規制改革会議が「分離プラン推進」答申を発表 その中身について考えた(3/3 ページ)

» 2018年11月23日 13時55分 公開
[井上翔ITmedia]
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通信料金と端末料金の完全な分離には“課題”もある

 この答申で一番注目を集めているのが、「通信料金と端末料金の完全な分離」だ。

 日本のMNOの携帯電話料金は、通信料金と端末料金の一部が一体となっている「一体型プラン」が今のところ主流。具体的には端末を購入することで、その機種に応じた月額料金の割引が受けられる仕組みだ。ドコモなら「月々サポート」、auなら「毎月割」、ソフトバンクなら「月月割」がそれに当たる。

 この割引方法は、割引の終了(おおむね購入から24〜25カ月目)に合わせて機種変更をする人はメリットを最大限享受できる一方で、端末をできるだけ長期間使おうとする人は、割引を受けられない分だけ損をするし、それとは逆に割引の満了を待たずに機種変更を頻繁にする人も、割引を“放棄”することになるため損をする。また購入する機種によって割引額も変わる。言葉を選ばなければ不公平な割引制度なのだ。

 答申が通信料金と端末料金の完全な分離を求めているのは、回線は回線、端末は端末で競争環境を整備すれば、明朗会計になってユーザーにより適切な選択肢を提示できると考えているからだ。

一体プランと分離プラン 一体プランと分離プランの模式図。今回の答申では下の分離プランを“強制”しようとしている(公正取引委員会公表資料より)

 端末購入に連動していた通信料金割引を“切り離す”ことに確かにメリットはある。端末ごとに設定されている割引額やその残月数、端末の利用期間を考慮に入れずに済むので、端末の利用期間や入手ルート、機種変更の頻度に起因する通信料金における不公平さがなくなるのだ。

 この流れを先読みしてか、各キャリアも分離プランの導入を促進している。auでは「auピタットプラン」「auフラットプラン」、ソフトバンクでは「ウルトラギガモンスター+」「ミニモンスター」として、端末を問わない分離プランを導入している。またドコモも低価格端末限定で「docomo with」という事実上の分離プランを用意しており、本格的な分離プランの導入も検討もしている

docomo with ドコモの「docomo with」は事実上の分離プラン。本格的な分離プランの導入も検討されている

 良いことずくめに見える分離プランだが、課題もある。従来プランでは端末価格が高いほど割引額も大きいが、分離プランでは端末価格が割引に考慮されなくなるため、高価格帯のハイエンド機種購入に対する負担感が増してしまうのだ。

 ハイエンド端末は処理能力が高く、通信もより高速で、新しい機能も先んじて搭載される。最近のミドルレンジモデルはパフォーマンスが向上し、実利用面での不満は少なくなっているとはいえ、使い比べると体感面での差は禁じ得ない。アプリは端末の進化に合わせて機能改善している面もあるからだ。新しい通信規格の普及も、ハイエンド端末によってけん引される傾向にある

 もし分離プランの導入によってハイエンド端末の普及が鈍化すると、それに代わってミドルレンジ端末や値下がりした型落ち端末の売れ行きが好調になるだろう。それは「より安価に使える」という観点では歓迎すべきことだが、サービス全般の「進化」を鈍化させてしまう“副作用”も起こりうることは頭の片隅に置いておきたい。

大手キャリアのミドルレンジモデル 大手キャリアもミドルレンジモデルのラインアップを強化しているが、アプリの機能強化は端末のスペックの向上や機能追加に支えられている面もあると考えると、ハイエンドモデルの売れ行き鈍化はアプリの進歩の鈍化につながる可能性もある

 ハイエンド端末の売れ行き鈍化は、中古端末の供給に問題をもたらす可能性もある。将来仕入れられるであろう端末が減ることも意味するからだ。

 こちらもその穴をミドルレンジモデルが埋めることになると思われるが、ハイエンドモデルと比べるとミドルレンジモデルは安価な部材を使う傾向にあるため、外装の劣化を中心に長期間使う上では課題もある。外装交換を始めとする修理を行える体制や拠点をしっかり構築することも必要だ。

 その観点では(公式か非公式かは横に置いて)iPhoneの修理業者は多いが、iPhone以外のスマホを修理できる業者が少ないことも乗り越えるべきハードルだ。修理業者と提携して公認修理拠点を増やす取り組みを始めたSIMロックフリー端末メーカーもあるが(参考記事)、このような動きを促進する政策を検討しなければならない。

Huaweiの修理店 ファーウェイ・ジャパンは端末修理業者と提携し「認定修理店」を広げる取り組みを始めた

 少し話がわき道にそれそうになったが、分離プランにおける負担感を緩和するために、auとソフトバンクでは48回払いの割賦を用意した上で、端末の下取りを条件に残債を免除するプログラムを導入した。

 しかし、このプログラムは当初、プログラムへの再加入が適用条件だった。同じキャリアでずっと買い換えないと残債が免除されないという、ある意味で定期契約の自動更新以上の期間拘束効果を持っていたのだ。そのような指摘を受けて、auとソフトバンクはプログラムへの再加入をプログラム適用条件から削除した。

 48回の割賦とそれにひも付く下取りプログラムは、ユーザーの「メリット」をどこに見いだすかによってその評価は変わる。「ユーザーの買いやすさ」を重視するなら肯定的に見られるだろうし、「ユーザーの流動性」を重視するなら否定的に取られるだろう。

 ともあれ、分離プラン“だけ”にするなら「端末の買い方をどうするのか」という議論は避けられない。答申では「各国の競争環境との比較」に言及しているが、端末のSIMロック解除を義務化、あるいはSIMロックを禁止している国も含めて、海外では端末の購入しやすさを担保する観点で一体プランも選択肢として用意している

 世界と合わせれば正解ということは決してないが、“極端”に走ることがユーザーのためになるのか、先述の論点も含めて慎重かつ迅速な議論が求められるだろう。

一体プランで売られる端末 イギリスのVodafoneショップで販売されていた「Xperia XZ3」。端末代と通信料金が一体化した料金のみが提示されている
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