タスクフォースの影響が、以前からのトレンドを後押しする形で、MVNOの勢いに拍車が掛かっている。こうした中、以前の連載で指摘したように、端末の割賦販売と料金プランを組み合わせ、“中価格帯”を志向するMVNOも徐々に増えてきた。その1つの目安になっているのが、Y!mobile。月額2980円(税別、以下同)で1GBという相場で市場をけん引し、6月からは、新規やMNP限定のキャンペーンとして、1980円、2GBという価格を打ち出している。
低価格路線のMVNOに対し、Y!mobileが端末やサポート、店舗などを武器に、“中価格帯”で対抗している構図だ。MNOという視点で見ると、ドコモ対ソフトバンクの代理戦争に近い形ともいえるだろう。一方で、ここに取り残されてしまっていたのが、KDDIだ。「mineo」や「UQ mobile」など、auのネットワークを利用するMVNOはあったが、存在感を十分発揮できていなかった。こうした状況の下、UQ mobileを運営するUQコミュニケーションズが、大きな動きを見せた。この試みがうまくいけば、ドコモ系MVNOとY!mobile、そしてUQ mobileという、三つどもえの戦いが繰り広げられることになりそうだ。
UQコミュニケーションズは、KDDIが子会社として設立したKDDIバリューイネイブラーからUQ mobileを引き継ぎ、2016年2月には、データ通信が1GBで無料通話込みの、「ぴったりプラン」を導入した。
同時に、UQ mobileブランドの端末や、一部のSIMロックフリー端末を“実質0円”で購入できる、「マンスリー割」も導入。「われわれが目指すのは、プレミアムなコストパフォーマンス」(代表取締役社長 野坂章雄氏)として、「格安スマホ」などと呼ばれる他のMVNOとは、一線を画した料金プランや仕組みを提供してきた。価格としてはMVNOというより、ソフトバンクのサブブランドであるY!mobileに近いものといえるだろう。
結果として、野坂氏が「うれしかったのが、女性比率がずいぶん上がったこと」と話す通り、もともとは32%だった女性比率が、44%まで急上昇した。UQコミュニケーションズの狙い通り、よりマスに近いユーザーを取り込めていた。「今、ようやく緒に就いて、3月は昨年(2015年)に対して相当ポーンと上がった」(同)と、プラン改定後は、契約者数も伸びているようだ。
一方で、「(もともとの契約者数の)ベースが少ない」(野坂氏)ため、料金プラン、サービス、端末では、さらなる改善も必要になる。その一環として発表されたのが、7月1日に始める「イチキュッパ割」だ。これは、2980円のぴったりプランが1980円に、3980円のたっぷりオプションが2980円になるキャンペーン。新規契約者やau、au系MVNOを除くキャリアからのMNPで、この料金が適用される。
4月1日から行っていた、最大25カ月の「データ増量キャンペーン」と重複適用される上に、7月1日からは、新たに無料通話も倍増する。新規契約もしくはau以外からのMNPであれば、2GBのデータ容量に60分の無料通話が付いたぴったりプランが、1980円になるというわけだ。近い内容のキャンペーンはY!mobileも行っており、テレビCMも大々的に展開しているが、UQ mobileも、ここにキャッチアップしたというわけだ。
キャンペーンながら、データ容量や無料通話の倍増は約2年間適用され、新規契約も可能なため、いったん解約さえすればauのユーザーも適用対象になる。1000円引きには1年間(13カ月間)という期限がついている点は評価が分かれるところかもしれないが、価格のインパクトは小さくないだろう。
料金面では、2月に導入したマンスリー割も注目しておきたい仕組みだ。これは、一言で言えば端末の「実質0円」を実現するためのオプション。UQ mobileが指定した端末を購入すると、月々の料金に対して割引が発生する。ドコモの「月々サポート」、auの「毎月割」、ソフトバンクの「月月割」と同じだと考えておけば、理解しやすいだろう。
これら大手3キャリアとは大きく異なるのが、対象となる端末だ。UQ mobileが指定しているのは、自社ブランド端末だけでなく、SIMロックフリー端末まで含まれている。具体的には、富士通の「arrows M02」がそれで、バリエーションについては野坂氏が「時間を置かず、続々といきたい」と話すように、拡充していく方針だ。
マンスリー割は、ゲオの中古スマートフォンにも拡大。「一定の品質を満たさなければならない」(野坂氏)という条件はあるが、au系の端末に、割引がつく形になる。
また、端末拡充の一環として、新たに京セラ製の「DIGNO L」も発表された。DIGNO Lは、auから発売されたハンドソープで洗えるのが特徴の「DIGNO rafre」がベースとなっており、外観はロゴ以外ほぼそのまま。au関連のアプリは一掃され、メールもUQ mobileが提供するMMSを、ハングアウトアプリで利用する形となる。
もともと、DIGNO rafreはミッドレンジモデルとして企画されたもの。本体価格は5万円台後半と、スペックに比べてやや割高だったが、キャンペーンで大幅な割引を行っており、4万円台前半で販売されていた。ここに、毎月割が加わり、MNPなどでは実質0円になっていた端末だ。UQ mobileでの本体価格や、マンスリー割適用時の実質価格は未定だが、他の端末と水準を合わせて実質0円を訴求する可能性もありそうだ。
料金と端末を整えつつ、販売体制も強化する。もともと、UQコミュニケーションズはWiMAX、WiMAX 2+のルーターを家電量販店で販売してきたが、この販路を生かし、「全国で1000店規模に拡大する」と野坂氏。さらには、「auとも連携して、全国4000人規模で総攻撃に出たい」(同)と、垂直立ち上げをしていく方針だ。
シェア上位のMVNOも多くが家電量販店を中心に、店舗で契約できることを重視しているが、こうした会社にとってもUQ mobileは脅威になりそうだ。また、野坂氏は「(店舗を持つことは)かなり意識して、いずれはやっていかなければならない」とも述べており、ゆくゆくはY!mobileのように、専門のショップを立ち上げる可能性もある。
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