【vol.1】テクノロジーは人を幸せにするのか―― AIの世界的権威アーロン・ハーベイが描くビジョンとはMeet Recruit

» 2016年04月15日 06時00分 公開
Meet Ricruit

 2015年4月に立ち上がったリクルートの人工知能研究所「Recruit Institute of Technology(以下、RIT)」に新所長が就任した。米Google Research出身でデータマネジメントの専門家であるアーロン・ハーベイ(Alon Halevy)だ。

 簡単に彼の経歴について紹介しよう。アーロンは、1993年にスタンフォード大学コンピューターサイエンス学科博士号取得。その後、ワシントン大学のコンピューターサイエンス学科の教授を務め、同大学にデータベースリサーチグループを創設。論文数と被引用数に基づいた科学者の研究に対する相対的な貢献度を示す指数「h-index」が93と非常に高い数値を持ち、研究者として優れた実績がある。

 だが、アーロンがRITのトップに起用されたのは、研究者としての側面が評価されただけではない。彼は、過去にエンタープライズの情報統合基盤を提供するNimble Technology、ディープウェブを提供するTransformicを創業し、バイアウトした経験を持つ。研究のみならず、テクノロジーをビジネスに接続する能力が評価されたことで、今回の起用に至った。

ライフスタイルに関する豊富なデータを持つ強み

 自身が創業したTransformicがGoogleに買収されたことを機に、Googleへと移ったアーロン。同社のシニア・スタッフ・リサーチ・サイエンティストとして構造化データのデータマネジメント分野の研究責任者を務め、Google Fusion Tables等の研究開発に関わった。

 アーロン「Google Researchでは、データの構造化に取り組んでいました。ひとつは、ウェブ上の構造化データを見つけて、ユーザーが使えるように提供すること。そして、もうひとつは構造化データをストーリーやビジュアルにして整理することで、データを使えるようにすること。この2つに取り組んでいました」

 ワシントン大学で研究したことを生かしながら、Google Researchでさまざまな研究と議論を重ねてきたアーロン。 Google Research での10年間の活躍ののち、彼がRITへと挑戦の場を移した理由には、両社では取り扱うデータが異なっていることが挙げられる。リクルートは各ライフステージに応じたサービスを提供しており、ライフスタイルに関するデータをウェブ以外の接点から収集している。

 アーロン「Googleとリクルートでは、得られるデータが異なります。データは量や質だけではなく、多様性も重要になります。リクルートはさまざまなライフスタイルサービスを提供しており、ライフディシジョンに関するさまざまな情報が集まっている。これは研究者にとっては非常に魅力的なことです」

 Googleはウェブ側から得られる検索データやGmail等から得られるテキストデータなどをもとに、さまざまな情報提供を行っている。だが、不動産や人材に関連するサービスの提供は実施していない。リクルートでは、Googleがやってきたこととは違うことができる。これはアーロンにとって、とても重要なことだった。

3つのリサーチを組み合わせてポートフォリオを作る

 アーロンの所長就任に合わせて、RITの拠点はシリコンバレーに移る。では拠点を移した後、彼はRITでどのように研究を進めていくのだろうか。

 アーロン「シリコンバレーには数多くのテクノロジーカンパニーがあります。拠点を移すことで、こうした会社ともコラボレーションしやすくなるでしょう。優秀なテクノロジストたちにリクルートのことを知ってもらいやすくなると思います」

 シリコンバレーというエコシステムの一員となることで、さまざまな変化がRITにもたらされることをアーロンは期待している。また、彼は新しくなるRITでどのようにリサーチを進めていくつもりなのだろう。

 アーロン「RITでは研究プロジェクトをポートフォリオ化していきたいと考えています。たとえばいくつかのプロジェクトは、リクルートに収益面でインパクトをもたらすもの。またいくつかは世界的に価値のあるリサーチ結果をもたらすもの。そして、3つ目は世界の人々のためになるリサーチ。こうした3つのリサーチプロジェクトをうまく組み合わせていきたいですね」

 これら3つのプロジェクトは、それぞれが長期的に素晴らしい研究をしていくために必須な要素だ。こうした研究を続けていくことで、リクルートにより良い人材を集めることにもつながっていくと、アーロンは考えている。

テクノロジーは私たちを幸せにしてくれる

 今後、IoT(Internet of things)の発達により、ウェブとリアル、双方の世界が接続されていくことで、この境は徐々になくなっていくと考えられる。そうした世界での課題は、単一のソリューションでは解決されない。アーロンは「違うアングルで物事を見ていた人たちの立ち位置が、テクノロジーの進歩によってどんどん変わってくる。これがテクノロジーの面白いところなんです」と語る。

 だが、優れたテクノロジーがあれば必ずビジネスが成功するわけではない。事業化し、成功させるためには、テクノロジーだけではなく、さまざまなことを実行していくことが必要だ。「テクノロジーが関与するのはせいぜい5%、残りは他の要素で決まる」とアーロンは語る。その残りの要素の中で、彼が特に重要だと考えているのが"人"だ。そんなアーロンは、リクルートで働く人々に対して強い「アントレプレナーシップ」を感じている。

 アーロン「イノベーションを生み出すためには、既存事業とのコラボレーションが不可欠です。そのためには、RITが現場の問題点を掴み、本当の課題とは何かを理解する必要があります。リクルートのみなさんには、RITをリソースだと考えてもらいたい」

 そう、アーロンはリクルートのメンバーに対して語った。RITは今後、多くの人が「それが知りたかったんだ!」と共感するような"問い"を投げかけられる研究所を目指して研究を重ねていく。

 アーロンが常日頃から抱いている問いは、「これだけのデータとテクノロジーがあれば、ユーザーをもっとハッピーにできるんじゃないか」というものだ。この問いの答えが、イエスかどうかはまだわからない。だが、「この問いかけをしない限り、追求することすらできないからね」とは語った。彼の新しい研究はまだ始まったばかりだ。

プロフィール/敬称略・名称順

アーロン・ハーベイ 

コンピュータ科学者・起業家・教育者

1993年スタンフォード大学コンピュータサイエンス学科博士号取得。その後、ワシントン大学のコンピューターサイエンス学科の教授を務め、当大学にデータベースリサーチグループを創設。
エンタープライズの情報統合基盤を提供するNimble Technology Inc.,および、ディープウェブを提供するTransformic Inc.,を創業。Transformic Inc.のGoogle社による買収を契機に、Google本社のシニア・スタッフ・リサーチ・サイエンティストとして構造化データのデータマネジメント分野の研究責任者を務め、Google Fusion Tables等の研究開発に関わる。
ACMフェロー、2006年にVLDB 10-year best paper awardを受賞。
また、コーヒーの研究家でもあり『The Infinite Emotion of Coffee』という世界のコーヒー文化に関する書籍を刊行。


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