―― auがG'zOneのデザイン制作をカシオに打診したのはいつ頃でしょうか。
近藤氏 私が井戸さんのところに久々に訪問したのは、2017年の年末でした。ただ、そのときは「復活版のG'zOneモデルを作りたい」という正式な提案をもっていったわけでもなく、ちょっとモヤモヤっと現状をお伝えしただけでした。
その後、年明けて2018年初にカシオさんに最初の試作機デザインを作っていただきました。ただ、そのタイミングでも商品化はもちろん、京セラさんが製造するといった体制が決まっていたわけでもなく、まずは「もし、今のデザインでG'zOneを作ったらどうなるのでしょうか」というテーマで、外観のデザインモックを作っていただきました。
―― そのとき、カシオとしてはどのように受け止めたのでしょうか。
井戸氏 カシオとしては携帯電話事業から一度撤退した立場で、G'zOneのユーザーさんもTORQUEへ移行していただく流れができていたので、役割は終えたのなと思っていました。
しかし、近藤さんから数万人G'zOneに残っているという現状を聞きまして、それは何とかしてあげたいなと思い、デザイン制作に関わることになりました。2018年の前半には、コンセプトデザインを制作して、KDDIさんにお渡ししました。
―― 2018年時点のコンセプトデザインも洗練されていて、製品版と遜色ないデザインに見えますね。
近藤氏 パッと見ても、背面のサークルディスプレイがG'zOneらしい象徴的なアイコンになっているのがお分かりになるかと思います。G'zOneの初号機にあたる「C303CA」をモチーフとした丸形のテンキーを採用すうなど、細部にわたってG'zOneらしさをデザインに盛り込んでいただいたので、20周年記念としてふさわしい仕上がりになっていると思います。
井戸氏 実はこのとき、ひどい話で「2カ月で作ってください」というオーダーだったんです(笑)。
近藤氏 あのときは失礼いたしました(笑)。最初のデザインモックは2018年初頭に、TORQUEケータイをお渡しして、同じようなサイズ感のデザインモックを作っていただきました。当初は製品化というよりも、調査用の参考として実物大のモックアップを出して、ユーザーさんの興味を知りたいという意図で作っていただきました。
こういった製品デザインはポッと出てくるものではなく、コンセプトの策定からアイデアの検討まですごく時間を使うものだと分かってはいたのですが、われわれの調査計画ありきで、かなりのむちゃ振りをしていただくことになりました……(笑)。
井戸氏 一般的にこういったデザインモックを作る場合、外観のデザインだけを図面上で作るだけで2カ月はかかるので、形にするまでに最低でも3カ月はかけて作るものですが、断ってしまったら終わりなので特急仕上げて作ることになりました。
―― なぜ2カ月で形にできたのでしょうか。
井戸氏 むちゃ振りに対応できたのは、実はカシオの社内でケータイのデザインを継続していたからなんです。ケータイに再参入したいという意図ではなく、携帯電話はデザインの良い教材だったからです。
携帯電話って、複合的な要素を詰め込んだ“こってりとした”プロダクトデザインで、新人デザインナーの通過儀礼として非常に適しているんです。特に最近のデザイントレンドはシンプル・ミニマム路線なので、美大卒の若い人もなかなかこういうデザインができる人がいないんです。伝統芸能ではないですが、カシオにはG-SHOCKもあるので、こういうデザインは絶やしちゃいけないんですよね。
結果的に携帯電話のデザインを続けていたことで、引き出しの中のネタがたまっていて、近藤さんの要望にも対応できたというわけです。
―― 今回、設計・製造は京セラが担当していますが、どの時点から加わったのでしょうか。
近藤氏 2018年末〜2019年初のあたりだったと思います。当初、カシオさんにコンセプトモデルのデザインを作っていただいたものの、あくまでコールドモックを作っただけで、商品化まではKDDIの社内的な合意も含めて何段階かのハードルがありました。2018年は、デザインモックを元にリサーチを積み重ねて商品化の可能性を探る年でした。
まずはメーカーさんへのお声がけということで、私としては、もちろん最初から、TORQUEシリーズを作っていただいている京セラさんに技術力からもご参加いただけると良いと思っていたのですが、違う課題もありまして……。
―― 京セラさんの反応はいかがでしょうか。
当然といえば当然ですが「今もTORQUEシリーズがあるのに、なぜG'zOneを作らなければならないんだ」とご意見いただきますよね。スマートフォンをTORQUEシリーズからG'zOneシリーズに戻したいということでは全くありませんとご説明しても、すんなりとはご納得いただけませんでした。京セラさんに関わっていただくためにいろんなデータを見ていただいて、かなり上層部の方までご説明に伺って、何とかご賛同をいただきました。
―― 口説き落としたのですね。
近藤氏 実はG'zOne TYPE-XXには「裏テーマ」があります。「TORQUEを食わず嫌いしている方にこそ使っていただきたい」という思いです。
auではカシオさんの撤退後もタフネスモデルの後継機としてTORQUEシリーズを投入しつづけていまして、一定数のユーザーはTORQUEに移行していただきました。
それでもG'zOneをお使い続けていただいているファンの方々も、まだいらっしゃいます。私もG-SHOCKを愛用しているので「タフネスといえばカシオ」というファンの方々の思い入れには共感するところも多分にあります。イメージだけではなく、実際にカシオさんのタフネス設計に対する技術力の高さがあったからこそ、20年前からタフネスケータイを作れたのだとも思っています。
一方で、企画担当者の立場としてはやはり「どうしてTORQUEを使っていただけないんだろう」という葛藤がありました。今回の「デザインはカシオ、中身は京セラ」というG'zOne TYPE-XXをきっかけとして、京セラさんのタフネスモデルにも使っていただきたい、というのが私の中で裏テーマとするところでした。
井戸氏 今回、カシオは外観のデザインとグラフィックを中心に関わっていまして、製造は京セラさんなので、ある意味、「中身はTORQUE」ともいえるんですよね。
それにカシオがデザインしてG'zOneという名前をつけていいのかという話はあるのですが、ユーザーさんの声を聞くと「カシオのG'zOneのデザインのファン」の方が多く、TORQUEは食わず嫌いという方もいらっしゃったようでした。TORQUE×G'zOne×auという3社のコラボモデルをお届けすることで、京セラのタフネスケータイの良さも知っていただけるのではないかと期待しています。
―― 開発に当たって、京セラの設計チームの反応はどうでしょうか。
井戸氏 実は、京セラの中でも設計チームの皆さんには、かなり前向きに取り組んでいただきました。
「モノの力」というのでしょうか。モックアップを手に取って「作りたい」という思いになられたようです。カシオの方からも細かい部分でかなりの注文を入れさせていただいたのですが、ちょっとびっくりするくらい丁寧にご対応いただきました。モックアップを作ってから製品化までに長い時間があったので、かなり時間をかけてデザインを練り直すことができました。
近藤氏 今だからこっそり言うと、京セラさんとはビジネス交渉をしている段階、つまり製造・開発で参加すると決まる前から、ちょっとフライング的に事前検討を進めていただいていました。
京セラさんの設計部署の方からは「この企画はぜひやりたいので、他社には持ち込まないでください」とおっしゃっていただきました。時間をかけて練りあげたからこそ、モックアップとかなり近い形で製品化まで行き着いたのでしょうね。
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