人口カバー率96%の達成に先立ち、楽天モバイルは2021年10月に、KDDIローミングのエリアを大幅に縮小している。矢澤氏は「ローミングを切ったことで、楽天モバイルのカバレッジが広がり、データ利用量が非常に増えた」と、その効果を振り返る。ユーザー視点では、高速データ通信が5GBに制限されているKDDIローミングより、データ容量が無制限の自社回線につながっている方が使い勝手がいい。その結果として、データ利用量が上がっているというわけだ。
ユーザーメリットがあるのはもちろんだが、ローミングエリアの縮小は楽天モバイルにとっても、「コスト削減の観点で非常に重要」だ。2021年10月のローミング終了で、「(KDDIに流れるデータ量の)比率はかなり下がった」という。KDDIの第3四半期決算を見ると、依然として楽天モバイルから得ているローミング収入は多いが、これにはカラクリがあるという。矢澤氏は「契約があり、細かくは説明できないが」と前置きしつつ、「10月にカットしてもすぐに0円にはならない。一定期間お支払い続けるようになっている」と語る。
とはいえ、人口カバー率は、あくまで500メートルに切られたメッシュの50%以上がエリア化された場所の割合を示している指標にすぎない。数値に表れない場所で、つながりづらくなる懸念はあった。楽天モバイルの4Gは1.7GHz帯のみで運用されているため、800MHz帯などのプラチナバンドと比べ、屋内に浸透しづらい。自宅内などで楽天モバイルを使っていたユーザーが、突然圏外になってしまうことはリスクの1つといわれていた。
実際、矢澤氏も「つながりにくいというお客さまの声は一定の数いただいた」と認める。一方で、2021年10月のローミング終了に先立ち、楽天モバイルは影響を受けそうなユーザーに対し、その旨を連絡。圏外になるなど、楽天モバイルの利用ができなくなったユーザーには、ドコモ回線を借りるMVNOのSIMカードが入った端末を渡したり、フェムトセル基地局を設置したりといった対策を取っている。こうした取り組みが奏功し、「(つながらない)数自体をかなり抑えられたこともあるが、お声をいただいた中でもスムーズに対応ができた」という。
人口カバー率が96%に達したことで、KDDIとのローミングをさらに縮小する可能性が高まった。現時点では8県のみローミングで提供されているが、矢澤氏は「最終決定はしていない」としながら、「残り全てもカット対象になる可能性がある」と語る。楽天モバイルとKDDIは、半年に1回、ローミングエリアの見直しを行っているため、早ければ3月下旬から4月ごろには、その動きが顕在化しそうだ。ビル内や地下街などの屋内では一部ローミングが残るものの、その割合は非常に低くなる。
楽天モバイルとKDDIは、ローミング契約時に期間を2026年3月までと定めている。新規参入時の開設計画で人口カバー率96%を達成することになっていたのも、2026年3月だ。この2つからいえるのは、人口カバー率96%が、ローミングを完全に終了させるための目安になっていたということだ。屋内でのローミングが残っているため、すぐには実施できるわけではないが、矢澤氏によると、前倒しでローミングを完全に終了させ、楽天モバイル回線に一本化する可能性も「十分あると思っている」という。
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