激化する“サブブランド競争”の中でY!mobileはどう攻める? 寺尾氏に聞く(1/3 ページ)

» 2020年08月18日 06時00分 公開
[石野純也ITmedia]

 ソフトバンクのサブブランドとしての位置付けをいち早く明確化し、MVNOまで含めた“格安スマホ”市場の中ではトップシェアを誇るY!mobile(ワイモバイル)。2019年度には、スマートフォンの累計契約者数が500万を突破した。ソフトバンクとY!mobile、双方の看板を掲げるショップも1800店を超え、通信費を抑えたいユーザーからは人気を博している。

 一方で、楽天モバイルの本格サービス開始によって、サブブランド同士の競争も激化している。KDDI傘下のUQ mobileは、6月から容量超過後の速度が1Mbpsと速い「スマホプランR」を開始。様子見をしていたY!mobileも対抗を余儀なくされ、スマホベーシックプランMやスマホベーシックプランRの容量超過後の速度を1Mbpsに改定した。

 Android OneとiPhoneの2軸で攻めていた端末戦略にも、徐々に変化が出てきている。2019年10月には、同ブランド初となる「Xperia 8」を導入。5月には、その後継機ともいえる「Xperia 10 II」を発売した。最近では、シニア世代の獲得にも注力している。60歳以上のユーザーは、指定端末の購入やスマホベーシックプランの契約で通話料が完全に無料になる他、8月6日には、迷惑電話防止機能に通話録音機能を加えた「かんたんスマホ2」を発売した。

 サブブランド同士の競争が激化する中、Y!mobileはどのような戦略で臨んでいるのか。同事業を統括する、ソフトバンクの常務執行役員の寺尾洋幸氏に話を聞いた。

Y!mobile Y!mobileの事業を統括する寺尾洋幸氏

「かんたんスマホ2」で強化したポイント

―― まずは、直近で発売された端末のかんたんスマホ2について教えてください。2機種目ですが、どのような点を強化されたのでしょうか。

寺尾氏 シニアの方々にも簡単に使っていただきたいと思って開発した商品で、基本的なコンセプトは、かんたんスマホをほぼほぼ踏襲しています。大きな違いはディスプレイで、幅を変えずに縦長にして、表現できるデータ量を増やしました。これは、7割ぐらいの方が、小型よりディスプレイが大きな方がいいというデータを見ながら決めています。

Y!mobile ディスプレイが前モデルより大きくなった「かんたんスマホ2」

 iPhoneやPixelでもいいじゃないかと思われるかもしれませんが、シニアの方にとってはやはり難しい。ご家族が手取り足取り教えられるなら問題ありませんが、フルサポートはなかなかできませんよね? そういう方々に向けて、このボタン(無料相談窓口につながる「押すだけサポート」)を開発しました。

 かんたんスマホは2年間やってきましたが、9割以上の方が、このボタンを使っています。「インターネットにつながらなくなった」といったように、簡単でも、原因が分かりづらいものを1つ1つリストアップしていった結果、コールセンターの受電が大幅に下がるという実例も出てきています。こう言ってしまうと怒られるかもしれませんが、「不肖の息子」にサポートしてもらえない親にとっては、ありがたい機能ですね(笑)。

―― 迷惑電話の機能も強化しました。

寺尾氏 警察庁のデータを見ると、いわゆる「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」と呼ばれている詐欺の件数は、昨年度(2019年度)でだいたい1万6000から1万7000件ぐらい発生しています。被害額も300億円程度で、件数も減っていません。被害を受けている方の内訳を見ると、8割が高齢者です。70歳以上の女性というデータが、分かりやすく出ている。息子や娘(になりすました人物)が「助けて」というと、オロオロして振り込んでしまうのでしょう。

 1年ぐらいに前に迷惑電話サービスを入れましたが、実際にどうなったか。1カ月に1回でも迷惑電話のリストに引っ掛かる電話がかかってきた方が、7.5%もいます。携帯電話にも、こんなにかかってくるんですね。実際にかかり始めているという数値が出ています。

 ただ、もう1つ問題があって、迷惑電話がかかってきた後にどうするのかという話があります。迷惑電話だと、赤いランプが点灯するのですが、そのうち4割ぐらいが電話に出てしまうんです……。18%程度が、30秒以上話してしまうというデータがあります。

Y!mobile 迷惑電話だと分かっていても応答してしまう人が一定数いる

 警察の方ともお話ししましたが、これ以上の啓もうは効きません。犯罪者も慣れたもので、どんどん話を進めてしまう。話をしてはダメというところに基づいたのが、今回の録音機能です。

 迷惑電話だと判定したときに出ようとすると、かけた人、かかってきた人の双方に、この通話を録音しますという案内が流れます。出てしまう方が一定数いるため、出てしまった場合に録音しておく。録音することで、犯罪の抑制につながります。迷惑電話と録音の両方を入れることで、抑止効果につながるのではないでしょうか。本体内蔵として作りつけたので、電話帳の中でも判定が分かるようになりました。

Y!mobile 通話を開始する際に「録音する」旨の案内を流すことで、詐欺の抑止効果につなげる考えだ

 かんたんスマホは2年前からやっていますが、音声通話も定額にすることで、シニアの方に選んでいただくことはほぼなくなりました。スマホベーシックプランSで3GB、音声は無制限という感じで、ほぼガラケー(フィーチャーフォン)のように使われているのかもしれませんが、そのまま移っていただけることが多いですね。

かんたんスマホはAndroidではトップ級の売れ行き

―― Y!mobileというと、どうしても若いイメージがあります。シニア世代はどの程度いるのでしょうか。

寺尾氏 2年前に始めたときは、ほぼiPhoneとAndroidのユーザーだけでしたが、これをやったことで、そのままかんたんスマホの数が乗っかってきました。販売数がほぼほぼ純増に貢献したといえるでしょう。普通の端末だと、初動が高く、だんだん数字は落ちてきますが、かんたんスマホは2年間ほぼ落ちずにここまで来ました。

 具体的な数は申し上げられませんが、通常の端末としては、かなり多い方です。Androidの中では、トップグループに入る販売数で、ほとんどが初めてスマホを持たれる方です。ガラケーから移ってきた方も、かなりの数になります。

―― 移るということは、MNPが多いということですか。

寺尾氏 はい。MNPの比率が非常に高いのが特徴です。番号をそのまま持ってきたい方はMNPで移りますし、そうでなく、純新規の方もいます。何か別の端末を持っていて、番号は変わっていいからと、かんたんスマホにするケースもあるのではないでしょうか。

―― MNPの転出元は、どこが多いなど、傾向はあるのでしょうか。

寺尾氏 ほぼほぼシェアと同じで、ドコモやauからのユーザーもかなり多くいます。他の端末よりも多いぐらいで、会社としてもいい動きだと見ています。眠っている市場は、子どもかシニアしかありません。シニアは全体としてボリュームも大きく、まだフィーチャーフォンをお持ちの方も2000万近くいると思います。その1%でも20万なので、そこそこ大きな市場です。

―― ソフトバンク以上に、シニア向けの取り組みが目立っている印象もありますが、これはなぜでしょう。

寺尾氏 ソフトバンクは基本的に大容量を軸にしていて、今は「メリハリプラン」が中心です。大きな容量のプランで一定量のお金をいただくと考えると、われわれの方が動きやすい側面があります。ただ、家族でソフトバンクに入る方は多い。実際、家族3人、4人で見ると、われわれから買うより安くなるケースもあります。逆に、Y!mobileは少人数の家庭が中心で、グループそれぞれで違うところを攻めています。実際、われわれがかんたんスマホを出しても、ソフトバンク(と契約する新規ユーザー)は減りませんでしたからね。

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