MVNOは電話交換設備を持たず、卸役務を使ってMNOの音声通話機能を卸してもらい、それを利用者に提供しています。この際にMNOに支払う卸料金は、NTTドコモのみ2011年以降公開されてきましたが、30秒14円(税別、以下本稿では全ての料金が税別)という水準で長らく固定されていました。KDDI、ソフトバンクは卸料金の水準を非公開としてきましたが、卸料金が固定されていた可能性は高いです。その間、MNOにとっての原価となる音声接続料は、緩やかにではありますが低下を続けたにもかかわらず、です。
このため、MVNOはこの水準より安く音声通話の料金を設定することはできず、多くのMVNOは30秒20円での音声通話の提供を余儀なくされてきました。これは、卸料金の低下を市場競争に委ねても通信業界ではうまくいかないということを示しています。
MNOがモバイル音声卸の卸料金を下げない中、MNOが広く提供していた通話定額に対抗するため、MVNOは「中継電話」を利用するという奇策に打って出ます。
事業者識別番号を先頭に付けることで実現する安価な長距離通話料金を武器に、1980年代後半から1990年代にかけて拡大した中継電話事業者ですが、全国一律の通話料金の携帯電話に世の中がシフトすると、昔の頃の勢いはなくなってきました。
しかし、その過去の経緯から電話事業者としての接続を持ち、独自のエンドツーエンド料金の設定権を有する中継電話事業者は、MNOのMVNO向け卸料金とは独立した卸料金を設定し、MVNOに対し電話サービスを卸すことも可能です。MVNOはまさにそこに目を付けた、ということです。
MVNOが卸役務で調達した中継電話サービスを全ての利用者に割安通話料金の音声通話として標準で提供した例としては、筆者の勤めるIIJが提供するIIJmio「みおふぉんダイアル」が挙げらます。中継電話事業者の安価な卸料金によって実現した30秒10円の通話料と、その後の通話準定額(完全な通話定額とは異なり、一定時間以内のショートコールに限った通話定額プラン)の提供による音声サービスの拡充を行いました。
この中継電話事業者とMVNOのコラボレーションはすぐに広がっていき、多くのMVNOのお客さまに安い料金の音声通話を提供することができました。反面、スマートフォン標準の電話アプリでの利用にはプレフィックス番号(事業者識別番号から始まる特定の番号)をお客さまご自身が記憶してダイヤルする必要があり、専用アプリでの通話に不慣れなお客さまには使いづらいサービスであったことも否めません。
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