―― 今は2台目狙いですが、今後、メイン端末となり得るクラウドSIM対応モデルを出していく可能性はありますか。
山田氏 悩ましいエリアです。ミドルレンジモデルを何とか開拓したいというのがわれわれの考え方で、P6で裾野が広がれば、もう少し価格帯を上げることもできると思います。FREETEL時代も、徐々に上の価格帯の端末を出せるようになっていきましたからね。uCloudlinkのベースモデルには、Snapdragon 600シリーズを採用したものもあるので、ああいったモデルにはチャレンジしたいと考えています。後は、その領域で売れるものが作れるかどうかですね。1台持ちで使っていただくためには、CPUも強化し、スピード(処理速度)を上げる必要もあります。
―― 後は競合他社と比べると、カメラがまだ弱い印象があります。
山田氏 そこも改善しようと思っているところです。中国のODMも、カメラの技術は持っていて、その技術力も上がっています。基礎技術でもある、オートフォーカスやオートホワイトバランス、オートエクスポージャーをどうやって一緒に開発していけるのかが、大きなポイントになります。どのレベルが必要なのかというクライテリア(基準)の共有は、これから始めていくところです。
―― 先ほどSIMカードのセット販売のお話がありましたが、OCN モバイル ONE以外とのセット販売はいかがですか。
山崎氏 お話はしていますが、まだ進んでいません。ただ、われわれはあくまで端末メーカーなので、販売の機会を与えられれば、セットで販売していきたいと考えています。
高倉氏 実店舗を持っているMVNOからお話は来ていて、準備は進めています。
―― 日本でも使えるということで、クラウドSIMがMVNOに嫌がれることはないでしょうか。
山崎氏 今のところは、海外で使えることを売りにしているので、それはありません。やはり日本ではMVNOのSIMカードで、となると思います。
―― 一方で、iPhoneにeSIMが採用され、徐々にですが端末も広がっています。競合ともいえそうですが、この動きをどうお考えですか。
山田氏 eSIMは海外、特にアメリカを中心に進んできていて、特にAppleがかなり推している印象もあり、それはそれで広がっていくと思います。方や日本では、eSIMはどちらかというとスマートフォンではなく、キャリアも違うエリアを目指している部分があります。
eSIMも確かにクラウドSIMと似ているサービスですが、クラウドSIMではその先をやりたいと考えています。どこに行っても自動的にその国で使えるSIMカードがロードできる機能はeSIMとは別の話で、極端な話、eSIMのフォーマットでできるのであれば、eSIMを使ったクラウドSIMをやってもいいと思っています。
山崎氏 もう1つ、お客さまにとって、はっきりとしたメリットもあります。eSIMだと基本は現地キャリアとの契約になりますが、クラウドSIMはマルチキャリアで、1回プランを買えば、後は使うだけです。カバーエリアでいうと、圧倒的に有利です。
高倉氏 午前中に中国に飛び、その後韓国に飛んで使うときにも、クラウドSIMなら1つの容量で使えます。そういった周遊プランがあるのは、eSIMにはない強みです。利便性では少し先を行っていると考えています。
―― uCloudlinkも日本法人を作っていましたが、そことのすみ分けはどうなっているのでしょうか。
高倉氏 MAYA SYSTEMはもともと営業に長けた部隊でした。FREETELブランドを買収したのも、基本的には研究や端末開発をやっていたからです。uCloudlinkとのビジネスには歴史があり、彼らがクラウドSIMを日本に展開したいとなったとき、日本には研究から販売までをできる部隊がありませんでした。そのため、モジュールの開発も含め、日本では山田が責任を持ってやっています。われわれに中国からのリソースをいただく形で、中国でもモジュールの開発はしていますが、日本ではMAYA SYSTEMがそれを担当しています。
―― Y!mobileがルーターを出すなど、MAYA SYSTEM以外でもクラウドSIM搭載モデルが発売されていますが、そういったルートでスマートフォンが出てしまう可能性はないのでしょうか。
高倉氏 スマートフォン端末に関しては、われわれが戦略的パートナーとして、独占販売権を持っています。Wi-Fiルーターを含めたビジネスは、uCloudlink本体が世界中で広くやっているので、それを日本にも展開しましたが、スマートフォンと今後の発展については、そういった権利を持っています。少なくとも権利はあるので、(他社が出したとしても)ライセンスフィーは入ってくる形になっています。
―― 今のところ年1機種のペースですが、今後、これは上がっていくのでしょうか。
山田氏 できればもっと出したいと考えています。
山崎氏 今年(2019年)は、もう1モデル出したいと計画しているところです。クラウドSIM対応のミッドレンジスマホを出す予定です。
山田氏 他に、ルーターも用意しています。P6のホームアプリをルータータイプのものに乗せ換えた端末で、ベースがスマートフォンになるため、アプリも使えます。
山崎氏 P6は裾野を広げるためのモデルですが、より簡単に使えるための端末という位置付けです。スマートフォンモードを用意して、スマートフォンとして使えるようにするか、完全にWi-Fiルーターにしてしまうかは、まだ悩んでいるところです。
Wi-Fiルーターは以前もありましたが、サイズが大きく、持ちづらいのが弱点でした。最近は女性の持つバッグも小さくなっているので、厚みがある時点で入らないため、選択肢から外れてしまいます。画面のサイズも中途半端でしたが、P6ぐらいのサイズなら、地図を表示させておくこともできます。このWi-Fiルーターは、7月中下旬から8月には投入したいと考えています。
―― FREETELブランドの端末がPOM時代に比べると減っている印象もありますが、今後、このブランドはどうしていくのでしょうか。
山崎氏 自分はもともとFREETELから来ているので、今もとがったスマートフォンを出したいという思いはあります。ただ、キャリアとの契約がなくてもすぐに使えるソリューションは広げていきたいので、今後はクラウドSIMにこだわっていきたいと考えているところです。最終的にどうするかはまだ決まっていませんが、ブランドも、どこかのタイミングで1本に絞っていかなければなりません。
高倉氏 2つのブランドでターゲットは違いますが、今はとにかく日本中のお客さまにクラウドSIMを使っていただきたい。戦略的にも、ネットから代理店まで、どんどん裾野は広げています。ただ、確かにブランドは絞らなければいけなくなるかもしれません。
山崎氏 とはいえ、これだけ日本にスマートフォンメーカーがなくなってきている中、まだ頑張っています。今はスモールスタートからもしれませんが、日本側で作った完全オリジナルのものを出す序章になるといいなと思っています。
上位メーカーが出すSIMロックフリースマートフォンのコストパフォーマンスを考えると、P6をローエンドで出し、価格を抑えた判断は正解といえる。初速のよさも、それを物語っている。一方で、ベースモデルがuCloudlinkにあり、FREETEL色が薄くなっているのも事実。Prioriのブランドを受け継いではいるが、カバーやバッテリーを交換できないなど、やはり違いもある。クラウドSIMという売りは、ローエンドモデルとも相性がよさそうなだけに、独自モデルの登場にも期待したいところだ。
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