5Gが創出する新ビジネス

5Gで医療はどう変わるのか? ドコモが進める「遠隔医療」の取り組みを聞く5Gビジネスの神髄に迫る(2/3 ページ)

» 2020年07月08日 14時30分 公開
[佐野正弘ITmedia]

高い地方からのニーズ、コスト面の課題は

 同社が遠隔医療に関する取り組みを進めている背景には、自治体などからのニーズがあるからだと奥村氏は話す。特に多いのは地域医療に関する相談で、その地域の診療所に専門の医師がいないなどの理由から、医師同士のやりとりによってより適切な医療を実現する、遠隔医療が求められているというのだ。

 例えば最初に実証実験を実施した和歌山県の場合、以前よりケーブルテレビの回線を用いての遠隔医療は実施していたそうだが、回線速度が数Mbps程度で送信できる映像の解像度が低く、限界を感じていたことから相談が持ちかけられたという。従来のシステムに限界を感じたことが、5Gの活用に活路を求める要因となっているようだ。

ドコモ 2017年に和歌山県で実施した実証実験の様子。地域の診療所から和歌山県立医科大学に、5Gを経由して患者の患部などの映像を伝送しての遠隔医療を実現している

 最近では、新型コロナウイルスの感染者急増によって医療機関での診療が受けられないという事象も発生しており、病院の医師などから「感染症に医師のリソースが取られている中、それ以外の診療科で診療をするためのリソースが減ってきている」(奥村氏)との声があったという。遠隔診療が新型コロナウイルスの治療に直接用いられるわけではないが、医療機関のリソースを補う存在になり得るというわけだ。

 とはいえ、これまで実証実験に用いたシステムは、あくまで既存のシステムを組み合わせて環境をそろえるなど、「手作りの一品ものに近い」(奥村氏)という。特にニーズが大きい地方の自治体や医療機関は導入するための予算を確保できない可能性もあるだけに、実際の現場に普及を進めていく上ではコストダウンが求められることになるだろう。

 奥村氏は、ドコモはあくまで5Gの通信サービスを提供する立場だとしながらも、同社が持つクラウド基盤の活用や低価格で利用できるシステムの開発を進めるなどして、遠隔診療をパッケージ化しながらより安価に提供できる仕組作りを進めていきたいとしている。また、実証実験で使用している機器は先進的なものが多く、映像機器や医療機器の入出力インタフェースが統一されていななどの課題があることから、仕様の共通化を図るべく医療機器メーカーと対話していく必要があるとも奥村氏は答えている。

遠隔診療をしても“点数”が入らない

 ただ、遠隔医療の本格展開に向けてはコスト以上に大きな課題がある。それは医療制度から来る問題だ。実際、新型コロナウイルスの影響により、従来認められていなかった初診患者のオンライン診療が4月から認められたことが話題となったが、これはあくまで時期を限定した措置とされており、本格的な解禁に向けためどは立っていない状況だ。

 医師同士がやりとりをする遠隔医療の実現はそこまでハードルは高くないとみられるが、それでも制度上の課題はいくつかあるようだ。その代表例となるのが医療保険から医療機関に支払われる診療点数に関する問題で、現状の仕組みでは患者に直接接している医師にしか診療点数が入らず、遠隔で指示する側の医師は実質的にボランティアとなってしまうのだそうだ。

 そうした制度上の問題をどう解決していくかについて、奥村氏は、2019年に総務省の中で遠隔医療の実現に向けた調査研究会が立ち上がっていると回答。この調査研究会には厚生労働省もオブザーバーとして参加するなどして現在も議論が進められており、調査研究会などを通じ必要な制度改革を働きかけていきたいとしている。

 これまでの実証実験では、遠隔医療といっても診療にとどまっており、身体に痛みを伴う処置を施す“侵襲”型の治療をするにはまだ至っていないという。D2Dの形で侵襲型の治療を実現する上で、どのような形で安全性を確保するのかという部分がまだ途上だというのも、実用化に向けた課題となるようだ。

 そうしたさまざまな課題をクリアしていくことに加え、5Gのエリア自体がまだ限定的であることを考えると、5Gを活用した遠隔医療の実用化は当面限定的な範囲にとどまるようだ。今後5Gのエリア拡大とともに、数年以内に基本的な形を確立して現実的な診療が実現できることを目指したいと、奥村氏は話している。

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