その先に業界の明るい未来は待っているのか──総務省の評価会議モバイルビジネス活性化プラン評価会議 第2回

» 2008年07月02日 01時12分 公開
[石川温,ITmedia]

 総務省が7月1日、「モバイルビジネス活性化プラン評価会議」の第2回会合を開催した。この評価会議は、2007年にモバイル業界についてさまざまな議論が行われ注目を集めた「モバイルビジネス研究会」の成果として2007年9月に発表された「モバイルビジネス活性化プラン」が、その後どのように機能しているかを評価する場として位置づけられている。

 2007年1月から9月にかけて開催されたモバイルビジネス研究会では、販売奨励金によるユーザー間の不公平感の解消、MVNOの促進などが議論され、その結果「モバイルビジネス活性化プラン」がまとめられた。SIMロック解除の議論は、2010年までの検討課題となっている。

 その後、通信料金と端末代金を分かりやすく分離するという視点から販売奨励金制度が見直され、一足先に割賦販売制度を導入していたソフトバンクモバイルに続き、ドコモも分離型の料金プランと割賦販売制度を用意。今年の夏モデルからはauも割賦販売制度を導入し、端末の代金は月々支払う通話料とは分けて支払う形が一般的になったのは周知のとおりだ。

 モバイルビジネス活性化プラン評価会議では、これらを踏まえて携帯電話市場がどう変化してきたか、そしてそれは正しい方向に向かっているのかを議論する場になる。第1回目は3月6日に開催されており、今回が2回目となる。冒頭、総務省からこれまでの進捗状況が語られた。

PhotoPhoto モバイルビジネス活性化プラン評価会議と、モバイルビジネス研究会に引き続き座長を務める東京大学名誉教授の齊藤忠夫氏

販売モデル、販売奨励金、MVNOには進展──フェムトセルは秋にガイドライン策定

 販売モデルの見直しに関しては、総務省は「KDDIが割賦販売方式を導入したことで、各社とも割賦販売が出そろい、端末代金は分離されつつある。家族間通話無料も入ってくるなど、料金の多様化も進んでいる」という見解だ。

 販売奨励金の見直しについては、キャリアの会計整理の明確化が要請されているが、こちらも「販売奨励金を電気通信事業ではなく、付帯事業の費用とするように改正した。08年度会計から適用されるので、来年の6月には各社で改正後の数字が出てくるはず」と総務省の担当者は話す。

 MVNO事業は「今年に入って、ISPを中心にして、MVNOマーケットへの進出が始まっている。これまでにMVNO事業化ガイドラインを策定し、2008年5月に2回目の改訂作業を行ったところ。キャリア各社にはMVNOへの卸売りに対して標準プランの策定と窓口の明確化するように要請している」(総務省)という。

 またモバイルビジネスにおける市場環境整備を進めるため、総務省では「通信プラットフォーム研究会」で現在、検討を進めているという。研究会に参加するオブザーバーからプレゼンテーションをしてもらい、今後、自由討議、主要論点の整理に入る。

 ほかにも、IDを自由に持ち運びができる「IDポータビリティ技術」の標準化、端末およびサービスの機能保証に関する責任分担モデルの検討などが発表された。また、オープン化を前提とした2.5GHz帯による広帯域移動無線通信の事業化計画、地域WiMAXの免許の状況が明らかにされた。

 フェムトセルに関しては「基地局はレンタルと売り切り制の2つの方式を導入する。本年秋を目途に運用ガイドラインを策定する」と明言。

 また、消費者への接点を充実させるための検定試験は、「販売員、相談員の資質を見るもの」(総務省)として、民間の検定を総務省が後援する運営方針を2月25日に発表した。現在MCPC(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム)が主催するケータイ実務検定(仮称)の後援が確定している状態だ。

場合によっては方向転換か、このままでいくか議論が必要──NRI 北氏

 総務省からの報告のあと、生活経済ジャーナリストの高橋伸子構成員から検定試験について「検定における後援はどのようなものになるのか」という質問が飛んだ。それに対し総務省では「資金的な支援はない。すでにキャリアごとの試験が存在するので、総務省としてはキャリアにとらわれない公正中立性が担保されているかどうか、端末やサービスの基礎知識、迷惑メールや端末リサイクルなどに関する知識をバランスよく持っているかを見る」としている。

 リーマン・ブラザース証券アナリストである津坂徹郎構成員からは「販売奨励金の分離モデルだが、きちんとNTTドコモとauの割賦販売方式が端末と通信料金を分離しているのに対し、ソフトバンクモバイルは(端末価格と料金を組み合わせて)柔軟にできる分離モデルのようなものになっている。これに対する総務省の意見を聞かせてほしい」という指摘があった。

 総務省は「ソフトバンクモバイルの新スーパーボーナスでは通信料金と端末価格がクロスしている。(昨年のモバイルビジネス研究会では)まずは端末価格と料金を分けるというのがあった。ソフトバンクモバイルの端末全体の価格は見えている。それをどう考えるのかという問題。モバ研ではそのあたりまで、議論できてはいない」と答えた。その上で、東京大学名誉教授の齋藤忠夫座長は「ほぼ分離するものがでてきた」と現状を評価した。

 各社が割賦販売制度を導入したが、「しっかりと数字を示して議論して評価すべき」と指摘したのが、野村総合研究所の上級コンサルタントである北俊一氏。「まだまだ各キャリアは試行錯誤が続いているように思う。(販売奨励金の見直しに向けて)キャリアが動いたが、実際、ユーザーはどう評価しているのか。我が国のケータイ産業が活性化に向かっているのかどうか、数字を示して議論したいと前回の会合で発言したが、いつからできるのか」と総務省に問いかけた。しかし、総務省では「まだ、そのような数字は持ち合わせてない」とした。

 神戸大学大学院法学研究科の泉水文雄教授から「北さんとしては、どのように現状を見ているのか」と聞かれた北氏は「ユーザーは初期費用が安いものに反応する。かつては、半年前のモデルを0円で買うという意見が多かった。その点、割賦販売制度の導入後は初期費用が0円になっており、割賦で買う人が多くなってきた。店頭では7〜8割が24カ月の分割払いで購入している。仮に端末代金が5万円だとすると、24回で割ると(分離プラン導入前と月々の負担は)そんなに大きな差にならない」と現状を分析した。

 「ユーザーは2年以上使うと考え、いい端末を買うようになっている。全部入り、ハイグレードな傾向が何ら変わっていない。昨年、モバ研で考えていた『日本の端末はハイエンドに偏りすぎており、逆に海外では高機能すぎて買ってもらえない。ミドル、ローが流通すればいい』という議論があった。そのため、端末価格が見えるようにして、安くなるかと思っていたら、割賦販売制度が入ったことで、逆の方向になってしまった。しかも2年縛りになって買い換え、機種変更市場が激減している。特にソフトバンクモバイルが激減している。端末の販売台数が今年は減るだろう」(北氏)

 さらに「今年から来年にかけて端末の動きが鈍くなる。メーカー、代理店の淘汰が起きると予想され、今は我慢の時。それを乗り越えたからといって、明るい未来があるかどうかは見えていない。いまの販売方式がいいのか、悪いのかという結論は現状では下せない。市場の状況を共有して、場合によっては方向転換、もしくはこのままでいくのかを議論しなくてはいけない」(北氏)と話した。

MVNO協議会、MCF、デジタルメディア協会が現状と課題を報告

 後半はMVNO協議会、モバイル・コンテンツ・フォーラム、デジタルメディア協会からプレゼンテーションが行われた。

 MVNO協議会からは「MVNO推進への課題」として、接続技術と開発費負担、料金、制度、端末の4つの視点から問題提議が示された。

 特に開発費負担に関しては「キャリアのシステムは自前で使うことを前提にしているので、(MVNO事業者など)他社が使えるようにするには開発費を負担しなくてはならない。最初に走っているMVNO事業者は費用負担ばかりがかかっている」と不満を述べた。また、これまで日本通信はNTTドコモとの交渉を進めてきたが「他社にも接続約款を用意してほしい」と語った。

 モバイル・コンテンツ・フォーラムからは「コンテンツビジネスから見たモバイルビジネス活性化のために必要な方策」というテーマでプレゼンテーションが行われた。ネットワークやプラットフォームに公平性を求めたいとして、NTTドコモで導入されようとしているメニューリストのオークションによる広告媒体化に懸念を示した。通信事業者は広告収入が期待できるものの、コンテンツプロバイダは広告費用を限界まで負担しなくてはならず、結果、ユーザーの利用料金アップにつながりかねないというのだ。

 デジタルメディア協会からは「オープンなビジネス環境構築における懸念点」として、端末支配がもたらす懸念点などが語られた。

 その後の議論の場では津坂氏からMVNO協議会に対し「MVNOのビジネスサイズの需要をどうとらえているのか。そもそも、ビジネスサイズがキャリアにアピールできていないから、交渉が難儀しているのではないか」という質問が出た。それに対し、MVNO協議会は「MNOには需要予測を提出している。この数字をどう評価するのかはMNOに聞いてみないとわからない。しかし、MNOから見て、最大顧客になるのは間違いない数。その辺のやりとりはしている。

 販売奨励金が見直されたことで、海外から日本に独自の端末をもってきたいというメーカーが多く、MVNOの市場規模は活発化している。海外から20〜30社が日本に参入したいという。日本に入るとき、ネットワークが調達できないのであれば、MVNOと組むことで実現できるようになる」として、MVNO市場の可能性を示した。

 第3回目の評価会議は9月下旬に開催される予定だ。

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