世界を変える5G
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» 2020年06月08日 10時00分 公開

5Gビジネスの神髄に迫る:なぜ5G対応のiPhoneはまだ登場しないのか? カギを握るモデムチップの存在 (1/2)

5G対応が進んでいないアップル。Androidにスマートフォンを供給する主要各社はすでに5G製品を発表しており、このままではシェアを奪われかねない。その理由はモデムチップにあった。

[佐野正弘,ITmedia]

 主要なスマートフォンメーカーが次々と5G対応スマートフォンを投入する中、唯一5G対応が進んでいないAppleの「iPhone」。その理由はモデムチップと、それを開発するメーカーとの関係が大きく影響しているのだが、5G対応iPhoneが登場するのはいつになるのだろうか。

Appleの出遅れが目立つ5G対応スマホ

 国内でも5Gの商用サービスが始まったことから、スマートフォンメーカー各社の5Gスマートフォンが次々と発売されている。

 5Gの商用サービスは海外で先行して展開していることから、主要な海外メーカー大手は既に幾つかの5Gスマートフォンを投入。国内でも既にサムスン電子が「Galaxy S20」、Huaweiが「HUAWEI Mate30 Pro 5G」を提供している他、日本に進出して日が浅いOPPOやXiaomiが、KDDI(au)やソフトバンクの5Gスマートフォンラインアップに顔をそろえるなど、5Gを機として国内での足掛かりを強化しようとしている様子がうかがえる。

iPhone KDDIの5Gスマートフォンラインアップ。サムスン電子の他、ZTE、OPPO、Xiaomiといった中国メーカーの端末も多く採用されている

 そして海外メーカーだけでなく、国内のメーカーも日本での商用サービス開始に照準を合わせて5Gスマートフォンの開発を進めてきたことから、各社が次々と5Gスマートフォンを投入してきているようだ。実際、シャープはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が商用サービスを開始するのに合わせて、5G対応スマートフォン「AQUOS R5G」をいち早く発売しているし、ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia 1 II」も、KDDIから5月22日に発売された。

 また富士通コネクテッドテクノロジーズもミリ波に対応した「arrows 5G」を開発、ドコモから6月下旬以降に発売される予定だ。これはQualcommの「Snapdragon 865 5G Modular Platform」を採用し、同社との協業によって開発したレファレンスデザインがベースとなっているとのこと。富士通からスピンアウトし規模縮小した同社が5Gスマートフォンをスピーディーに開発するため、新しい手法を取り入れたといえる。

iPhomne 国内でのサービス開始に合わせ、日本のメーカーも5G対応スマートフォンを積極投入。富士通コネクテッドテクノロジーズはミリ波にも対応した「arrows 5G」を公表して注目を集めた

 だがそうした中にあって、大手メーカーの中で唯一、まだ5Gスマートフォンを発表していないのがAppleだ。Appleのお膝元である米国では2019年に5Gの商用サービスが始まっているが、同年に発売された「iPhone 11」シリーズは5Gに非対応であったし、最新機種となる「iPhone SE」の第2世代モデルも、コストパフォーマンス重視のモデルということもあってか5Gには対応していない。

iPhone Appleの最新機種は第2世代の「iPhone SE」となるが、高い性能を備えながら安価という特徴もあり、5Gには対応していない

モデムチップの5G対応が重要なポイントに

 Appleだけが5Gスマートフォンを投入できていない要因は「モデムチップ」を巡る動向にある。

 モデムはアナログ信号とデジタル信号を変換するデバイスであり、コンピュータで通信する上で古くから用いられているもの。それをスマートフォンなど小型の端末に内蔵できるよう、チップ化したのがモデムチップである。それゆえモデムチップはスマートフォンで通信する上で欠かせないものとして、必ず搭載されている。中には省スペース化や省電力化などのため、モデムをプロセッサに内包してしまうケースも多い。

 また傘下に半導体メーカーのHiSiliconを持ち、グループ内でモデムチップを開発・供給できる体制を持つHuaweiなど一部の企業を除くと、多くのスマートフォンメーカーはモデムチップを他の半導体メーカーから供給してもらうのが一般的だ。

iPhone モデムチップを開発している企業は限られており、Huaweiは傘下のHiSiliconが開発したモデムチップを採用。最新のプロセッサ「Kirin 990」では、他社に先駆けてプロセッサへの5Gモデム内蔵を実現している

 そして多くのメーカーが採用しているのが、米Qualcomm製のモデムチップである。実際Qualcommは多くのスマートフォンメーカーに提供しており、2020年5月現在、国内で提供されているスマートフォンのほとんどは「X55」という同社の5G対応モデムチップと、それに対応するプロセッサ「Snapdragon 865」をセットで搭載することで、5Gによる通信を実現しているのだ。 

iPhone Qualcommの5G対応モデムチップ「X55」。国内で販売されている5G対応スマートフォンの多くはこのモデムチップを採用している

 ゆえに5Gで多くの実績を持つQualcommからモデムチップの供給を受ければ、Appleも5Gへの対応を容易に進められるのだが、Appleにはそうはいかない事情があった。それはAppleが、Qualcommと“最悪”ともいえる関係に陥っていたからだ。

5G対応のため“犬猿の仲”Qualcommと和解

 そのきっかけは、Appleが2017年に、Qualcommが他社に自社技術を提供する際に不当なライセンス料を請求していると主張し、Qualcommを訴えたこと。その後、QualcommもAppleを訴えるなどして泥沼の訴訟合戦が続き、両社の関係は急速に悪化。AppleはiPhoneなどにQualcommとIntelのモデムチップを採用していたが、この一件以降、Intel製への移行を急速に進め、2018年の「iPhone XS」シリーズ以降はIntel製のモデムチップを採用するようになっていた。

iPhone AppleとQualcommが和解する直前の2019年2月に実施された「MWC 2019 Barcelona」のQualcommブース。スタッフのTシャツに「5G Only on Android」のロゴをプリントし、Appleへの対抗姿勢を明確にしたことでも話題となった

 だがそのIntelが、5Gのモデムチップ開発を思うように進めることができず、供給スケジュールに大きな後れが生じてしまったのである。それゆえIntelからのモデムチップの供給を受けていたAppleも、5Gスマートフォンを思うように提供できなくなってしまったのだ。

 このままIntelの5Gモデムチップの完成を待っていては、いつ5G対応のiPhoneを投入できるか分からず、それが理由となって競争力を失い、ライバル他社にiPhoneのシェアを大きく奪われてしまえば、経営を大きく揺るがす事態にもなりかねない。そうしたことからAppleは2019年4月に、最悪の関係に陥っていたQualcommと和解。既に5Gモデムチップで実績のある同社からモデムチップを供給してもらうという道を選んだわけだ。

 一方で、この一件によってAppleは、スマートフォン開発におけるモデムチップの重要性を強く認識したといえる。そこでAppleは、Qualcommとの和解により最大の顧客であるAppleを失い、5Gモデムチップ開発から撤退を表明したIntelから、モデム事業の大半を買収。自ら5Gモデムチップを開発するに至っている。

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