「Nケータイ」はメイド・イン・サイタマ――N905iは“人の手”が作っていた(2/2 ページ)

» 2008年04月10日 21時00分 公開
[平賀洋一,ITmedia]
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静電気厳禁のSMT行程

 NEC埼玉は納入された部材を使うだけでなく、自前で液晶ディスプレイなどを生産している。SMT行程と呼ばれる部門では、基板に集積回路を実装して携帯電話の基礎となる部品を作っている。

 このエリアに入るには、静電気を防ぐため1人づつ静電気除去装置に触れて放電する必要がある。さらに内部では、人体や機材に帯電しないよう、天井から定期的に水を噴霧して湿度を高めている。

 SMT行程の1番上流にあるのが、基板にハンダをプリントする印刷機。集積回路を乗せるパターンに従って、ごくわずかな量のハンダを塗りつける。その後基板は高速搭載機という機械に通され、必要な回路が乗せられていく。そのままではハンダと接合していないため、基板ごと炉に入れてハンダを溶かし、樹脂で固めて強度を高め、次の行程に送られる。

photophotophoto 基板にハンダを印刷し、回路を実装するSMT行程。ほとんど機械化され、このラインにはあまり人がいない(左)。静電気を帯びないよう定期的に天井から水が噴霧している(中)。自動機で基板にハンダをプリントする(右)

photophotophoto 基板に塗られた微量のハンダ。ハンダ付けではなくハンダ印刷と呼ぶにふさわしい(左)。基板の上に回路を乗せていく高速搭載機(中)。部品を保持したタレットが高速に回転して、次々と回路を乗せていく(右)

photophoto 部品の向きはさまざまなため、1つ1つ向きを検出して搭載される。モニタにその様子が映し出されるが、あまりに高速なためパラパラ漫画のようにみえる(左)。SMT行程の流れ(右)

クリーンルームで液晶ディスプレイを内製

 携帯電話の“顔”といえるのが液晶ディスプレイだ。NEC埼玉にはクリーンルームがあり、液晶パネルにフレキシブル基板を取り付け、さらにサブディスプレイやカメラを搭載してディスプレイユニットを組み立ている。ここでも行程ごとにチェックを行い、輝度にばらつきがあったり、ドットが欠けたディスプレイを落としている。

photophotophoto 液晶ディスプレイの内製ライン(左)。内部はクラス10000(1立方フィート=約30立方センチの空間に、0.5マイクロメートルのほこりが1万個以下)のクリーンルームになっている(中、右)。

photophotophoto 内部で組み立てられる液晶モジュール

チームワークで端末を組み立て

 最終的に工場内で作った部品や、納入された部品を組み合わせて製品を生み出すのが、組み立てラインだ。先述したように、ここでは少人数グループによるセル生産方式が取られており、1チーム5人が部品棚を前に並んで組み立てていく。

 部品は専用ラックで運ばれ、5分おきに供給される。基本的には手作業で部品を取り付けているが、ネジ止めなど自動化できることは機械化している。製造するスピードは1日(7.5時間)に1000台で、27秒に1台が組み立てられている計算だ。もちろん、ここでも部品を取り付けた行程ごとに機能試験を行い、不良品を落としている。

photophotophoto 外部業者からの部品は、写真のような通い箱や専用のケースに入れられて納入される。繰り返し使うため、梱包材など廃棄物を削減することができた(左)。「N905i」と「N705iμ」に使われている部品(中、右)

photophoto 組み立てライン。5人で1チームのグループ型セル方式を採用している(左)。部品棚を前に端末を組み立てる。自分の行程が終わったら、隣の人に手渡ししていく(右)

photophotophoto 組み立ては基本的に手作業(左)。治具に乗せられた生産途中の「N905i」ピンク(中)。ネジ止めなど、自動化できる部分は機械化されている(右)

photophotophoto 組み立てに必要な部品は、専用カートで運ばれてくる(左)。多いときには5分に一度、部品を供給(中)。部品トレーが空になると部品棚の下に落とされる。これを回収して、次回の部品供給に使う(右)

NECの“ものづくり力”を支える教育課程

 最終的な組み立てを人の手に委ねる以上、品質や生産速度に差を出さないよう、ラインに立つ人材の育成課程も重要だ。NEC埼玉はカンバン方式を採用していることから、トヨタ自動車の生産現場と同じ教育を行っている。

 実際のラインと同じ1チーム5人となり、部品棚に供給されるブロックを組み立ててトラックや自動車を組み立てていく。これを繰り返すことでカンバン方式によるセル生産を身に着けるのだという。

 例えば、自分の作業が終わって部品を隣の人に渡すときは、お互いに部品を両手で持つこと、部品の異常やうまく作業ができないときには、すぐにラインを止めて報告する、といったルールが決められている。また、作業を効率化する工夫やコツを見付けたらなるべく共有するなど、現場からのボトムアップも奨励されている。

photophotophoto ブロックを使ったカンバン方式流の教育課程をデモンストレーションしてもらった。(左)。5人が作業を分担して、ブロックを組み立てトラックを作る(中、右)

photophoto 行程が進むごとにトラックが形作られる

photophotophoto 壁に張られたものづくり教育のための資料(左)と、“カイゼン”を促すかるた(中、右)

生産ラインを素早く立ち上げ、すばやく終息させる

 NEC埼玉がカンバン方式とセル生産方式を採用したのは、いくつかの理由がある。1つは、製品寿命のサイクルが速いために需要予測が難しいことだ。

 新機種の生産を開始する場合、端末の発売日を基準にギリギリまで開発を行い、短期間で大量の端末を供給する体制を作り上げなければならない。もっと難しいのが、生産を終えるタイミングだ。端末の売れ行きと後継モデルの登場時期をの両方をにらみ、もっともコストがかからないタイミングで終息させる必要がある。生産量が足りなければ品切れとなって売り上げが上がらず、作りすぎれば在庫となって損失が生まれてしまう。

 また、複数の機種やカラーバリエーションを同時に生産しなければならないのも難題だ。作る品目が増えれば、それだけ組み立てに必要な部品の数も増えていく。大量の部品を自前で保管するにはコストがかかるため、生産数に応じてリアルタイムに納入を受ける体制が必要だった。

 NEC埼玉では、NECが国内に持つ物流ネットワークを駆使するだけでなく、近隣の部品メーカーに対して独自の物流ネットワークを持っている。中には、1日に10回も納品を行う便があるという。まるでコンビニのような忙しさだ。

 NEC埼玉のある幹部は、この工場を日本の携帯市場を移す鏡だと表現した。

 「海外の携帯電話は似たデザインの端末を長く作り続ける。だが日本の携帯電話は、数カ月後に新機能を搭載したまったく違うモデルが登場する。これだけバリエーション豊富な端末を大量に生産し、すばやく終息させるには、今のような体制がどうしても必要。そして、この過酷な携帯電話市場が、日本のものづくり力を支えていると思う」(NEC埼玉)

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