今回紹介するアプリは「デジタル大辞泉2009i」。AppStoreで2000円で販売されている。先日ご紹介した「大辞林」と同様の国語辞典アプリで、小学館の「大辞泉 増補新装版」がベースとなっている。7560円の辞書が2000円で購入できる点だけでもとてもお買い得だが、このアプリのポテンシャルはそれだけにとどまらない。
デジタル大辞泉の使い勝手はとてもシンプルだ。辞書メニューは検索としおりの2つだけ。大辞林のような見出し語のインデックスはない。もちろんインクリメンタルサーチが活用できるので、言葉をすべて入力する前にリストから選ぶこともできる。
検索して出てきた言葉が前後に付いたり、類語がある場合は、画面の右下にタブが表示される。それをタッチすると関連語一覧のパレットが現れる。もちろんその中から言葉を選んで意味を調べることも可能だ。また検索中に「+」ボタンを押せばその項目がしおりに追加され、「しおり」をタッチすればいつでもその言葉にアクセスできるようになる。
よくよく見ると、とても凝ったインタフェースデザインを行っていることに気づく。まず画面上部の、和紙にあるようなテクスチャーを持ったほどよい赤みのタイトル部分。一般的なアプリは、ここは青いグラデーションになっているが、国語辞典っぽい重厚な面持ちを見せている。さらに、項目のリストを区切る線。これも実線ではなく、ややかすれている線になっている。
このアプリを開発したのは、以前本連載で紹介した「Orb Clock」の開発元、HMDTだ。HMDTの代表取締役 木下誠氏は、デジタル大辞泉 2009i開発のポイントをこう語った。
「日本っぽい漢字と高級感のあるデザインを実現するため、SDKの機能を上書きして作っています。またフォントは既存のものに加えて、100文字程度をビットマップで作りました。例えば魚のアラ(魚偏に荒)や藤子不二雄A(○の中にA)などです」(木下氏)
さらに22万語の検索が1秒でできるというスピードへのこだわり、部分一致検索への対応、表記揺れへの対応など、辞書検索アプリとしての性能を押さえつつ、オリジナルのインタフェースの美しさに磨きをかけた。
辞書画面でiPhoneを横長に構えると、2ペインで左に検索見出し、右に言葉の内容を表示するモードに切り替わる。キーボードも大きくなり、さらに使い勝手が向上する。HMDTらしいアプリデザインによって、日常使いたい辞書とiPhoneの相性を高めているのだ。
デジタル大辞泉アプリにはもう1つ魅力がある。それは「ゲーム」だ。
「せっかく日本語の辞書があるのだから、日本語で遊ばなければならない、と思いました。難読漢字では、読みが難しい漢字とその意味が出題されて、その読み方を答えます。もし分からない場合は、そのまま辞書検索して読み方を学ぶことができます。またクロスワードパズルは、辞書の項目からその都度クロスワードを自動生成しますので、何度でも遊ぶことができます」(木下氏)
確かに国語辞典は、日本語の言葉をほぼ網羅するデータベースだ。これを活用したクイズをその場で作り出して遊べるようにする、というのは“目から鱗”だった。内蔵ゲームで利用するカタカナ専用のキーボードも自家製なんじゃないだろうか。
国語辞典を調べるだけでなく、遊びながら学ぶ機能まで持たせることに成功したデジタル大辞泉2009i。年間2回のデータ更新まで行われ、それ以降の最新版を利用したい場合は、次年度版を改めて購入する仕組み。電車の中での時間つぶしで、日本語力までアップさせてしまうなんて、いかがだろうか?

解説は縦画面のほか、横画面で見ることも可能。縦画面ではインデックスが左側に表示されたままになるなど、表示方法が変わる。ちなみに写真の「藤子不二雄(A)」の“○で囲まれたA”など、一部のフォントはデジタル大辞泉2009iが独自に用意している


国語辞典のデータベースを生かし、難読語を問題にしたゲームやクロスワードパズルを内蔵しているのも面白い。難読語は分からなければもちろんその場ですぐ辞書で調べることができる。クロスワードパズルは、辞書のデータから自動生成されるため、何度でも楽しめる東京、渋谷に生まれ、現在も東京で生活をしているジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ(クラブ、MC)。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。1997年頃より、コンピュータがある生活、ネットワーク、メディアなどを含む情報技術に興味を持つ。これらを研究するため、慶應義塾大学環境情報学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。大学・大学院時代から通じて、小檜山賢二研究室にて、ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性について追求している。
第14回 時を告げるiPhoneに覚える興奮──「Orb Clock」
第21回 美しい文字で日本語空間を再発見する──「大辞林」
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