NECは4月8日、国内向け携帯電話の生産拠点であるNEC埼玉を報道陣に公開した。NECの国内向け音声端末はすべてここで生産されており、当日はNTTドコモ向け端末「N905i」の生産現場を見ることができた。
現在NEC埼玉ではN905iのほか、「N905iμ」「N705i」「N705iμ」などのドコモ向け現行機種と携帯電話基地局を生産している。そのほか、新モデルの試作機や店頭展示用の端末モックアップなども手がけているという。
NEC埼玉の設立は1984年。創業当初は、海外向けの自動車電話やパーソナル無線などを生産していた。1987年、海外向けモデルの生産を皮切に携帯電話の生産を開始し、1991年に初の折りたたみ型端末を生み出した。その後も、デジタル端末やiモード対応端末、カラー液晶搭載端末、3G(FOMA)端末、テレビ電話対応機器などを生産。NEC埼玉の歴史は、日本の携帯電話の歴史そのものと言えるだろう。NEC埼玉は現在の生産台数を明らかにしていないが、90年代後半には月産100〜120万を達成したこともあるという。
なお、移動体通信機器を生産するNECの関連会社には、NEC埼玉のほかにデータ通信カードなどを手がけるNECインフロンティアがある。
NEC埼玉社長の九鬼隆訓氏は、「自動車電話の生産からスタートし、一貫して携帯電話の生産を行っている。携帯電話の生産は、機種と台数の変動が大きいのが特徴。かつてはロボットが製品を組み立てる“無人工場”だったが、今は同じモデルを絶えず作るわけではない。変動する市場で常に新しい製品を送り出すには、人間の知恵に頼る必要がある」と話し、短期間での多品種大量生産を行う携帯電話ならではの工場であることを説明した。
現在NEC埼玉は、リアルタイムに部品が供給されるトヨタ自動車のジャストインタイム生産システム(カンバン方式)を採用。液晶ディスプレイなどの部品製造工程は自動機械、組み立て工程は少人数グループでのセル方式によって稼働している。大量の部品を倉庫に保管していたころと比べ、流通や棚卸しにかかるコストを大幅に低減させた。組み立てラインもベルトコンベアー方式時代は全長180メートルだったが、セル方式では6メートルですむという。
また、携帯電話を完成させてから検査して不良品を落とすのではなく、生産工程で異常を発見し、不良品の発生を予防しているのも特徴だ。組み立ての各行程ごとに試験を行って品質管理を厳格にすることで、万が一不良品が発生しても素早くフィードバックができるという。
もう1つの特徴が、携帯電話の組み立てを行うだけでなく企画と設計の段階から深く関わっている点だ。NEC モバイルターミナルプロダクト開発事業本部 事業本部長の田村義晴氏は、「NECにとって携帯電話開発のエポックといえるのが『N702iD』だった。デザインが優先され、決められたサイズに機能を詰め込まなければならない。こういった開発では、生産現場との密接な連携が必要だった」と明かした。
「どんなにいいコンセプト、デザインの企画であっても、最終的に生産できなければ意味がない。日本の携帯電話市場は今、大きな変化を迎えている。生産現場の重要性は日々増しており、NEC埼玉が持つ“ものづくり力”をもっと生かして行きたい。これからも商品の魅力とものづくり力の両輪で、わくわくする端末を次々と生み出していきたい」(田村氏)
NECが持つものづくり力が、いかんなく発揮されたのがサイズとデザインに厳しい制限が設けられた極薄端末「N703iμ」「N704iμ」と現行機種のN905iμ、N705iμだ。多数の部品が折り重なる携帯電話を薄く作るには、回路の集積技術や構造解析といった要素技術の蓄積が欠かせない。裏返せば、ものづくりの基礎となる要素技術の優位性をエンドユーザーに直接訴求でき、評価してもらえるわけだ。
NEC埼玉の携帯端末開発部技術課長の祐川正純氏は、「N705iμの最大のテーマは、10ミリを切る厚さに905iシリーズなみの機能をいかに搭載するか、だった」と振り返る。
多機能と薄型化は相反するもの。N703iμやN704iμでは、トレンドスペックといえるいくつかの機能が省かれていた。N705iμは“次世代のμ端末”として、3インチディスプレイやFeliCaチップ、HSDPAなどの新機能を厚さ9.8ミリのボディに詰め込んでいる。
「汎用的な部品のコネクタやスピーカーも、新たに薄型のものを開発した。回路の集積化もすすめ、LSIの上にもう1つのLSIを乗せたり、はじめからLSIを重ねて1チップ化するなどした。基板への実装方法も工夫して厚さが増えないようにしている。通常、携帯電話は端末ごとに最適化して設計するが、メイン基板を小さくしたことで、N705iμとN705iは共通の基板を使うことできた」(祐川氏)
薄型化と同時に懸念されるのが、端末の強度。N705iμでは3層構造のステンレス筐体を採用して薄さと強さと軽さを実現したが、この筐体開発に欠かせなかったのが、NEC埼玉の持つシミュレーション技術だ。
「設計段階からシミュレーションで強度を確認して開発した。試作を繰り返して弱点を突き詰めるのではなく、シミュレーションでウィークポイントを洗い出すフロントローディングという考え方。もちろん、試作機でも強度試験は行うが、シミュレーションで徹底的に“追い込み”をかけることで、現物による試験で確実に改善点を仕留めることができる。おかげで、厚さ9.8ミリ、重さ98グラムの“9898”ケータイを作ることができた」(祐川氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.