5Gが創出する新ビジネス

NTTドコモが300の実証から見いだした、5Gビジネスでも「高速大容量」が重要な理由5Gビジネスの神髄に迫る(1/2 ページ)

» 2020年03月17日 06時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 2020年春の5G商用サービス開始を予定しているNTTドコモは、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を通じてパートナー企業との5Gビジネス創出を進め、企業の5Gに対する漠然とした期待感を、具体的なビジネス開拓につなげる取り組みに力を入れている。そのドコモが、5Gをビジネスに生かす上で重要なポイントはどこにあると見ているのだろうか。5G・IoTソリューション推進室 ソリューション営業推進 担当部長 エバンジェリストの有田浩之氏に話を聞いた。

3200以上の企業・団体とビジネス創出

 5Gに対する漠然とした期待は非常に高いものの、ビジネスへの具体的な活用はあまり見えていないという企業は多いだろう。そうした5Gが抱える大きな課題に、積極的に立ち向かっているのがドコモだ。同社は2017年に「5Gトライアルサイト」を展開するなど、GSMAで5Gの標準化作業が進められている最中から5Gのユースケース開拓に積極的に取り組んできた企業の1つでもある。

 実際NTTドコモは、パートナーとなる企業や自治体と共同で、実際の5G環境を活用したビジネス創出を実現する環境を提供するべく、2018年2月から「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を展開している。有田氏によると、このプログラムに参加する企業など、「5Gで何かやりたいが、5Gって何なの?」という漠然とした状態で問い合わせてくることが「結構な割合」(有田氏)を占めるとのこと。そこからドコモ側と5Gに関して話し合いをした上で、興味を持ってもらった企業などに参加してもらう形になるという。

ドコモ NTTドコモは2018年より、パートナー企業や団体と5Gのビジネス創出を進める場として「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を展開している

 ドコモ5Gオープンパートナープログラムに参加している企業は既に3200の企業・団体に上っており、その業種も非常に幅が広い。有田氏によるとこのプログラムは「Webではなく、紙に社判をついて申し込んでもらう」仕組みで、それなりにハードルが高いものでもあるのだが、それにもかかわらずこれだけ多くの企業などが参加しているということは、それだけ5Gに対して高い関心が寄せられているためだといえる。

ドコモ 「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」の参加企業・団体の内訳。幅広い業種の企業が参加しているが、大企業の参加が多いことから、今後は中小やベンチャーなどを増やしたいとのこと

 だがそうした企業の多くは、「5G」という切り口で相談してきているものの、実際のところ、モバイルで業務効率化を実現しようとは考えていなかった企業が多いそうで、「5Gはモバイルの活用による業務効率化のきっかけになっている」と有田氏は話す。それゆえ5Gが注目されて以降、ドコモの法人営業も企業のフィーチャーフォンをスマートフォンに変えるといった携帯電話主体の内容から、企業や地域の課題解決に、いかにモバイルを活用するかという内容へと変化、より幅広い顧客を対象にビジネスの話ができるようになったという。

ドコモ NTTドコモの法人向け5G戦略について話す有田氏

実は最もニーズが高かった映像伝送

 そしてドコモ5Gオープンパートナープログラムの取り組みの事例からは、5Gが持つ「高速大容量通信」「低遅延」「多数同時接続」といった3つの特徴の中でも、実は高速大容量通信を生かした映像伝送の利用が非常に多いことが見えてきたと、有田氏は話す。ドコモは2019年9月に5Gのプレサービスを開始して以降、既に5Gを活用した300以上の実証を実施しているが、「実例から何が課題解決につながっているのかと整理していくと、実は映像伝送が中心になっている」(有田氏)というのだ。

 そうしたことから同社では、高速大容量通信による映像伝送を軸としながら、そこに低遅延による遠隔制御や、多数同時接続によるIoT、AIなど複数の技術を掛け合わせることで、5Gの利活用の幅を広げる取り組みを進めているのだそうだ。

 例えば4Kなどの高精細映像伝送と、AI、ドローンを掛け合わせることで、これまで人が高い所に登り、肉眼で確認してきた、橋や鉄塔などインフラの点検などがドローンでできるようになり、大幅な効率化が実現できるようになる。また、それにARグラスを掛け合わせ、ドローン操縦者がARグラスに映し出された映像を見ながら操縦することで、目線の移動が少なくなり、より安定した操縦ができるなどのメリットが生まれてくるという。

ドコモ これまでの実証事例などでも、高速通信を生かした映像伝送と、ドローンやARグラスなどさまざまな技術・デバイスとを掛け合わせた取り組みが多いという。写真はドコモと実証実験を実施した、サン電子のARスマートグラス「AceReal One」

 それは5Gのビジネス活用が最も早く進むとみられている、製造業でも例外ではない。工場における5Gの活用として注目されているのは、多数同時接続を生かして工場内のあらゆる機器に通信機能を備えたセンサーを取り付け、そこからデータを収集することで異常をいち早く検知するなどして、機器のパフォーマンスを向上させることだ。

 だが有田氏よると、機器にセンサーを取り付けただけでは、傷や異物などの異常検知が難しいといった課題が出てきており、そうした検知のためにも映像伝送が必要とされているのだという。また今後、工場の無人化や、人とロボットが協調して作業する環境などを実現する上では、映像によって機器や人の動きを解析することが求められることから、工場でもIoT、AIに加え5Gの映像伝送の掛け合わせが必要になってくるというのだ。

 ちなみにドコモは、2019年にオムロン、ノキアグループと工場などにおける5G活用の実証実験を実施すると発表している。この取り組みについても有田氏は「まずは安全性の担保と作業効率化の実現だと考えている」と話し、作業員の動きを解析して熟練者との違いをフィードバックするリアルタイムコーチングなど、映像伝送を活用した実証に先行して取り組むことになるとしている。

ドコモ ドコモは2019年9月10日に、オムロン、ノキアグループと工場での5G活用に向けた共同実証実験を実施すると発表、映像伝送とAI、IoTを活用したリアルタイムコーチングの実証実験などがなされるとしていた
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