5月19、20日に開催された開発者向けイベント、Google I/OではサプライズとしてWiMAX対応の最新Android端末「HTC EVO 4G Sprint」が参加者全員に配布された。30日間利用できるキャリア契約付きで配布され、すぐに最新のAndroid端末の世界を体験することができたので、ファーストインプレッションをお届けしたい。
HTC EVOは米国で6月4日に発売される予定の“次世代のAndroid端末”とも言える端末だ。NTTドコモが秋に出すサムスン電子製の「Galaxy S」と合わせて、いま世界のスマートフォンファンの注目を集めている。
何が注目かというと、とにかくスペックが豪華ということが挙げられる。
まず画面がデカい。iPhoneの3.5インチ、480×320ピクセルに対して、EVOは4.3インチ、800×480ピクセル。ピクセル数比ではiPhoneの2.5画面分で、実際の見た目、持った感じも「ふたまわり大きい」感じがする。女性の利用者の限界はそろそろ超えたのではないかとも思えるが、端末をポケットに突っ込む男性なら大丈夫だろう。確かにiPhoneよりゴソゴソはするし、ポケットの底のたわみ具合もやや大きい。しかし、耐えられないほどではない。
Webページのロードやレンダリングが非常に速いこともあって、ちょっと大げさに言うと「極小のiPad」とも言える感じがある。モバイル向けにデザインされたページでなくても、通常のPC版Webサイトで十分にオッケーという印象だ。やや字が小さいとは言え、部分拡大やリサイズなしに、そのままWebページを見る気になれるという意味で、手のひらに載る端末で初めてフルブラウザを体験した、と言ってもいい。iPadは家族や友人と画面を共有できるところがほかにない魅力だが、例えば一人暮らしの男性であれば、私はiPadでなくても画面の大きなAndroid端末で十分だと思う。むしろ身に付けることができる端末のほうが機動性があっていいのではないだろうか。
ともあれ、スマートフォン市場には、iPhoneとiPadの間、4〜6インチ程度のところに、まだまだ可能性がありそうに思える。モバイル向けプロセッサの高速化が著しいので、大画面化は必然のはずだ(と書いていたら、デルから5インチのAndroid端末「Dell Streak」が発表された)。
HTC EVOのプロセッサは1GHzのSnapdragonで、800万画素のカメラは720pのHD動画が撮影できる。HDMI出力も備えていて、撮影したHD動画をテレビなどで見ることができる。正面には130万画素の自分撮り用のカメラもある。720pといっても、動画デジカメなどと比べるとノイズが多く、色に深みもない。一時期の日本のケータイ同様に、スペックの数字に走ったかな、という印象だ。
ちなみに背面にはスタンドがあって、テレビや動画視聴に適した置き方ができるようになっている。米国ではSprint TVというネットワークテレビに対応している。少しニュースやドラマを見てみたが、画質はワンセグのほうがちょっと上という感じ。
もう1つのHTC EVOの注目ポイントは、WiMAX搭載端末というところ。もちろん、3G(EV-DO Rev A)、Bluetooth、Wi-Fi(802.11b/g)にも対応するが、Android採用のスマートフォンとしてはWiMAX対応は世界初だ。
モバイルWiMAXはLTEと同様に3.9Gということになっていたと思うのだが、4Gという命名はどうしたものかと思う。この辺りはマーケティング上の命名ということで、ご愛嬌なのだろう。
スプリントは米国の複数の都市でWiMAXサービスを開始しているが、サンフランシスコは近日サービス開始予定ということで試してみることはできなかった。下り最大10Mbpsということで、かなり高速なようだが、ポイントは、混雑が常態化してしまった都市部において、まだ比較的余裕があると思われる新興の無線サービスである、というところだろう。
米国でiPhoneを提供するAT&Tは、サンフランシスコで非常に嫌われているようだ。あまりにネットワークの品質が悪く、「遅い、つながらない、電話すらつながらない」と評判は散々だ。なぜ過去2年間であれほどiPhoneを売りまくったのに、シリコンバレーのお膝元であるサンフランシスコで設備投資をしてこなかったのだと、iPhoneに飛びついたアーリーアダプターたちはイラついている。WiMAXは、それ自体の通信速度も速いが、まだユーザー数が少ない周波数帯域を利用できることから、こうした都市部では快適となる可能性がある。そういうところではWiMAX対応は歓迎されるかもしれない。
WiMAXがいい具合に都市部の3G端末を救うかもしれないというのは、日本でも事情は同じだ。HTC EVO 4Gが日本のUQコミュニケーションズで使えたとしても私は驚かない。むしろ、親会社のKDDI(au)がスプリントと同じくEV-DOの3Gネットワークを展開していることを考えると、HTC EVO 4Gがauブランドで登場してもおかしくない。スマートフォンで出遅れたauにとってHTC EVO 4Gは挽回の切り札となり得るし、同時にUQコミュニケーションズのWiMAXの販促にもつながる一石二鳥の端末だ。
つまり、秋にはNTTドコモからGalaxy Sにぶつけて、auからHTC EVO 4Gが出てくるかもしれない。iPhone 4Gと合わせて、日本のスマートフォン市場は盛り上がりそうだ。
私はEVOを数日ほど使ってみたが、あまりに快適で、もはやこれまで使ってきたiPhone 3Gには戻りたくない、というのが端的な感想だ。処理速度が高速で、何をやっても速いし、やはりマルチタスクによる複数アプリの切り替えは便利だ。画面が大きいためWebブラウジングも非常に快適だ。
急いで付け加えると、これまで私が2年ほど使ってきたのはiPhone 3Gで、メモリ128MB、動作クロック412MHzのもの。高速化したiPhone 3GSはメモリ256MB、動作クロック600MHzと言われているので、そもそも私が使っているものが1世代遅れということはある(3GSは家族が使っているので触ったことはあるが、常用していないため私には比較できない)。また次世代のiPhone 4Gは800MHz〜1GHz程度のプロセッサを搭載するだろうから、「HTC EVOはカッ飛びだ!」という印象を私が受けたのは、単に2年前の遅いスマートフォンと比較した話に過ぎないということかもしれない。同じSnapdragonの1GHzプロセッサを搭載するNexus OneやHTC Desireを使っている人にHTC EVOに触ってもらうと、画面が大きく非常に見やすいということは指摘するものの、「やや速いかな」という程度の感想だったことを付け加えておく。もう1つ付け加えると、米国でAndroid端末普及に大きく貢献したモトローラのDroidは、HTC EVOやNexus Oneに比べて目に見えてもっさりしている。ただ、Droidは物理キーボードが付いているということで、BlackBerryからの乗り換え組も多いようだ。
速度以外の面でも、やはりAndroid端末がいいなと思えることが増えてきた。Androidにある自由さが、いい方向に働いてきているように思えるからだ。
日本語入力の「simeji」、Twitterアプリの「twicca」、言わずと知れたWebブラウザ「Opera mini」などは、標準アプリやシステムアプリと無関係に、ある意味では独自の世界を切り開きつつあるいい例だ。
simejiはフリック入力も可能な日本語入力ソフトだが、iPhoneと違う点がある。それはケータイ打ちをオプションとしている点だ。iPhoneで「ははは」と打つのは実は難しい。フリック入力モードはケータイ入力を兼ねているので、3回連続で打鍵すると「は→ひ→ふ」となってしまい「ふ」の一文字しか入らない。このため、明示的に矢印キーを押すか、いったんセンター位置から指をずらして再びセンターに戻すというジェスチャーをする必要がある。
妥協案としてはそれでもいいが、こういうところで不自由を押し付けられるのが私は好きではない。選択や設定ぐらいさせてほしいと思う。
「それはsimejiというアプリの話でしょ?」と思う人もいるかもしれないが、それは違う。入力ソフトというシステムに近いソフトウェアでも開発者にオープンにされているからこそ、こうした自由があるということだ。
さらに、simejiでは上下左右のカーソルキーを使うこともできる。以下の動画を見てほしい。
iPhoneのコピー&ペーストを私は結構使っているし、指1本操作で実現したUIとしては非常に秀逸だと思うが、やっぱりあれは使いづらい。「あと1文字左、そこっ、いやっ、あっ、上の行まで範囲になってもうた!」ということは頻繁にある。simejiの上下左右キーを使ってみてハッキリ分かったが、私に必要なのは、何のことはないカーソルキーだったのだ。simejiではカーソルキーモードでない場合にも左右キーだけはあって、ちょっとした文字の修正のときも非常にやりやすい。
こうした使い勝手の改善がアップルからしかやってこないのと、野良アプリも含めて自由な開発プラットフォームからやってくるのとでは、どちらが進化速度が速く、より多くの選択肢をユーザーもたらすかは私には自明に思える。
私はHTC EVOを非常に気に入ったが、iPhoneに比べたときに不満に感じる面が、ないわけではない。
一番大きいのは、iPhoneのタッチパネルの、あの“ヌルヌル感”に、HTC EVOは遠く及ばないということ。Android端末も世代ごとに徐々に良くなってきているように思うが、指に張り付くようなあの心地良さはiPhoneにしかない。iPhoneは別格なのだ。
この違いを定量化できないものかと長らく思っていたのだが、コンシューマ製品のデザイン関連でコンサルティングや研究を行っているMoto Development Group(5月18日にシスコが買収計画を表明)の行った実験(その1、その2)が非常に分かりやすく違いを明らかにしてくれているので紹介しよう。
実験は人間もしくはロボットアームにより、ディスプレイ上をゆっくりと一定速度、一定圧力で接点を移動させていき、その精度を見るというもの。こんな簡単な実験でも、以下のように見事にiPhoneの優秀さが示されるという。
もう1つの不満はシステム全体が不安定なこと。3、4日間ほど使っただけでHTC製のSense UI(Windowsで言うexplorer.exe)がフリーズして、何も操作ができない状態に陥ってしまった。iPhoneも3G登場の初期には不安定だったが、最近は非常に安定してきている。
もう1つ、操作に慣れれば解消する問題だと思うが、操作が分かりづらいように思う。これは個人的には不満というほどのものではないが、気になる人は気になるかもしれない。
例えば、HTC EVOを手にした1時間後に早速電話がかかってきたのだが(米国ではGoogle Voiceを使っていたのでWebで新番号を追加するだけで所有端末すべての電話が鳴る)、なんと「電話を取る」ことが私にはできなかったのだ。電話がかかっていることに気づいてすぐに画面を見たが、何をしていいのか分からない。よく見ると、下の方に円弧状のバーがあり、これを何とかするのだとまでは分かったが、「上にスライドすると応答」「下にスライドすると拒否」という文言を読んで理解するまでに電話が切れていた。次回からは間違いようがないとは言え、ちゃんと説明を読まないと電話すら取れない電話というのは、この端末の操作性が全般に未熟であることを象徴していると思う。
実はスリープ状態から抜けて端末を使い始めるときにも、同様の円弧状のバーを下にスライドするのだが、私が観察した限り、私も含めてかなり多くの人が間違って上にスライドしようとして戸惑う。円弧が区切る画面の面積比でいうと、上の空間が大きく空いているので上にスライドするのが自然に感じるからだと思う。これもまた、UIがこなれていないことの証だと思う。
以上、いろいろと書いてきたが、私のHTC EVOの評価は「ともかく速くて画面が見やすい」に尽きる。Androidの荒削りな部分が好きになれない人は、やっぱりEVOも今ひとつという印象を持つかもしれないが、「速さは正義」と思っている人ならEVOは至極快適な端末と言えそうだ。
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