第23回 需要が拡大するタッチパネルでiPhoneを越える端末作り小牟田啓博のD-room

» 2008年08月29日 09時48分 公開
[小牟田啓博,ITmedia]
「iPhone 3G」

 今年の夏も、夏らしい猛暑でしたね。東京では雨が続いて、だいぶ涼しくなってきました。皆さんいかがお過ごしでしょうか。

 前回は発売されたばかりの「iPhone 3G」について、“Apple流”のモノ作りを話しました。そこで今回は、iPhone 3Gでもプロダクトの特長の1つになった「タッチパネル」について触れてみたいと思います。

薄型化によるデバイスの進歩が端末進化に貢献

Samsung電子のタッチパネル搭載端末「OMNIA」

 端末メーカー各社が続々と投入するニューモデルの中で、タッチパネルを使った端末が目立ってきています。

 7月22から24日まで東京ビッグサイトで開催された「ワイヤレスジャパン2008」でも話題をさらっていたSamsung電子の「OMNIA」は、iPhone 3Gの対抗機種候補として最有力モデルだと言えるでしょう。

 そのほかタッチパネル搭載端末としては、NTTドコモの「SH906i」、ウィルコムの「WILLCOM 03」など、シャープが頑張って商品化を進めています。

 古くはJ-フォンのDP-212という、ダイヤルキー部がタッチパネルディスプレイになっていたパイオニア製の端末がありました。でも、当時としてはまだ早過ぎたのか、実際に使っている人をほとんど見かけることはありませんでした。今考えても結構斬新なモデルだったのでは、と思いますけどね。

 ケータイ以外では、ご存じ「ニンテンドーDS」がタッチパネルインタフェースを使った独自のゲーム機で、世界的にもメジャーな存在です。ニンテンドーDSは、世界で最も売れたタッチパネル搭載機の1つと言えるかもしれません。

 銀行のATMや鉄道の券売機もタッチパネルを使った機器としておなじみの存在です。ずっと以前から普及しています。

 中でも一般的なのは銀行のATMではないでしょうか。当初のATM端末のタッチパネルは、ユーザーが画面に触れると、ごく薄い空間のある2枚のパネルが触れて、その座標を感知し、位置を検出していくというアナログ的なものでした。

 これに対して今のタッチパネルというのは、静電容量方式や超音波表面弾性波方式など、いろいろな方式で電気的にタッチを検知するものが多いようです。最近ではシャープの光センサー内蔵液晶のように、液晶パネル自体が直接イメージセンサーとなるものまで開発されていて、随分と技術は進化してきています。

 ケータイのように小型で薄型な製品の場合、タッチパネルデバイスの薄型化による進歩が、タッチパネル搭載モデルの進化に大きく貢献していると言えるでしょう。

「SH906i」(左)と「WILLCOM 03」。共にシャープが商品化を進めている

ニーズは高いが「汚れる」「傷がつく」「バッテリーの減りが早い」に不満

 今回iPhone 3Gが登場したことによって、タッチパネル搭載端末の需要が拡大しました。これに合わせて各方面で研究が盛んに行われています。

 マイボイスコムが2008年6月1日から6月5日までに行った回答者数1万3960人の調査「タッチパネル搭載型モバイル機器」によると、タッチパネル搭載端末を使ってみたいと考えているユーザーが57%近くになるという結果も出ているようで、これを見てもタッチパネルを搭載したケータイに注目が集まっていることが分かります。

 さらにこの調査では、29.6%の人がタッチパネルのほかにテンキーを搭載した端末を、18.5%の人がタッチパネルのほかにフルキーボードを搭載した端末を今後利用してみたいと答えており、8.8%の人がiPhone 3Gのような「タッチパネルのみの端末」を利用してみたいと回答しています。

 これを見てみると、タッチパネル搭載端末に対する注目は上がってきているものの、入力に対する不安があると推測できます。

 タッチパネル入力の不安点としては、47.6%の人が「画面が汚れそう」を挙げており、このほかに「バッテリーの消耗が早そう」「思い通りにボタンを選ぶことが難しそう」「画面に傷が付きそう」など、技術的な課題や汚れや傷に対する声も上がっています。

「バッテリーの消耗が早そう」という点に関しては、ディスプレイを操作に使うインタフェースなので、普通の端末より画面の点灯時間が長くなってしまうことに加えて、操作自体に電力を使うので、避けられない部分です。タッチパネル搭載端末としては、メインのインタフェースになりますから、バッテリーの消費効率向上というのは技術的な課題でしょうね。

 それから、画面が汚れることや画面に傷が付くことに関しては、どうしても物理的な問題でもあり非常に難しい部分です。これは美しい光沢塗装などとも同じ悩みなのですが、表面をきれいに仕上げれば仕上げるほど、ちょっとした傷が目立ちやすくなって、指紋もよく吸着してしまうのです。

 結果、“画面が汚れてしまう”という課題が付いて回ります。塗装も黒や濃い色ほど指紋や傷が目立ちやすいという問題があります。このあたりは永遠の課題であるとはいえ表裏一体の問題でもあるので、各業界で急ピッチの改善研究がされている部分です。ユーザーとしては、一刻も早く改善してほしい重要なポイントだと思います。

 かつてPDAのタッチパネルによる入力操作は、キーを打ち込むという入力に対し、フラットな画面に直接書き込むペン入力が主流でした。

 当時は、より手帳やメモ帳に近い感覚を、という考え方で各モデルが開発されていたようです。ですから、端末のパフォーマンスの大きな部分が文字認識技術に割かれていた時代だったと言えます。

 シャープの「Zaurus」やカシオ計算機の「CASSIOPEIA」、Appleの「Newton MessagePad」などがその代表です。ちなみにCASSIOPEIA A11、A51は僕がカシオに在籍していた当時、デザインを担当したモデルです(これらのモデルはペン・キー併用タイプでした)。

 この当時のタッチパネルには、汚れや傷を防止するためにノングレア処理という表面処理が施されていました。このノングレア処理は、表面が細かくザラついた処理を施してあるもので、ハードに使い込んでいくと表面が膜状剥離してしまうという欠点がありました。

 また、このザラついた表面が画像の輝度を低くしてしまうため、画面の美しさが損なわれてしまうという面もあるのです。こういった観点から、今のタッチパネルにはノングレア処理は採用されていないのだと思います。

ハードの進化に合わせたソフトの作り込みが鍵

 僕がタッチパネルの進化を感じる大きな部分は、インタフェースとしてのデザインが独自の進化を遂げている部分だと思っています。

 特にiPhone 3Gの場合、指でなぞるようにページを送ったり、マルチタッチパネルによって2本の指で画像の拡大や縮小ができたりする部分など、“面白さ”の演出がうまくデザインされているところに、大きな魅力を感じます。

 ただ入力を行うというだけでは、単にキーボードがなくなっただけになってしまいます。しかし、画面を直接タッチすることで、オリジナルの操作感を採用し、キー入力とは違った操作性を手に入れる事ができます。ここにしっかり向き合って取り組んできたAppleだからこそ、オリジナリティの高い製品が完成したのでしょう。


 さてこの独自の進化を遂げたタッチパネル搭載端末ですが、次なる大きな進化に向けて新たなる一歩をまさに踏み出し始めた時期だと言えます。今、タッチパネル搭載端末に求められるのは、ハードとしての進化に加えて、インタフェースの進化だと思います。

 インタフェースは、ハードと違って個々のモデルごとに作り込みをすれば完成するというたぐいのものではなく、既存の基本構造をベースにして作りかえをする部分を、深堀りして書き変え書き加えしていくような手法で開発されます。

 操作して反応する画面ごとに、すべてのページを作り込む必要のあるタッチパネル向けのソフトウェアは、それほど膨大な作業量が発生するわけです。

 そのため、ハードが進化したかに見えて、意外とインタフェースが進化していないように感じる場合などは、ソフトが進化していないことが背景にあります。

 逆に、ハードの進化はそれほどでもないのに、ものすごく操作性が向上した、あるいはインタフェースが進化したと感じる場合などは、しっかりとしたソフトウェアのバージョンアップが実現している場合が多いものなのです。

 理想を言うと、ハードの進化に合わせてインタフェースを含めたソフトの作り込みが必要で、どこまで階層深く入り込んでも、しっかりとした満足感を得られる端末作りができれば、魅力的な端末が完成します。

 逆に開発プロセスから言えば、新しいソフトとインタフェースをしっかり作って、その進化に合わせてハードのデザインやカラーリングなどで魅せていく、そんなイメージでしょうか。

 どんなコトが実現できて、どんな魅力を手に入れることができるのか。これを打ち立てた企画を起こして、インタフェースでその魅力を堪能でき、ソフトはどこからどこまでも抜かりがなく作り込まれている。そしてハードはオリジナリティと魅力にあふれた競争力を持っていて、かつ飽きのこない普遍性すら兼ね備えている、そういった端末開発が、今後は求められてきます。

 タッチパネル搭載型ケータイの歴史は、まだまだ始まったばかりです。

 これからどんな端末が登場してくるのか、楽しみはとても大きいわけですが、市場にほとんど行き渡った感のあるケータイは、ちょっとやそっとの“変わった端末”ではすぐに飽きられてしまいます。見てよし、触ってよし、さらには使って使い倒してなお飽きのこない愛着の持てる端末、そんなケータイの登場が待たれています。

 魅力あふれる端末を打ち出すためにも、今後はインタフェースデザインの拡充が不可欠です。

 キャリアや端末製造メーカーには、ぜひ思い切った企画モデルを、ハイレベルなインタフェースデザインで登場させてほしいものです。皆さんと一緒に見守って行きたいと思います。

PROFILE 小牟田啓博(こむたよしひろ)

1991年カシオ計算機デザインセンター入社。2001年KDDIに移籍し、「au design project」を立ち上げ、デザインディレクションを通じて同社の携帯電話事業に貢献。2006年幅広い領域に対するデザイン・ブランドコンサルティングの実現を目指してKom&Co.を設立。日々の出来事をつづったブログ小牟田啓博の「日々是好日」も公開中。国立京都工芸繊維大学特任准教授。


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