楽天モバイルの人口カバー率が96%に 「KDDIローミング終了」後の戦略は?石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)

» 2022年02月05日 06時00分 公開
[石野純也ITmedia]
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大幅なコスト削減で攻勢に出る楽天モバイル、地方での獲得も強化

 エリアの拡大とそれに伴うローミングの縮小で、楽天モバイルはコストを大幅に圧縮することができる。楽天モバイルは、2021年度第3四半期には営業損失を1052億円計上していたが、これは基地局建設コストに伴うローミング費用が重なったためだ。同社はローミング費用を大幅に落とすことで、2023年内の単月黒字化を目指している。人口カバー率96%を達成したことで、その現実味が増したといえる。

【訂正:2022年2月5日13時05分 初出時、「2022年度内の単月黒字化を目指している」としていましたが、正しくは「2023年内の単月黒字化を目指している」です。おわびして訂正いたします。】

 これまでは、ユーザーを増やしたい一方で、ユーザーが増えるとその分ローミングコストがさかみ、赤字が拡大してしまっていた。矢澤氏は「アクセルとブレーキを同時に踏んだ状況だった」と語る。その重石が取れれば、費用を「マーケティングキャンペーンに回せる」。人口カバー率96%達成を機に、これまで以上に積極的な攻勢に打って出ることが可能になったというわけだ。

 矢澤氏によると、具体的にはローカルマーケティングを強化していきたいという。「例えば石川県に住んでいる方は、東京でどれだけカバー範囲が広がっても契約しない。石川県でどれぐらいのカバレッジがあるのかを、強く打ち出したい」。実際、楽天モバイルの契約者は、エリアの広さと相関関係がある。「東名阪はスタートからローミングなしでやったのでかなり利用意向が強いが、そこと比べると地方は半分ぐらいしかない」という。

 「マーケティング的にもローミング終了は大きな意味合いがある」というのが矢澤氏の見解だ。その準備として、「地方にも店舗を増やしている」という。ショップは2021年11月ごろから徐々に拡大しており、「エリアマーケティングも順次展開していく」。コストが下がれば、料金を下げる余地も生まれる。矢澤氏が「お客さまの期待を超えられるかは料金が大きいので、積極的に検討はしたい」と語るように、契約者獲得のアクセルを踏むにあたり、料金体系を刷新する可能性も残る。

楽天モバイル 現行のUN-LIMIT VI開始から、間もなく1年がたとうとしている。他社が対抗するなか、浮いたコストを使って料金に反映させられるのかは要注目だ

 「カバレッジもそうだが、スピードの担保も重要」と語る矢澤氏だが、エリア化が先行していた東名阪などの都市部に関しては、容量確保が今後の課題になる。都市部での「密度を上げる動きは、既に始まっている」といい、人口カバー率96%達成後も基地局の数は増やしていく方針だ。屋内ではローミングが残されているが、ここには超小型基地局やリピーターを設置し、エリアの穴を埋めている。

 現時点では、「小型アンテナは1日に200から300カ所設置しており、合計で3万カ所が完了して電波を吹いている」。2021年後半に300人体制のチームを作り、ローラー作戦でエリアを拡大している。店舗のオーナーなどからの要望もあるが、「比率として楽天モバイル側からの申し出が多い。ロケーションに出向き、電測して弱いことが分かれば、オーナーにご要望を出す」という。

楽天モバイル 屋内対策も強化している。超小型基地局の設置は、計3カ所を超えたという

 一方で、人口カバー率96%は通過点の1つでしかないのも事実だ。他社は99%を超えており、人口カバー率などの指標に表れない場所での差は依然として残る。矢澤氏は「プラチナバンドなしでも、屋内、屋外含めてしっかりとしたカバレッジを作っていきたい」と意気込むが、全国くまなくつながるエリアを作っていく上で、プラチナバンドの取得は避けては通れない道だ。エリアに関しては一度イメージがついてしまうと、イメージの挽回には時間がかかるだけに、コツコツと改善を繰り返していく必要もありそうだ。

楽天モバイル 人口カバー率96%達成はゴールではなく、通過点の1つ。今後も、エリアの拡大は続けていくという

 また、既存の大手キャリア3社は、5Gのエリア拡大に注力している。中でも周波数転用を活用したKDDIとソフトバンクはそのペースが速い。直近では2月4日に、ソフトバンクが人口カバー率で85%を超えたことを発表した。転用するための周波数がない楽天モバイルは、「Sub-6とミリ波で基地局の設置を進めている」が、どちらも周波数が高く、展開できるエリアが限定されるため、ペースはどうしても遅くなる。

楽天モバイル 5Gのエリアは東京都内でも非常に狭く、他社に大きく後れを取っている

 矢澤氏は「まだまだ1.7GHz帯だけで十分なキャパシティーはある」というものの、ユーザー数やトラフィックが増加した際に、今より高いスループットを確保できるのか。5Gに関しては、人口カバー率の数値目標なども発表されていないため、楽天モバイルがどの程度エリアを拡大していくのかが不透明だ。4Gのエリアを超短期間でここまで広げた実績があるだけに、今後の展開に期待したい。

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