前味噌だが、私たちはブロードバンドの世界で実績があり、新しいことをやっていけると考えている。今までの放送業界の人を主体にするより、通信系の新しい人を入れた方が、新しい放送を切り開けると思っている」と自信を見せた。

 石原氏はまた、次世代マルチメディア放送は通信と放送の中間的なものであり、「法規制も中間的なものにしたほうがいいのではないか」とも付け加えた。「例えばDVDを買えばすぐ視聴できるコンテンツが、通信インフラや放送インフラを通して買うと全く違うものになるといったように、同じものに3通りの買い方があってそれぞれ違う規制がかかるのはまずいと思う。従来の放送の中にはいろいろな規制があるが、次世代マルチメディア放送については国として規制を設けるより、業界で自主規制を作ることによって秩序を作っていった方がいいのではないか」(石原氏)

 エリアカバーや技術基準についても、国が規定を作るのではなく事業者に任せたほうがよいサービスが生まれる可能性があるという見方だ。「例えば、1.7GHzの獲得に関わったとき、携帯電話のエリアカバーで行政が義務づけていたのは50%というミニマムな基準だったが、実際には他社との競争の中で各キャリアがカバーエリアを充実させていった経緯がある。政府の規定を高めに設定するのではなく、事業者が競争の中でカバーエリアを広げることが大事だと思っている。技術基準についても、国が1つの技術を選ぶのではなく、技術は中立で事業者が自由に選んでいい世界を作っていただきたい」(石原氏)



モバイルメディア企画が目指す“次世代マルチメディア放送”の姿

 こうした提言のもとでモバイルメディア企画が構築しようとしているのは、より多くのプレーヤーが参加できる次世代マルチメディア放送のビジネスモデルだ。「自前で手がける部分と貸し出す部分の大きく2つから成り、貸し出し部分では回収代行も提供するなど、いいコンテンツを持っているプレーヤーが入ってくることができるビジネスモデルを作りたい」(同)

 また、メールや通話と同じように、国内外でさまざまなコンテンツを視聴できる環境を用意することも検討していると石原氏は言う。「1台の端末で複数の携帯向け放送技術をサポートし、それらを連携させることで、いろいろな場所でいろいろなコンテンツを利用できるようにしたい。そのためには、海外の事業者と連携して環境を作り、簡単に見たいものにたどりつけるようなUIを作ることが重要」(同)

 こうした施策で日本発のコンテンツサービスのビジネスモデルを世界に展開し、マルチメディア放送サービスを通じてコンテンツサービスを世界に広げていきたいとした。


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