オンライン診療に代表される医療の分野は、5Gのソリューションとして大きな期待が持たれている分野の1つでもある。NTTドコモは、5Gをオンライン診療ではなく「遠隔医療」に活用する取り組みに力を入れているという。遠隔診療とは一体どのようなもので、なぜドコモは5Gで遠隔医療を目指しているのか? NTTドコモ R&Dイノベーション本部 5Gイノベーション推進室 5G無線技術研究グループ担当部長である奥村幸彦氏に話を聞いた。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で注目されるようになったオンライン診療。ビデオ通話などで離れた場所から医師から診察を受けられることから、医者に行く時間がない、あるいは近くに医者がないような場合でも診察が受けられることから、今後利用が増えていくことが期待されている。
そして5Gでも、オンラインを活用した医療関連のソリューションは大きな注目を集めている分野の1つだ。特に5Gの特徴の1つである低遅延を生かし、将来的には遠隔地から医者が手術をできる「遠隔手術」の実現などは、実現が大いに期待されているようだ。
だが、5Gを医療に活用する実証実験を多く手掛けているドコモが手掛けているのは、オンライン診療でも遠隔手術でもなく、「遠隔医療」というべき取り組みなのだと奥村氏は話す。厚生労働省の定義によると、オンライン診療は医師(Doctor)が患者(Patient)と通信回線を通じてやりとりする「D2P」の仕組みとなるが、こちらは現状の4Gでも十分対応できるが、医師が直接医療行為をするわけではないことから、できることにも限界がある。
そこでドコモが注目したのが「D2D」、つまり医師が別の医師とやりとりしながら患者を診療する取り組みである。具体的には患者と向き合っている医師が、より詳しい知識を持つ医師に患者の様子を伝え、アドバイスや指導を受けて医療行為をするもので、これを同社では“遠隔医療”と呼んでいるのだそうだ。
そして遠隔医療では、双方の医師が患部や疾病などの詳しい状態を把握できるようにするため、医療機器から出力される高精細な映像や画像データなどを双方で共有する必要がある。あらゆる場所で遠隔医療を実現する上では高速大容量通信、特に上りの通信速度が「LTEの10倍近く必要になる」ことから5Gが欠かせないと考え、さまざまな自治体や医療機関などと実証実験を進めてきたのだそうだ。
しかもドコモは5Gのネットワークの中に「ドコモオープンイノベーションクラウド」を持っており、医療機器の情報をリアルタイムに加工・蓄積し、AIを活用した診断補助をサポートする仕組みなど、さまざまなユースケースに対応した仕組みをクラウドの中に作り込んでいるという。クラウドでネットワークに付加価値を持たせられることも、5Gネットワークのポテンシャルが生きるポイントになっていると奥村氏は話している。
実際にドコモでは、5Gの商用サービス開始前の2017年度から3年間にわたって、5Gを活用した遠隔医療に関する実証実験を実施。2017年から2018年にかけて和歌山県で行った実証実験では、同県の日高町と、そこから20〜30km離れた場所にある和歌山立医科大学を5G回線で結び、外傷やエコーなどの映像を4Kや2Kの映像で送って遠隔医療をするシステムを構築し、高精細な映像を少ない遅延で送信することで、遠隔地の医師でも患者がすぐそばにいるかのような感覚で診療できることが確認できたという。
2018年群馬県前橋市で実施した実証実験では、救急車両やドクターカーに5Gの移動端末を搭載し、高度救命救急センターにいる医師に外傷の様子などを送り、3つの拠点で情報を共有しながら連携する取り組みも実施。2019年にはもう1つ拠点を増やして実証実験を実施してその有用性を確認している。
さらにドコモでは、1つのシステムで幅広い遠隔医療に対応する仕組みも考えている。東京女子医科大学が進めている、高度な医療が提供できるスマート医療システム「SCOT」に5Gの端末を組み合わせ、トレーラーに搭載してさまざまな場所で利用できるようにする「モバイルSCOT」の取り組みも積極的に進めている。モバイルSCOTは既に2020年に実施した「DOCOMO Open House 2020」でコンセプトモデルを展示するなどしており、2020年以降に本格的な実証実験を進めていく予定だ。
実験用の環境だけでなく、商用の環境を用いた遠隔医療の実証実験も進めており、2019年11月には広島大学と、5Gのプレサービス環境を用いたスマート治療室の実証実験を実施。2020年1月から2月にかけては徳島中央病院らと、5Gを活用した地域医療の実証実験を展開している。
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