ピーク時は月間400万人が利用 マスクの単価を比較できる「在庫速報.com」誕生の背景(1/2 ページ)

» 2020年07月13日 15時30分 公開
[房野麻子ITmedia]

 国内でもコロナウイルス感染症が拡大し、店頭からマスクが消えてしまった3月下旬にリリースされたWebサイト「マスク在庫速報」。スマホ用のWebブラウザアプリ「Smooz」を提供するアスツールが運営するサイトで、大手ECサイトで販売されているマスクを、1枚あたりの価格で比べられることから支持された。その後、検索対象の商品にアルコール消毒液や体温計、ゲームを追加し、サイトの名称を「在庫速報.com」へ変更している。

在庫速報.com 在庫速報.com

 ブラウザの提供元が、なぜ価格比較サイトを始めたのか? その背景や工夫したポイント、今後の展開などについて、アスツール 代表取締役の加藤雄一氏にうかがった。

在庫速報.com アスツール 代表取締役 加藤雄一氏

1人の社員の問題解決から生まれた

 マスク在庫速報のWebサイトは、1人のアスツール社員がマスクを購入できず、困っていた状況から生まれた。当時、マスクは店頭からはなくなってしまったが、ECサイトにないわけではない。「マスクの在庫情報を可視化して、並べて比べられるようにしたら役に立つ。そんなサービスがあったら自分が使いたい、とその社員が言ったことがきっかけでした」(加藤氏)。

 需要の高さは想像できた。さらに、コロナ禍の中で「自分たちで何かできないか」と考えたことも開発に踏み切った大きな理由だ。「僕らのようなスタートアップの会社は、問題を解決するために生まれると思っています。コロナ禍で問題はたくさん生まれましたが、僕らの技術で、1つくらい問題を解決できるのではないかという思いがありました」(加藤氏)

 開発は、最初にバックエンドを1人で2〜3週間くらいで作った後、もう1人加わってフロントエンドを1〜2週間くらいで仕上げた。「個人サービスみたいなものだった」と加藤氏は笑う。サイトが評判になってからはチームを拡大し、みんなで取り組んでいる。リリース直後は「毎日のようにテレビに取り上げられ、目標もはっきりしていて、人の役に立っていることがうれしかった」と振り返った。

簡単に決められるよう、送料込みの単価を表示

 マスクの単価を比較する仕組みは、ECサイト各社が提供しているAPIから情報を取って実現している。そして「僕らの小さなイノベーションは、単価で並べたこと」(加藤氏)。ECサイトの商品データベースに、マスクの枚数情報は登録されていないので、「タイトル(商品名)を言語処理して、枚数をデータベースに入れて、総計を割る形で単価を出している」という。そのため、掲載される情報は「100%正解ではない」が、上位にランクされるものは人間の目で見て修正している他、ロジックを改善しながら対応している。

 在庫速報.comでマスク1枚あたりの単価を比較できるようになってから、大手ECサイトでもマスクの単価を掲載するところが出てきているそうだ。

 送料込みで単価を出しているのも特徴だ。これはユーザーの要望に応じたものだ。「今は送料無料がほとんどですが、初期にはマスクの価格が1000円なのに、送料が3000円かかるような商品もありました」(加藤氏)。こうした商品が上位に来るとサイトの信用度を落としかねないので、そうした商品がはじかれるように送料込みにしたという。

 送料が入っていると、マスクの価格のみで単価を出しているサイトと比べ、同じ商品でも在庫速報.comの方が高額に表示されるため、見え方としてはネガティブだが、加藤氏が語るに「そこは僕らの良心」だ。

 また、「簡単に意思決定ができるようにしたかった」と加藤氏は言う。どんなものでもネットで買える時代になり、情報があふれているために、どれを選ぶかという意思決定が難しくなっている。「僕自身、意思決定コストが嫌い。単純にしてくれといつも思っています。在庫速報.comは、基本的には上から順に安い順で並んでいて、単価には送料も入っている。それ以外のファクターは読んでもらう必要がありますが、価格については非常にクリアに、分かりやすくしたかった」

 ちなみに、サイトの収益はアフィリエイトで得ている。在庫速報.comからECサイトに飛んで、商品が購入されると報酬が入ってくる。「アフィリエイトについては賛否両論ありますが、僕らとしては公平な情報を出し、それで幾ばくかの手数料をもらうということは適正なビジネスモデルだと思っています」(加藤氏)。

ピーク時には月間で400万人が利用

 アスツールはスマホ向けのブラウザアプリSmoozを提供しているが、Webサイトをサービスとして提供するのは初めてだという。そのため「技術的な蓄積が少なく、やりながら学んでいった」と加藤氏は話す。

 そもそもアプリとWebサイトではプログラムで使う言語が異なる。また、「Smoozでサーバ側のシステムはいろいろと作っていたんですが、Webサイトのフロントエンド、ユーザーから見える部分は商用サービスとして作ったことがなかった」(加藤氏)ため、技術を覚えていく必要があった。アプリストアで高く評価されるための技術は持っていても、Googleの検索エンジンに認識してもらうテクニックすら、当初は持っていなかった。

 ただ、それは特に大きな問題ではなかったと加藤氏。「何年間も一緒にチームで取り組んできて、筋肉質な開発チームは作れていました。新サービスを始めるときも、それが生きました。優秀なエンジニアがいれば、新しい技術にはすぐにキャッチアップできことが分かりました」と自信を見せた。

 4月中旬のピーク時には、「月間で400万人くらいの人に使ってもらえた」(加藤氏)というが、サーバダウンなども起こさなかった。

 「この手のものを10年位前に作ろうと思ったら、何十人も必要だったかもしれないし、サーバも自分たちで用意しなくてはいけないかった。それがクラウドになって、ポチポチとサービスを選ぶだけで済み、さまざまなフレームワークがあるおかげで、数週間あれば1人で作れてしまう。小さな会社にとっては、チャンスしかありません」(加藤氏)

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