端末ベンダーから“端末+サービス”ベンダーへ――新戦略に舵を切るNokiaThe Way We Live Next 2008

» 2008年09月26日 14時25分 公開
[末岡洋子,ITmedia]
Photo Nokia上席副社長のヘイッキ・ノルタ氏

 Nokiaが9月23日、24日の両日、フィンランド・ヘルシンキで「The Way We Live Next 2008」を開催し、同社の今後のビジョンを説明した。

 この7月にAppleの「iPhone 3G」が登場し、9月23日には米GoogleのAndroid携帯「G1」が発表されるなど、携帯電話を取り巻く環境は劇的に変化している。これまで最大手携帯電話メーカーの地位を守ってきたNokiaだが、市場シェアの予想を下方修正するなど、予断を許さない状況だ。こうした中、Nokiaはどのような戦略でシェアトップの座を維持しようとしているのか。戦略を統括する上席副社長のヘイッキ・ノルタ氏が、“携帯電話メーカーからサービス+端末ベンダーへの転身”を図るNokiaの戦略について語った。

 Nokiaの事業を語る上で欠かせないのが、同社の青いロゴの下に書かれている「Connecting People」というフレーズだ。コンシューマーを相手に事業を展開するNokiaは、いつも消費者を中心に据え、その動向を見ながら戦略を変えてきた。近年も、“人々を結びつける”ことをテーマに課題を見据えて、徐々に戦略の変更を図っている。現在、同社がフォーカスするのは、コンシューマー向けのインターネットサービスだ。

 ノルタ氏はコンシューマー中心主義の例として、Nokiaが2007年末に発表したエコ携帯電話「Nokia 3110 Evolve」を挙げる。この端末は、再利用可能な素材を約50%採用し、消費電力を20%削減するなど環境に配慮しながら、端末の機能やパフォーマンスも充実させたのが特徴。市場の反応は予想以上に良いという。また同社は、“革新的なサービス”として、無料の無制限音楽ダウンロードサービス「Comes With Music」を年内にも提供する予定だ。

 Nokiaでは戦略を形作るにあたり、“コンシューマー主導の技術革新”を模索するための消費者調査を行っている。世界27カ国で展開する大規模なもので、端末そのものやサービス、そして生活全般についてトレンドを探る。このところのトレンドとして挙げられるのは“二極化”だとノルタ氏。技術に敏感で新しいサービスや機器を率先して使う“テクノロジーリーダー”層はさらにその傾向を強める一方、実用性を重視するユーザーはこれまで以上に“実用的かどうか”を重視しているという。「市場はこれまでになく多様化している」(ノルタ氏)。もう1つのトレンドが“ソーシャル”だ。SNSは、一過性のものではなく、コミュニケーションに深いインパクトを与えているという。

 「インターネットは、“普及”というこれまでの流れに加え、“消費”の時代に入りつつある。本格的シフトは始まったばかりだ」とノルタ氏は分析する。

 Nokiaはここで、“Connect”の実現を目指す考えだ。それには、これまでの“人々”に加え、ユーザーが関心ある“こと”も含まれる。ノルタ氏は「“Connecting People”はそのままに、新しく、よりよい方法で実現していく」とし、この概念が現在のNokiaの羅針盤になっていると話す。

“Connecting People”のカギは“端末+サービス”

 “Connecting People”の実現に向けてNokiaが取り組んでいるのが、デバイスとサービスの提供だ。これは、よりソリューションにフォーカスしたものになり、サービスを密に統合して収益を得るモデルを構築しようというわけだ。すでにこの取り組みは、サービス、ゲームなどのリッチコンテンツや広告の収入を増加させているという。

 ここで戦略の柱としてノルタ氏は、(1)消費者との信頼関係(2)最高の携帯電話(3)コンテキストに沿ったサービス の3つを紹介した。消費者との信頼関係では、単に携帯電話を販売するという1度きりの関係ではなく、サービスを通じて継続的に消費者とかかわっていく。最高の携帯電話は、端末そのものの改善を図ることで、Nokiaがサービス戦略を展開する上では携帯端末のシェアが大きな強みとなる。「サービスで成功するためには、携帯電話での成功は不可欠」とノルタ氏は強調する。

Photo 世界各地のNokiaのシェアを示したグラフ

 “コンテキストに沿ったサービス”は、サービス事業を強化するにあたってのNokiaのアプローチの方向性を示すものだ。「単にPCのデスクトップで利用していることをモバイルで提供するのでは意味がない。携帯電話でしか実現しないこと、携帯電話によりメリットが大きくなることなどにフォーカスする」(ノルタ氏)

 コンテキストサービスとは、現実世界と仮想世界を橋渡しするもので、Nokiaはその要素となる「堅牢なサービスインフラ」「広告ベースの事業モデルの確立」「オペレータとのWin-Win関係」を実行に移すとしている。

 「Nokiaには、コンテキスト資産がある」とノルタ氏。Nokiaの携帯電話には、すでにGPSや端末IDなど個々のユーザーを認識する技術が組み込まれている。これがサービス分野での強みになるとノルタ氏は言う。

 ノルタ氏はここで、すでに展開している実際の製品やサービスを紹介した。「Nokia Maps」は現在150カ国以上の地図を提供しており、うち70カ国でナビゲーション機能を提供している。「Nokia Music Store」は今年前半に11カ国で展開、年内に20カ国に拡大するという。「N-Gage」のゲームタイトルは現在約30がラインアップされ、年内に50に増やす計画だ。メディアアーカイブ/共有サービスの「Share on Ovi」もサービスが始まっている。

 端末は、最先端のマルチメディア機能を搭載した技術志向者向けの「Explore」、ビジネス層向け「Achieve」、メタルなど独自素材や音楽機能などで差別化を図る「Live」、一般的なユーザーをターゲットとしながら妥協のない機能を持つ「Connect」、それにエントリーモデルの5つのセグメントを用意し、多様化するニーズに対応する。

 ノルタ氏が端末側の課題として挙げるのは、UI、デザイン、プラットフォームの競争優位性をいかに保つか、という点だ。プラットフォーム面では、ノルウェーのTrolltechの買収で得た資産を生かしてプラットフォームの効率化を図ることで付加価値の創出に注力できるとする。NokiaはS30、S40、S60、それにMaemoの4種類のソフトウェアプラットフォームを展開しており、それぞれが最適なセグメントで利用されている。

Photo Nokia端末のセグメント(左)とセグメントごとのソリューションポートフォリオ

 アプリケーション側では、登録者が現在350万人というデベロッパープログラム「Forum Nokia」を通してモバイルアプリケーションの開発をサポートしている。「このプログラムが開発から市場への投入までを支援し、エコシステムの確立に貢献している」(ノルタ氏)。Nokiaはさらなる技術革新を促すべく、今年9月にはヘルシンキで約40人のブロガーを集めてアイデアを議論する「Nokia Open Labs」も開催している。

 Nokiaは1960年代後半、それまでのケーブルとゴムの製造事業にエレクトロニクス事業を加え、それが今日の携帯電話メーカーへの転身のきっかけとなった。「40年前、現在のNokiaの姿は考えられなかった。これから40年後には、少なくとも同じような規模の変貌をとげているだろう」とノルタ氏は展望した。

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