目指すは米国App Storeナンバー1──ハドソン 柴田氏が語る「iPhoneアプリにかける思い」ゲームプラットフォームとしてのiPhone(1/3 ページ)

» 2008年10月20日 20時30分 公開
[園部修,ITmedia]

 「めちゃめちゃ面白いデバイスが登場した」──。2007年7月、ニューヨーク出張で渡米した折、ハドソン 執行役員 NC本部本部長 兼 宣伝本部 本部長の柴田真人氏は、Appleが発売したばかりの初代「iPhone」を見てそう感じたという。

 ハドソンといえば、ゲーム専用機向けタイトルからPC向けのオンラインゲーム、携帯電話向けアプリまで、幅広く手がけるソフトウェアベンダーとして知られる。「ボンバーマン」や「桃太郎電鉄」といった人気のゲームタイトルや「高橋名人」など、ちょっとゲームが好きな人なら必ず聞いたことのある“ブランド”を持つ同社だが、実はiPhoneおよびiPod touch向けにも、Appleが2008年7月11日にApp Storeを開設した当初から、積極的にゲームアプリを投入している。

 ハドソンがリリースしているiPhone/iPod touch用アプリ(以下iPhoneアプリ)は、現在10種類。いずれもiPhoneやiPod touchのモーションセンサーやタッチスクリーンを活用した、“ほかの機種ではできない”独特の操作感をうまく取り込んだ、楽しめるタイトルとなっている。同社の定番キャラクター、ボンバーマンが登場する「BOMBERMAN TOUCH -The Legend of Mystic Bomb-」にしても、フリックやタップといった新しい操作体系を取り入れており、新たな発見がある。そうかと思えば「Catch The Egg」のような、今までのゲーム機にはなかった、シンプルながら奥が深いオリジナルのタイトルも展開し、ユーザーを驚かせてくれる。

 国内の大手ソフトウェアベンダーの中でも、特にiPhoneアプリの開発に積極的な姿勢を見せるハドソンは、iPhoneのどこに魅力を感じ、どんな可能性を見いだしているのか。ハドソンの柴田氏に話を聞いた。

Photo ハドソン 執行役員 NC本部本部長 兼 宣伝本部 本部長の柴田真人氏

現地の盛り上がりから直接感じ取った「iPhoneの面白さ」

 冒頭でも述べたとおり、柴田氏が最初iPhoneに興味を持ったのは、たまたま発売直後の2007年7月にニューヨークへ行く機会があったからだという。2007年6月29日午後6時から販売が始まったAppleのiPhoneは、全米を巻き込む熱狂とともにユーザーに迎えられた。ニューヨーク出張の際に、現地のApple StoreでiPhoneを触り、また肌で直接その盛り上がりや熱を感じて、「漠然とではあるものの、何か面白いことができるのではないかと思った」(柴田氏)という。

 当時はまだ、iPhone向けにアプリケーションを供給する仕組みなどは全く明らかにされておらず、具体的にどうすればいいか、といったことも全く分からない状態ではあった。しかし、とにかくiPhoneの面白さや、iPhoneに対するユーザーの盛り上がり方が深く印象に残ったそうだ。

 そうこうするうちに、動画投稿サイトYouTubeで「iPhone Magic」という動画が話題になった。iPhone Magicは、実はiPhone上で動画を再生し、再生される動画に合わせてさまざまなパフォーマンスをすることで、まるでiPhoneがX線カメラになったり、振るとアイコンがバラバラになったりするように見せた映像だが、きっと初めて見た人は「本当にiPhoneでそんなことができるのか?」と驚かされたに違いない。2007年6月30日の投稿以来、490万回以上も再生されている有名な動画の1つだ。

 これを見て柴田氏は、iPhoneを「友達に見せたり、自慢したりするツールとして使うと面白いのではないか」と考え、ハドソンでも「touch Trix」という映像を作って無償で配布したところ、非常に好評で、手応えを感じたという。

 そこでハドソンは2007年12月、iPod touchとiPhoneのユーザーをターゲットにしたサイト「Do the Hudson!!(β)」を立ち上げた。「いつになるかは分からないが、いずれ日本でもiPhoneが発売されるだろう。そのときはハドソンとしていろいろできることがあるはず、と考えた」(柴田氏)。ここではtouch Trixシリーズの動画や、WebブラウザのSafariを使って遊べる無料ゲームなどを用意し、柴田氏が「2008年末くらいまでには出てくるのかな、と思っていた」という日本でのiPhone発売までに準備を整え、国内である程度のポジショニングを確保しておこうと考えていた。

すぐにでも動かないと、日本は負ける──率先して取り組んだアプリ開発

 しかし2007年10月、AppleはiPhoneのネイティブアプリケーションを開発できるSDKを公開するとアナウンスしていた。そして2008年3月、AppleはiPhone向けのソフトウェアアップデート「iPhone 2.0」のβ版をリリースすると同時に、SDK(ソフトウェア開発キット)と開発者向けのサポートプログラム、そしてアプリケーションを配布するための「App Store」を発表。Webブラウザベースで何かできないかといろいろ検討していたハドソンにとっても、SDKの公開は大きなインパクトがあった。

 「SDKが公開される前から、Jailbreak(編注:「ジェイルブレイク」と読む。本来はできない、自作アプリケーションをiPhoneにインストールする方法がいくつか用意されているが、これらは俗に「脱獄」を意味する“Jailbreak”と呼ばれている)には注目していて、研究もしていました。その頃から、これはきっと面白いことができる、iPhoneはとんでもないマシンかもしれないと感じていました。そこへきてSDKの発表があり、驚いたのを覚えています。すぐにでも動かないと、日本は負ける、そう思いました」(柴田氏)

 2007年秋の時点では、日本でiPhoneに注目していたのはごく一部の人たちだけであり、さらにJailbreakに至っては、本当に一部の人間しか注目していなかったと柴田氏は振り返る。しかし、YouTubeや海外のコミュニティでは、Jailbreakについてものすごい盛り上がりがあり、さまざまな取り組みもされていて、コンテンツも数百タイトルが出ていた。「このままいったら日本は押される」──。そう考えた柴田氏は、SDKを使ったアプリの開発に真っ先に取り組むことを決めた。注目している人が少ないことは、日本の開発者としてはチャンスだとも考えたという。

 ハドソンはApp Storeの公開と同時に、「BOMBERMAN TOUCH -The Legend of Mystic Bomb-」「AQUA FOREST」「SUDOKU」の3タイトルの配信を開始した。2008年10月の時点では、これら3タイトルに加えて、「パズループ」「花札狂」「ネオサメガメ」「Catch The Egg」「うひうひキャノンボール」などをリリースしている。またSUDOKUは第3弾の「nikoli SUDOKU(数独) Vol.3」へと進化、パズループの入門編として、Endless Mode部分のみがプレイできる「パズループ Endless」なども提供している。

Photo App Storeで配信されているハドソンのタイトルは現在14本

まだまだ“チャレンジ”の部分が大きいiPhoneアプリ開発

 ではハドソンは、iPhone向けのアプリ開発を、社内でどう位置づけているのだろうか。柴田氏は「いろいろな意味で、まだまだチャレンジという要素が大きな部分を占めていますが、iPhoneに関して間違いなく言えるのは、ワールドワイドをターゲットにしたビジネスである、ということです」と力説した。

 「携帯電話向けアプリのように、対キャリアのビジネスとは明らかに違います。iPhoneのアプリを開発するときは、全世界のお客様に向けてこのコンテンツが受けるのか、という議論をします。海外の人にどうウケるのか。北米の人たちにとって、その価格は最適なものなのか、といった目で評価することになります。ポータブルゲーム機向けのゲーム開発に近い部分はありますが、やはりiPhoneは全く新しいメディアだと感じています」(柴田氏)

 特に大きいのは、やはりiPhoneという1つのプラットフォーム向けに配信できることと、App Storeという配信の仕組みが用意されていることだという。日本で携帯電話向けにゲームを配信しようとすると、特定のキャリア向けに、1コンテンツプロバイダとしてアプリケーションを配信することになる上、それぞれ微妙にスペックが異なる端末でも問題なく動作するよう、膨大な数の端末に個別に対応する必要がある。検証作業にもかなりの時間を割かなくてはならない。

 こうした特殊な事情から、携帯電話向けアプリは、ある意味その構造によって守られていて、先行者利益が大きく、ある程度の収益確保も容易という側面もある。しかし柴田氏は、海外でもビジネスを展開してきた経験から、「こうしたモデルはいずれどこかで限界が来る」という。

 「本来、コンテンツプロバイダのビジネスはコンテンツが主導であるべきです。でも、キャリアとの関係が何よりも重要になってしまうと、コンテンツプロバイダの中でも何かずれていってしまったりすることが起こり得るんです。もちろん、キャリアと一緒にビジネスをするモデルも重要ですし、それを無視したりするつもりはありませんが、一方で、我々が自分たちで直接世界のお客様にコンテンツを届けられるプラットフォームには非常に大きな可能性があると思います」(柴田氏)

 iPhoneアプリの場合は、世界中のユーザーから開発元に直接フィードバックが来る。もちろん「動かない」「使えない」といった問題が起きているユーザーには、メールベースとはいえ直接サポートすることになる。これは非常に大変な作業のはずだ。しかし柴田氏は、「その大変さ以上に魅力や可能性があって面白さを感じています」と話した。

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