価格競争力に強み、「日本の端末メーカーの世界進出をサポートしたい」――インフィニオン 横山氏ワイヤレスジャパン2008 キーパーソンインタビュー(1/2 ページ)

» 2008年07月09日 07時00分 公開
[元麻布春男,ITmedia]
Photo インフィニオンテクノロジーズジャパン コミュケーションソリューションズ事業本部長の横山崇幸氏

 ドイツのInfineon Technologies(インフィニオン テクノロジーズ)は、旧Siemensの半導体部門が1999年に独立して設立されたメーカーだ。以前はメモリの製造も行っていたが、メモリ部門は2006年5月にQimondaとして別会社化を図った。現時点ではInfineonはQimondaの株式を7割以上保有しているが、早期に株式を売却し、完全な独立会社となる予定だ。またこの影響で、Infineonは一時的に半導体会社の世界売り上げランキングで15位以下へと落ちてしまったが、現在はロジックを主力とする半導体メーカーとして、再び世界のベスト10へ復帰している。

 同社の半導体事業の主力となっている製品の1つが、携帯電話向けチップセットに代表される無線通信分野だ。Infineonの日本法人、インフィニオンテクノロジーズジャパンで無線通信分野を担当する横山崇幸コミュケーションソリューションズ事業本部長に、ワールドワイドと日本市場での同社の狙いを聞いた。

総売り上げ高より、注力する市場セグメントでの上位ランク入りを目指す

ITmedia まずはInfineonについて、その概要を教えてください。

横山崇幸事業本部長(以下横山氏) Infineonはドイツのミュンヘンに本社を置き、ヨーロッパ各国はもとより、北米・南米、アジアにセールスオフィスならびに研究拠点を持つ半導体メーカーです。現時点での従業員数(ワールドワイド)は約3万人となっています。今年第1四半期の売り上げは約1600億円ほどでした。

 事業戦略としては、半導体市場全体での市場シェアや総売り上げ高にこだわるより、注力している市場セグメントで上位にランキングされることを目指しています。特定のセグメントで上位3社に入れないようでは、事業として継続的な利益を上げていく見込みが薄いという判断からです。現在、パワーICやチップカード、有線通信(ISDN/ADSLなど)、ワイヤレスRFチップといった市場分野で1位、車載用IC、産業用IC等の分野で市場2位となっています。

 世界中で使われているすべての携帯電話のうち3分の1から4分の1に、当社のRFチップが使われているのではないでしょうか。産業用ICで変わったところとしては、Microsoftのワイヤレスマウスに当社のASICが使われています。

ITmedia チップカードというのは具体的にはどのような製品でしょう。

横山氏 FeliCaやMIFAREのような近距離無線(NFC)、パスポートに組み込まれるICチップ、RFID、あるいは携帯電話のSIMカードなどの総称です。SIMカードの市場シェアは1位で、国内ではNTTドコモにも採用されています。この種の製品に求められるセキュリティは、インフィニオンが得意とする技術分野の1つです。vProをはじめ企業向けのPCに使われているTPMチップでもInfineonは高いシェアを持っています。

ITmedia Infineonにおける通信関連事業の比重はどうなっていますか。

横山氏 2007年第2四半期の売り上げに占める通信事業の比率は24%でした。これが2008年第2四半期には29%を占めるまでに成長しており、今後もこの傾向が続くと予想しています。当社は“ティア1”と呼ばれる世界のトップメーカー5社、Nokia、Samsung、Motorola、Sony Ericsson、LG Electronicsのすべてに製品を供給中です。ただし残念ながら日本法人で通信事業が占める比率は5%ほどで、楽ではありません。

ITmedia その理由は何なのでしょうか。

横山氏 Infineonはヨーロッパの会社ですから、欧州発の規格であるGSM/GPRSに注力していたことが理由の1つだと思われます。日本ではGSM/GPRSは採用されませんでしたから。また政策的に3Gへの取り組みが少し遅れたことも、日本でのシェアが低くなってしまった理由でしょう。

ITmedia 3Gへの取り組みが遅くなったのはなぜですか。

横山氏 政策として、3Gへの取り組みより2Gのワンチップ化を優先させた、ということです。当社の強みは、製品の高いコスト競争力にあり、それを生かす戦略を選んだことになります。ただし、現在は3G対応製品も提供しており、競合に対し追いついたものと自負しています。さらに次の世代のLTEについても積極的に開発を行っているところです。

3G向け製品をワンチップ化――HSPAにも対応

ITmedia インフィニオンが展開している携帯電話関連製品の特徴について教えてください。

横山氏 最大の特徴は、RFチップ単体からプラットフォームまで、トータルで提供できる、ということです。ここでいうプラットフォームとは、チップ、基板、ソフトウェア、テスト、外装まで含んだフルパッケージを指します。通信キャリアのテストまで行ったプラットフォームを供給可能なメーカーは、あまり例を見ないのではないでしょうか。これによりメーカー側でのテスト負担を大幅に削減することが可能になります。ドライバのカスタマイズを行い、プラットフォームを拡張できるのも、当社の特徴です。各種プロトコルスタック(ソフトウェア)を単体の製品としてオープンマーケットで販売できる会社としても、ほとんど唯一の存在だと思います。

 もう1つの特徴は、先ほども述べました製品の高いコスト競争力です。当社のワンチップソリューションは、RFとベースバンド、さらにパワーマネージメント機能を1チップ化したもので、エントリークラスの携帯電話を極めて安価に製造することを可能にします。現在は、GSM/EDGEに対応した2.75G品までワンチップ化されており、低価格な携帯電話に広く使われています。昨年は欧州を中心に5000万個を出荷しましたが、今年は東南アジア向けにも出荷が開始されるため、大幅な伸びが期待されています。こうしたボリュームゾーン向けのチップは、Infineonが最も得意とするところです。

Photo インフィニオンのチップセットを採用したパナソニック モバイルコミュニケーションズ製のソフトバンクモバイル端末「820P」

ITmedia 3G対応製品はいかがでしょう。

横山氏 今のところ、3G対応製品は3チップで構成されています。このワンチップ化を2009年の後半をメドに行う予定です。この製品はHSPAに対応するもので、3.5G品ということになります。その次のLTE(3.9G)についても、単に製品化するのではなく、コスト価値の高い製品を提供したいと考えています。

ITmedia では、苦戦されているという国内市場について、どのように考えていらっしゃるのでしょう。

横山氏 残念ながら、市場全体の規模という点では、日本市場はそれほど大きくありません。しかし、携帯電話向けの最新技術が採用され、最先端のサービスが提供される市場として、注目度は高くなっています。そのような市場向けに製品を提供することには大きな意義があると思っていますし、そこからの経験や技術蓄積をフィードバックすることで、日本法人がInfineonグループに貢献できると思っています。LTEについても、日本のパートナーと協力したいと考えているところです。

ITmedia 国内向けの端末で、具体的な採用例について教えていただけますか。

横山氏 Infineon製のチップセットを採用した携帯電話としては、パナソニック モバイルコミュニケーションズがソフトバンクモバイル向けに提供している「820P」が挙げられます。820Pは、全キャリアの全端末中の売り上げナンバーワンを8週連続で記録するなど、大ヒット作となりました。当社とパナソニック モバイルのおつきあいはこの5年ほどですが、今後もさらにパートナーシップを強化していけたらと思っています。

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