なぜ2021年にMVNOの「通話料値下げ」が実現したのか 音声通話の歴史を振り返るMVNOの深イイ話(4/4 ページ)

» 2021年12月27日 07時35分 公開
[佐々木太志ITmedia]
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モバイル音声卸を巡るこれまでの議論

 この問題が大きく取り上げられたのは、2019年に情報通信審議会から総務省に答申された「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証」です。この答申では、他の多くの課題とともにモバイル音声卸の卸料金が高止まりしていることが指摘され、あわせてこれまでは比較的緩い規制のみ適用されてきた卸役務のうち、特に指定事業者が提供するものについては卸料金の適正性を確保するために制度を見直すべきとの方向性が示されました。そのための手段として答申で挙げられたのが「代替性検証」です。

 代替性検証とは、卸役務を接続でも実現可能か(接続代替性)を検証することを指します。卸役務と同等の機能を、接続でも実現可能であれば、卸料金が仮に不当に高いとしても、接続料に厳しい規制の課されている接続に移行すればいいだけの話です。ですが、卸役務でしか実質的に実現不可能な機能があれば、その料金が不当に高い場合、卸役務を提供する指定事業者と、卸を受ける他の事業者の間での公正競争は困難であることになります。そのような場合は、卸料金の適正性を検証し、その結果を踏まえて指定事業者が卸料金を値下げするようにすべき、とされました。

 この代替性検証を実際に取り扱ったのが、総務省の有識者会議「接続料の算定等に関する研究会」です。2020年1月に開始された議論では、モバイル音声卸に接続代替性があるか、MNOとMVNOの意見が真っ向から対立しました。MNOのうちKDDIとソフトバンクは、自ら音声卸料金の引き下げを表明しつつも、中継電話をMVNOが活用していることを指摘し「接続代替性はある」と主張しました。一方、MVNOは業界団体であるMVNO委員会を通じて、専用アプリが実質的に必要な中継電話は、MNOからのモバイル音声卸とは同等の機能を提供しているとはいえず、「接続代替性はない」としたのです。

 このような中、NTTドコモは異なる提案をしました。これまで中継電話の利用に当たって必要だった事業者識別番号のダイヤルを、お客さまの手動でのダイヤルや専用アプリを使わなくとも、MNOの交換機で自動的に付加する機能(プレフィックス自動付与機能)の開発です。これが実現すれば、専用アプリを使わなくとも中継電話を利用することが可能となり、実質的に中継電話事業者が他事業者との間で有する接続により、MNOの卸役務が代替されうることになります。最終的に、この機能開発の提案はKDDIとソフトバンクによっても表明され、MVNO委員会もこの提案による接続代替性に理解を示しました。

接続料の算定等に関する研究会 「接続料の算定等に関する研究会」第28回会合のNTTドコモ説明資料より引用。ここでは中継電話事業者ではなく、MVNOが電話交換機を持つように描かれているが、中継電話事業者からの卸役務を受けてMVNOが中継電話をユーザーに提供することもできる

 2021年には、MNOによるプレフィックス自動付与機能がMVNO向けに提供開始となり、またMNOが自ら表明した卸料金値下げも進められました。接続代替性に関する結論はまだ出ていないのですが、このようにしてモバイル音声卸の問題は解消に向け大きな進展を迎え、それがMVNO各社による音声プランの拡充につながった、ということになります。

 接続料の算定等に関する研究会に、MVNO委員会を代表してオブザーバーとして出席し意見を述べた筆者から見ても、この接続代替性の議論は、MVNOの利用者にとって通話料金の引き下げや通話定額プランの拡充などサービス向上につながった、大変に意義深いものだったと思います。

 今後、MVNOによる安価な完全かけ放題など、MNOに対し遜色のない音声通話プランの拡充が進み、音声通話を多用するお客さまでも安心してMVNOをご利用いただけるようになることを期待しています。さらに5G時代には、これまで以上に卸役務が活用されていくことが見込まれていますので、今回の議論を良い先例に、MVNOが高い水準のサービスを利用者に提供できるよう、引き続き卸役務の規制の在り方についての有意義な議論を続けていく必要があると思っています。

著者プロフィール

佐々木太志

佐々木 太志

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) MVNO事業部 ビジネス開発部 担当部長

 2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。


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