12月5日、楽天傘下のフュージョン・コミュニケーションズはスマートフォンの音声通話料金が30秒10.5円(税込)になる「楽天でんわ」サービスを開始した。
通常、3キャリアにおけるLTEスマホの音声通話料金は一律30秒21円(税込)と高止まりしている状態だ。KDDIやソフトバンクモバイルなど、オプション料金を支払うことで、30秒10.5円に引き下げることができるが、月額980円が必要となる。
その点、楽天でんわでは月額基本料金は不要。しかも、電話番号が追加されることなく、着信相手にも自分の携帯電話番号をそのまま表示させることができるなど、利便性はかなり高い。実際に、楽天でんわに登録し、何度か音声通話をしてみたが、当然のことながら、通常の電話回線であるため、音質も安定している。状況によっては音質が悪くなるIP電話に比べれば、仕事でも使えるクオリティだと思った。
仕組みとしては電話番号の頭に0037-68というプレフィックス番号を付与することでフュージョン・コミュニケーションズ経由となり、着信転送として通話料が安くなる。スマホ用のアドレス帳アプリを開発することで、わざわざ手動でプレフィックス番号を入力する必要がなくなったのが大きい。
ただし、使う上での注意点としては、各キャリアとも、同じキャリア同士であれば無料通話になることも多いため、そういった相手の通話に対しては楽天でんわを使わないほうがいいということになる。相手のキャリアがどこなのかを見極めた上で、使い分けるということが必要だ。
楽天副社長の國重惇史氏は「通話料はなぜこんなに高いのか。メガキャリア3社という環境が、通話料が下がらない原因ではないか」と指摘。キャリアが音声通話料で儲けすぎていると語った。
実際のところ、30秒21円の通話料に対し、発信側キャリアが着信先のキャリアに支払っている接続料は2円程度とされている。つまり、30秒で18円が収入となるわけだ。フュージョン・コミュニケーションズでは、発信側のキャリアに2円、着信側のキャリアに2円を支払うことで、今回のサービスを提供している。つまり、30秒10.5円のうち、4円は接続料として消えていくことになり、フュージョン・コミュニケーションズの収入は30秒6円というわけだ。
スマホの通話料金を下げるというサービスは、すでにG-Callが手がけており、料金も30秒10円とほぼ横並びだ。
そんななか、フュージョン・コミュニケーションズとしては「楽天グループのブランド力を生かし、差別化をしていきたい。通話をすれば楽天のポイントが貯まるし、将来的にはポイントで通話料を支払えるようにもしたい。我々のように個人向けに大々的にサービスを展開していくのはあまり例がないのではないか」(フュージョン・コミュニケーションズ 代表取締役社長の相木孝仁氏)という。
楽天といえば、何度拒否してもセールを告知するメールが大量に届くというイメージがある。「もしや、楽天でんわを使うと、セール告知のSMSが大量に届くのではないか」と心配になってくるが、その点を相木社長に突っ込んだところ「そういったことは考えていない」とのことで、一安心と言える。
今回、スマホの音声通話料金を引き下げるという戦略に出た楽天。アドレス帳アプリもあり、音声通話も問題なく、また発信者番号も自分の番号が出るため、使い勝手はかなりいい。もしかすると「ヒット商品になるのでは」という見方もできるかも知れない。
しかし、2014年の業界動向を見てみると、必ずしも安泰とは言えない。まず、NTTドコモがVoLTEを始めてくる。単に「VoLTEを始めました」とアピールし、コーデックの進化により「音質が良くなっています」と語ったところで、ユーザーはなびかない。当然のことながら、オプション料金を支払うことで、NTTドコモ以外のキャリアや固定網にかけても無料という施策を展開してくる可能性は充分にあるだろう。
また、携帯電話とPHSのMNPが始まれば、今使っている090/080番号で、ウィルコムの「だれとでも定額」が使えるようになる。そうなれば、楽天が設定した30秒10.5円も吹き飛んでしまうはずだ。
相木社長に「来年、VoLTE始まりますけど」と聞くと「とりあえず、VoLTEの前に楽天でんわを始めたかった」と語った。つまり、VoLTEが普及する前に、楽天でんわの認知度を上げ、ビジネスとして軌道に乗せたかったようなのだ。
短期的に見れば、楽天でんわを使うメリットは大きい。しかし、2014年になると、3キャリアとウィルコムとイー・アクセス合併会社における音声通話関連の競争が激化する。楽天でんわとしては来年に向けて次の一手を考えておく必要があるのではないだろうか。
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