この設計概念に基づいて研究開発している技術を幾つか紹介した。
「ユーザーセントリックRAN」は、基地局同士が連携し、Cell-Free Massive MIMOを活用してユーザーの移動に合わせて通信品質を最適化する技術だ。
現在のネットワークはセルでカバレッジを広げている。基地局に近い位置の電波環境は良いが、基地局から離れると無線信号品質が落ちてくる。しかし「将来、そういうことは許されなくなると考えている」と小西氏。そこで、Massive MIMOを活用し、動くユーザーが常にスポットライトで照らされているようにカバレッジエリアを構築する。Massive MIMOは5Gでも使われているが、それをセルがない(Cell-Free)という概念で実現しようとするものだ。
また現在、上りの速度は下りよりも低いが、それをカバーしようと研究している技術が「仮想化端末」。「1つの端末でダメなら複数の端末を使おう」(小西氏)という考えで、スマホ1台だけでなく、他のスマホやタブレット、ウェアラブルデバイスなど身の回りにある端末を使ってネットワークを作り、データを他のデバイスと一緒に送信することでスループットを上げるという技術だ。
Beyond 5G/6Gでは、5Gよりもさらに高い周波数の利用が見込まれる。「メタサーフェス反射板」は、5Gで使われている28GHz帯と、今後の割り当て候補の1つと考えられている39GHzの2つの周波数に対応した反射板だ。
透明なので、看板などの前にも置けるのが特徴。また、普通の反射板は電波が入ってくる角度と出ていく角度が同じだが、メタサーフェス反射板は角度を変えることができるため、ビル陰など電波が入りにくい場所をメタサーフェス反射板によってエリア化することができる。
光ファイバーケーブルの開発も行っている。現在の光ファイバーケーブルは、芯線の中に、シグナルが流れるコアが1本だけ通っているシングルコアファイバー。光の通り道であるコアを複数にしてスループットを上げようとしているのが「マルチコア光ファイバー(MCF)」だ。
マルチコアファイバーの研究は以前から行ってきたが、それを実用化し、しかも長距離に対応させようと取り組んでいる。既に現在のシングルコアファイバーの外径と同じサイズのマルチコアファイバーで、太平洋横断距離を超える1万2000kmの伝送実験に成功している。
水中の無線通信についても研究している。現在、水中で撮った映像を送ろうとすると、ダイバーがオフラインでビデオを撮り、それを地上で送ることが一般的。それを撮影しながらリアルタイムで送ったり、地上にいる人と通信したりできるように、青色LEDを使った水中での無線通信の実験を進めている。2019年に実証実験を行った際は、動画も十分送れる最大約100Mbpsの大容量通信に成功している。
「KDDIの強みの1つ」と小西氏がいうセキュリティも重視し、暗号方式の国際標準化に取り組んでいる。量子コンピュータ時代になると、現在の暗号方式では破られると懸念されており、破られない暗号方式の研究開発を進めている。
また、データを提供することに抵抗を覚える人も多い。規約を読まずにデータ提供を許諾し、意図しないところでデータが使われることもある。KDDIはユーザーがデータの活用範囲を選択できるように、プライバシーポリシーマネージャー(PPM)という仕組みを作って国際標準化しているという。「能動的にデータを提供してもらって、サイバー空間とフィジカル空間のデータ循環がうまく回るようにしたい」(小西氏)
ロボティクス分野では、複数のロボットが協調しながら1つの作業をするケースを想定して研究を進めている。
「例えば引っ越しの荷物を運ぶときには、複数の人がタイミングを合わせて荷物を持ち上げ、狭い階段はぶつけないように気を付けながら運ぶ。同じことをロボットにさせるには、ロボット間で意思疎通しなければいけない」(小西氏)
違う性能や特徴を持ったロボットでも、目的に応じてちゃんと動作するためのプラットフォームが必要で、その開発にはネットワークの自動化で培ったノウハウを活用できるとしている。
さらに将来は、よりリアル感、没入感を追求して3次元映像が普及すると予想。すると送受信するデータ量が膨大になる。膨大なデータ量を効率的に、かつ品質を落とさずに送る方式を研究し、世界標準化にも取り組んでいる。
Society 5.0を実現するためのさまざまな技術が紹介されたが、小西氏は「ライフスタイルやユースケースを考えること、その実現に必要な技術を考えること、この両輪を回すことが重要」と強調した。
「もちろん、将来のライフスタイルやユースケースは誰にも分からない。ただし、それを考えないと誰も何も分からないまま。だからサイクルを回していきたい」と語り、パートナーの協力も呼びかけた。
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