NEC埼玉は納入された部材を使うだけでなく、自前で液晶ディスプレイなどを生産している。SMT行程と呼ばれる部門では、基板に集積回路を実装して携帯電話の基礎となる部品を作っている。
このエリアに入るには、静電気を防ぐため1人づつ静電気除去装置に触れて放電する必要がある。さらに内部では、人体や機材に帯電しないよう、天井から定期的に水を噴霧して湿度を高めている。
SMT行程の1番上流にあるのが、基板にハンダをプリントする印刷機。集積回路を乗せるパターンに従って、ごくわずかな量のハンダを塗りつける。その後基板は高速搭載機という機械に通され、必要な回路が乗せられていく。そのままではハンダと接合していないため、基板ごと炉に入れてハンダを溶かし、樹脂で固めて強度を高め、次の行程に送られる。
携帯電話の“顔”といえるのが液晶ディスプレイだ。NEC埼玉にはクリーンルームがあり、液晶パネルにフレキシブル基板を取り付け、さらにサブディスプレイやカメラを搭載してディスプレイユニットを組み立ている。ここでも行程ごとにチェックを行い、輝度にばらつきがあったり、ドットが欠けたディスプレイを落としている。
最終的に工場内で作った部品や、納入された部品を組み合わせて製品を生み出すのが、組み立てラインだ。先述したように、ここでは少人数グループによるセル生産方式が取られており、1チーム5人が部品棚を前に並んで組み立てていく。
部品は専用ラックで運ばれ、5分おきに供給される。基本的には手作業で部品を取り付けているが、ネジ止めなど自動化できることは機械化している。製造するスピードは1日(7.5時間)に1000台で、27秒に1台が組み立てられている計算だ。もちろん、ここでも部品を取り付けた行程ごとに機能試験を行い、不良品を落としている。
最終的な組み立てを人の手に委ねる以上、品質や生産速度に差を出さないよう、ラインに立つ人材の育成課程も重要だ。NEC埼玉はカンバン方式を採用していることから、トヨタ自動車の生産現場と同じ教育を行っている。
実際のラインと同じ1チーム5人となり、部品棚に供給されるブロックを組み立ててトラックや自動車を組み立てていく。これを繰り返すことでカンバン方式によるセル生産を身に着けるのだという。
例えば、自分の作業が終わって部品を隣の人に渡すときは、お互いに部品を両手で持つこと、部品の異常やうまく作業ができないときには、すぐにラインを止めて報告する、といったルールが決められている。また、作業を効率化する工夫やコツを見付けたらなるべく共有するなど、現場からのボトムアップも奨励されている。
NEC埼玉がカンバン方式とセル生産方式を採用したのは、いくつかの理由がある。1つは、製品寿命のサイクルが速いために需要予測が難しいことだ。
新機種の生産を開始する場合、端末の発売日を基準にギリギリまで開発を行い、短期間で大量の端末を供給する体制を作り上げなければならない。もっと難しいのが、生産を終えるタイミングだ。端末の売れ行きと後継モデルの登場時期をの両方をにらみ、もっともコストがかからないタイミングで終息させる必要がある。生産量が足りなければ品切れとなって売り上げが上がらず、作りすぎれば在庫となって損失が生まれてしまう。
また、複数の機種やカラーバリエーションを同時に生産しなければならないのも難題だ。作る品目が増えれば、それだけ組み立てに必要な部品の数も増えていく。大量の部品を自前で保管するにはコストがかかるため、生産数に応じてリアルタイムに納入を受ける体制が必要だった。
NEC埼玉では、NECが国内に持つ物流ネットワークを駆使するだけでなく、近隣の部品メーカーに対して独自の物流ネットワークを持っている。中には、1日に10回も納品を行う便があるという。まるでコンビニのような忙しさだ。
NEC埼玉のある幹部は、この工場を日本の携帯市場を移す鏡だと表現した。
「海外の携帯電話は似たデザインの端末を長く作り続ける。だが日本の携帯電話は、数カ月後に新機能を搭載したまったく違うモデルが登場する。これだけバリエーション豊富な端末を大量に生産し、すばやく終息させるには、今のような体制がどうしても必要。そして、この過酷な携帯電話市場が、日本のものづくり力を支えていると思う」(NEC埼玉)
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