第25回 スマートフォンは“2台目市場になる”という予感小牟田啓博のD-room

» 2008年10月21日 09時09分 公開
[小牟田啓博,ITmedia]

 皆さんお元気ですか? 最近は「スマートフォン」が何かと話題になっていますよね。今回は、そのスマートフォンについてお話ししてみたいと思います。

日本のケータイ市場で「BlackBerry Bold」は受け入れられるのか?

 7月11日にソフトバンクモバイルから「iPhone 3G」が発売されて以来、日本国内でもスマートフォンの話題を頻繁に耳にするようになりました。

 海外では、スマートフォンはいわゆるビジネスユースの高性能な携帯電話のことを指すそうです。でも、日本では携帯電話がそもそも高性能なので、少し違った意味合いを感じますね。

 スマートフォンの定義は、厳密に定められたものはありません。ですから、海外の端末メーカーなどに言わせれば、日本の携帯電話はすべてスマートフォンという見方もできます。しかし、国内ではある意味、メーカーやキャリア側が“スマートフォンだ!”と言えば、スマートフォン端末になっているように感じます。

 さて、そんな定義の難しいスマートフォンですが、今回はスマートフォンを「ハンドセット仕様(編注:ダイヤルキーを備えたいわゆる“電話っぽい”端末)をのぞく、キャリアサービスに依存しない端末」として話を進めていきたいと思います。

ドコモ、ソフトバンクからも発売が決まった「Touch Diamond」。写真はイー・モバイル仕様の「S21HT」

 前述の定義に則すと、iPhone 3Gは当然のことながら、BlackBerryの新モデル「BlackBerry Bold」やイー・モバイルがすでにリリースし、NTTドコモやソフトバンクモバイルからの発売も予定されている「Touch Diamond」などが、この範疇に入ってきます。

 これまでスマートフォンというと、ビジネスパーソンや、かつて「PDA」などを使いこなしていたヘビーユーザー層に向けた端末というように、割と限定されたイメージが濃かったのですが、最近は普通にケータイを使っている人たちも興味を示し始めているようです。

 また昨今では、通話やメールは従来のケータイを使い、Webブラウジングやメール添付、各種データを閲覧する場合はスマートフォンを使う――といったように、利用シーンや用途に応じて端末を使い分ける人たちも増えています。

 日本の市場では、まだスマートフォンは主流とは言いがたい状況ですが、欧米を中心とした海外ではかなりメジャーな存在で、ヨーロッパの空港や街中ではBlackBerryを始めとするスマートフォンを使うビジネスマンの姿をよく見かけます。離陸直前に飛行機に乗り込んだ人が大きな手でスマートフォンを操り、大きな声で通話する――。こんな光景も、海外ではよく見かけます。そんなシーンに接すると、欧米では、“デキるビジネスマンはスマートフォンを使っている”という印象を受けてしまいます。

 さて、僕の中でスマートフォンの代表格といえばBlackBerryです。折りたたみでもスライドでもないストレートタイプで、大きな横型画面に「QWRTYキーボード」という、少々不恰好とも思えるこの端末は、欧米では何年も前からメジャーな存在でした。

個人向けにも発売されるドコモ仕様の「BlackBerry Bold」

 日本の市場では法人向けとしてドコモが「BlackBerry 8707h」を販売しており、9月29日には、ドコモが2009年3月までにBlackBerryの最上位機種BlackBerry Boldを、法人と個人向けに発売することが発表されました。

 世界的に見れば特殊とも言われる日本のケータイ市場で、このBlackBerryがどれくらい受け入れられるのかは、僕だけでなく多くの人たちが興味を持っていることでしょう。

 BlackBerry Boldのデザインの特徴は、フェイスの大部分を占めるキーボードです。良くも悪くもこのキーボードがBlackBerryのデザインを特徴づけるものになっています。ある程度制限のある本体サイズの中で、押しやすさを両立させたキーを搭載する必要があることから、このよう“キーがザーッと並んだ”デザインになったのでしょう。

 このあたりに、日本のユーザーが違和感を覚えるのではではないかと思いますが、一方で、フルキーボードによる入力に慣れたユーザーは、思いのほか使いやすさを感じる仕様なのではないでしょうか。このデザイン的違和感と実操作の感覚に市場がどのように反応するのか……。まずは興味深いところです。

国内では売られていない“僕が気になる”海外のスマートフォン

 もう1機種気になっている端末があります。それは全世界に向けて展開されているHTCのTouch Diamondです。日本市場でも、主要キャリアからの発売が決まっている端末で、僕としてはブラックのボディーが魅力的だと思っています。

 特に注目なのは背面デザイン。一見フラットな背面が微妙な凹凸の三角形だけでデザインされており、この三角形で構成された立体造形がとても美しいのです。この形状は二次元設計をしていた時代には不可能な造形で、三次元検証のできる今の技術だからこそ生まれてきたハイレベルなデザインといえるでしょう。

 カメラ部のデザインにも多数の三角形の1つが取り込まれていて、飽きのこない面白みのあるデザインがこの端末の特徴です。そういった意味で、イー・モバイル仕様の同モデル「S21HT」は背面がフラットなデザインなので、造形的な特徴を味わえない点がちょっと残念でなりません。

海外で売られている「Touch Diamond」の背面は文字通り、微妙な凹凸の三角形で構成されたデザイン(左)が特徴だが、イー・モバイル仕様の「S21HT」は背面がフラット(右)

 画面のユーザーインタフェース(UI)も、本体と同様ブラックで統一されたシンプルなデザインで、端末に独特の世界観をもらたしています。これはタッチパネル搭載端末や大画面系端末の特徴でもあるのですが、黒基調というテイストは画面を違和感なく大きく見せる効果もあって、本体にうまく溶け込んでいるのではないかと思います。欲をいえば、黒基調の中にもオリジナリティーのあるUIが盛り込まれているといいのですけどね。

 さらに、日本には入ってきていませんが、外見がBlackBerryに似たデザインのNokiaの「E71」という端末があります。実は、これもちょっと気になっています。

 特別にデザインオリエンテッドな端末ではないのだけれど、BlackBerryと同様にQWERTYキーボードを装備していながら薄型ボディに仕上げており、外装にステンレスを採用しているのも特徴の1つです。側面のディテールはともかくとして、ステンレスの質感は相当高く、“この質感が故”の端末として満足感が増してきます。質感だけで言えば間違いなくBlackBerryに勝るでしょうね。

 できれば側面や背面も、正面同様にステンレス仕様だったら相当驚かされたでしょうけど、まぁ通信端末ですから全面を金属で覆ってしまうわけにはいきません。こればかりは仕方のないところです。BlackBerryの日本市場での反応がどうかにもよるのかもしれませんが、NokiaのE71は国内でも意外と受け入れられそうな気がします。

 もう1つ、こちらも日本市場への導入が未定の端末ではありますが、英Sony Ericssonから発売された「XPERIA X1」も気になっています。

Sony Ericssonらしい緻密なデザインが特徴の「XPERIA X1」

 Windows Mobile搭載のタッチパネルとスイングタイプのフルキーの両刀を使うタイプ。Sony Ericssonらしい緻密なデザインです。この端末、実際に手にとって見たことはありません。でも、スマートフォンとしてSony Ericssonらしいセンスで仕上がっていれば、いい付き合いのできる端末だと思います。

 デザイン的には、画面下部にレイアウトされた二等辺三角形を組み合わせたキーが面白いですね。こちらはTouch DiamondのHTCが製造を担当しているようなので、SonyEricssonなりのオリジナリティーがどの程度出ているのか、実機をぜひ触ってみたいところです。

米T-Mobileから発表された、通称「Google Phone」とも言われる「G1」

 ここで少し前にニュースが流れた、通称「Google Phone」についても触れておきたいと思います。米Googleが開発した携帯電話向けアプリケーションプラットフォーム「Android」を搭載したというHTCの「G1」がそれです。

 端末に関する情報がほとんどありませんので、想像の域を出ませんが、何といってもあのGoogleのネットワークサービスが使えるということがとてつもない魅力です。特にGoogleマップの「ストリートビュー」の活用範囲は想像を超えたものになると考えられるでしょうね。“モバイルが人の生活を大きく進化させる”可能性を秘めており、この辺りには期待を寄せています。

 インタフェースデザインだけでなく、デザイン面でも魅力を持たせてほしいものですね。とにかく日本市場での登場が待ち遠しい端末の1つです。

アプリケーションの充実こそが、ケータイの2台目市場拡大につながる

 ここまでざっと、スマートフォンについて触れてきました。僕がスマートフォンに注目しているのは、実はスマートフォンが、ケータイの“2台目市場の拡大”につながるものとして期待できるのではないかと感じているからです。

 冒頭でも少し触れましたけど、なじみのあるケータイと、もっと細分化したアプリケーションと付き合えるスマートフォンを、用途やシーンによって使い分けるという利用スタイルが出てきていると思います。

 iPhone 3Gに代表されるような、さまざまなサービスやアプリケーションをユーザーが必要に応じて自ら追加していくというスタイルは、“これまでのケータイから一歩進んだ付き合い方”と言えるのではないでしょうか。キャリアが販売する端末しか使えず、あらかじめ決められたサービスしか利用できなかった日本のユーザーから見れば、異端のように感じるかもしれません。

 その一方で、iPhone 3Gや「Windows Mobile」搭載モデルといったスマートフォンは、“アプリケーションの充実=端末の魅力”という構図があり、これはPC市場と非常に似ています。そしてそこでは、アプリケーションの充実こそが“端末普及のための大前提”であったのです。

 この観点からすると、これまでキャリア主導の市場が形成されていた日本では、スマートフォンの普及という構図がいま1つピンときませんでした。ところがグローバル展開するメーカーがワールドワイドで展開しているエコシステムとともに日本に上陸するとなると、ユーザーにとっての魅力度は今までの見え方とは次元の違うものに映るわけです。

 いわゆるケータイ、というイメージからすると違和感を覚えるかもしれない端末だって、例えばAppleやGoogleなど、普段PCなどで慣れ親しんだOSやサービスのシステムそのものを携帯でそのまま使えるとなると、身近なイメージで付き合えるのではないでしょうか。

 ここで微妙に勘違いしてしまいそうなのが、ハード的な面だけを見ると、かつてのPDAと重ねてイメージしてしまいがちということです。それはまったく違っていて、OSやサービスがさまざまなアプリケーションの開発を促進し、それがスマートフォン拡大のスパイラルにつながるというエコシステムが、根底に存在しています。旧来のPDAとは、普及に向かう上での構造が異なる思うのです。

 また端末のフォームファクターも、折りたたみ型、ストレート、スライド、タッチパネル対応のフルスクリーン、横スライドなど、実にいろいろなスタイルが登場しています。ユーザーの利点が多岐に渡って細分化してくる以上、それぞれの用途をより快適に使いこなすための手段として、ピタッとくるフォームファクターを考えるべきでしょう。

 スマートフォンだけがケータイの2台目市場になるとは思いません。しかし、その可能性が高いことも事実だろうと思っています。

 ユーザーからすれば、単なる端末、単なるサービス、といった一元的な付き合い方以外の魅力的な選択肢が増えることは歓迎すべきことです。幅広い価値観や独自の世界観を味わえる。それには方法論やベクトルはいろいろ出てきてよいはずです。

 ケータイの出荷台数が前年同月比で約半数に減少しているとか、割と閉じてしまったかのように思える日本のケータイ市場ですが、進化の矛先はまだまだアイデア次第ではたくさんあるのではないか。そう思えて仕方ありません。

PROFILE 小牟田啓博(こむたよしひろ)

1991年カシオ計算機デザインセンター入社。2001年KDDIに移籍し、「au design project」を立ち上げ、デザインディレクションを通じて同社の携帯電話事業に貢献。2006年幅広い領域に対するデザイン・ブランドコンサルティングの実現を目指してKom&Co.を設立。日々の出来事をつづったブログ小牟田啓博の「日々是好日」も公開中。国立京都工芸繊維大学特任准教授。


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