楽天やFacebookなどの大手インターネット企業が「LINE」の競合アプリを巨額で買収する一方、LINEは一般電話回線向けの格安通話サービスを開始するなど、ここ最近、スマートフォン向け無料通話・メッセージアプリに関する大きな動きが相次いでいる。競争が世界へと広がりつつあるメッセージサービスの最新動向を追ってみた。
無料通話・メッセージアプリは現在、スマートフォンのコミュニケーションツールとして多くの国で定着しつつある。国内では2012年末から2013年前半にかけて、画像スタンプによるコミュニケーションなどで注目を集めたLINEのほか、韓国発の「カカオトーク」、そして音声通話を前面に打ち出したCMで注目を集めたディー・エヌ・エー(DeNA)の「comm」など、さまざまなメッセージアプリが現れ、激しいユーザー獲得競争を繰り広げていた。
そうした競争を勝ち抜き、日本で事実上“定番”の座を獲得したのがLINEだ。LINEは現在、国内だけで5000万を超える会員を獲得しており、スマートフォンの普及率が5割近い現在、ほとんどのスマートフォンユーザーが利用するアプリといっても過言ではないだろう。また日本だけでなく、タイやスペインなど他の国々でも会員を獲得し、3億7000万ユーザーを抱える世界的なサービスへと成長している。
だがメッセージアプリを巡る動きは、LINEの勝利で落ち着いたわけではない。実際今年の2月に、メッセージアプリに関する非常に大きな買収劇が、世界的に、しかも相次いで起きているのだ。
最初の大型買収は、日本で起きている。Eコマースサービスなどで知られる楽天が2月14日、無料通話・メッセージアプリ「Viber」を提供するキプロスのViber Mediaを、約900億円で買収すると発表したのだ。
さらに世間を大きく騒がせたのが、世界的に人気を博しているSNS「Facebook」を提供する米Facebookが2月19日、メッセージアプリ「WhatsApp Messanger」を提供する米WhatsAppを、1600億ドル、日本円でなんと1兆6000億円で買収すると発表したこと。インターネット関連の買収劇においても、これだけ大きな金額が費やされることは過去に例がないことから、世界的に大きな注目を集めることとなったのだ。
とはいうものの、LINEが広く普及している日本では、「Viber」「WhatsApp Messanger」の知名度は決して高いとはいえない。そのため、なぜ国内で知られていないメッセージアプリが、これほどの巨額で買収されているのか、よく分からない人も多いことだろう。そこでまずは、ViberとWhatsApp Messangerについて簡単に説明しておこう。
Viberは2010年と、LINEより以前から提供されているスマートフォン向けメッセージアプリで、スマートフォンを黎明期から使用しているユーザーには比較的知名度がある存在だ。Viberを提供するViber Mediaは所在地こそキプロスだが、本拠地はイスラエルにあり、開発拠点はベラルーシにあるとされているなど、国際的な体制を敷いている企業だ。
Viberは元々、IP電話による無料通話にフォーカスしたサービスとしてスタートしており、有料で固定・携帯電話回線に電話ができる機能「Viber Out」を他のメッセージアプリに先駆けて導入するなど、音声通話に注力している。だが最近では、LINEのスタンプに相当する「ステッカー」機能を搭載するなど、トーク機能にも力を入れてきている。現在は東南アジアや欧州などを中心に2億8000万の会員を獲得し、さらに月間アクティブユーザー数(MAU)も約1億に達している。
一方のWhatsApp Messangerは、提供開始時期は2009年とViberより古くに登場している、テキスト主体のメッセージアプリ。欧米を主体として世界的に広く会員を獲得しており、現在ではMAUが4億5000万に達する、メッセージアプリの最大手といえる存在だ。
後発のメッセージアプリとは明確に異なる戦略をとっているのも、WhatsApp Messangerの大きな特徴といえるだろう。それを象徴しているのが料金。無料で利用できるメッセージアプリが多い中、WhatsApp Messangerはアプリを利用するのに1年当たり0.99ドルの有料課金制を採用している。その一方で、ゲームや広告などは提供しないと明言するなど、いわゆるプラットフォーム化で収益を上げることは狙わず、あくまでシンプルなコミュニケーションツールであることにこだわる方針を貫いている。機能的に見ても、同種のツールで一般的となったスタンプ機能は取り入れていないし、無料通話機能もいまだに用意されていない(ただしこちらは、今後提供される予定であることが発表されている)。
有料にもかかわらず、4億を超えるユーザーを獲得することに疑問を抱く人もいるかもしれないが、そもそも海外でメッセージアプリは、1通数円程度の料金を支払う必要があるSMSの代わりに、無料でメッセージのやり取りができることから人気を博した経緯がある。それゆえ1年で0.99ドルというWhatsApp Messangerの料金も、十分“安い”ものとして認識された訳だ。
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