なぜ撤退した「G'zOne」が復活したのか KDDIとカシオに聞く「G'zOne TYPE-XX」誕生秘話(5/5 ページ)

» 2022年02月27日 08時00分 公開
[石井徹ITmedia]
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スマホが主流の市場で開発に難航

―― 開発期間について確認させてください。2018年初に最初のデザインを作って、発売は2021年12月と、ずいぶん間がありますね。

井戸氏 カシオとしての作業は、製品開発の最初と最後の期間に凝縮されています。最初2カ月にぎゅっとデザインコンセプトを詰めて、その後長い間京セラの設計チームと一緒とともに、機能の作り込みなどをじっくりと進めていました。

 その後しばらくはKDDIとのやりとりがなく、量産化をしないものかと思っていました。2020年に入って、首をひねっていたところ、2020年初に製品化が決定して、最後のグラフィック制作を一気に進めて、製品化といった流れです。

―― G'zOneの20周年は2020年でしたから、20周年を過ぎてしまったということですね。

近藤氏 ユーザーにはお待たせして、大変申し訳ありませんでした。2020年の時点でKDDIとしてはまったく毛色の違う課題に直面しており、量産化をためらいました……。スマートフォン時代ならではの難しさとして「プラットフォーム選定」の課題があります。プラットフォームとは、チップセットとOSを組み合せた、携帯電話の基盤となるパッケージです。

 チップセットはスマートフォンが主流となって以降、長期間に渡り安定供給される製品がかなり限られる状況となってきています。一方で、OSにもバージョンごとにデバイス開発向けのサポート期間が設定されており、この組み合わせがプラットフォーム選定を困難にしていました。

 Androidスマートフォンであれば、毎年のように最新のチップセットが入手でき、OSバージョンアップもそのチップセットに合わせた構成にできます。一方で、ケータイ型端末、つまりフィーチャーフォンでは「長く使えること」も価値であるため、製品の発売後に、どのくらい安定供給できるかも重要な点となっています。となると、必然的に選べるチップセットとOSの組み合わせは限定されています。

 もともとG'zOne TYPE-XXの発売目標としていた2020年はちょうどKDDIの現行フィーチャーフォン向けのプラットフォームの端境期にあたり、新しいチップセットとOSの組み合わせを選定する必要がありました。その当時の現行機種と同じプラットフォームで発売すると、チップセットの供給が途絶えてしまう可能性がありました。一方で当時、長期間に渡る供給が見込めるチップセットを選んでいたら、対応するOSのサポート期間が短くなってしまうとジレンマがありました。

 一時期はKDDI社内で、ケータイ端末そのものを作れなくなるのではないかという議論にもなっており、G'zOne TYPE-XXだけでなく、「GRATINA」や「かんたんケータイ」のような製品も終了せざるを得ないのかという状況にありました。

 プラットフォーム選定に関する課題の検討に1年以上を要してしまい、その間はカシオさん、京セラさんにはお待ちいただくことになってしまいました。

―― その課題が解決したのが2021年ということですね。

近藤氏 はい。デザインもメーカーも決定したところで、プラットフォーム選定という新たな課題が生じてしまったのが、発売が遅れた要因でした。2020年末にようやく最適なプラットフォームを設計できる見通しが立ち、2022年3月の3G停波のタイミングにあわせて、開発を加速化させました。G'zOne TYPE-XX で採用したOSとチップセットの組み合わせは、今後長期間、安定して供給する体制としてはベストな組み合わせだと考えています。

カシオが携帯事業に再参入する考えはない

―― auでは2022年3月に3Gが停波し、しばらくは4G LTEメインのネットワークになります。今後は5Gへの移行も進んでいく中で、折りたたみ型ケータイはどのように続けていくのか、お考えをお聞かせください。

近藤氏 フィーチャーフォンの5G化などで、具体的に決定している方針はありません。現段階では、採用しているディスプレイサイズやチップセットの組み合わせから、4G LTEケータイとして設計するのがベストだと判断しています。ただし、今後のネットワークの進化や部品調達の状況によっては、5G化の可能性もゼロではありません。

井戸氏 5Gはかなり高機能になってきますから、仮に現在調達できる部品で構成すると、10万円を超えるような価格になってしまうかもしれません。少数でもフィーチャーフォンを欲しいという方はいらっしゃるとは思いますが、10万円超の価格でビジネスとして成り立つかというと、難しいでしょう。

―― カシオは約9年ぶりでG'zOneブランドを復活していますが、携帯電話とどう関わっていきたいか、今後の方針はありますか。

井戸氏 カシオとして、携帯電話事業に再参入するという考えは全くありません。今回のG'zOne TYPE-XXもあくまで「京セラ製」で、カシオは商標許諾と製品デザインという立場で参加しています。ただし、もし、G'zOneが非常に好評で予想以上に売れて、第2弾のデザインをお願いされたら、それはお受けするかもしれません。

―― カシオのスマートウォッチやTORQUEと連携するといったコラボレーションの可能性があると面白いと思うのですが、今後の方針はありますか。

井戸氏 実現すると面白いですよね。現時点ではカシオとして具体的に決まっていることはありません。とはいえ、今回のG'zOne TYPE-XXをきっかけとして、KDDIさんや京セラさんとのいろいろなコラボレーションへと発展していく可能性もないとはいえません。いろいろな夢がこの機種で広がりましたよね。

近藤氏 お願いしたKDDIの側の人間ですが、異例のコラボレーションだったと思いますね。

―― G'zOne TYPE-XXの開発に当たっての興味深いお話をいただき、ありがとうございました。「モノの力」という言葉が強く印象に残りました。最後に、開発を終えての実感を改めてお聞かせください。

井戸氏 モノの力で集結したのは、カシオのデザインチームや京セラの設計チームだけではないんです。

 今回、コロナ禍という事情もあったのですが、携帯部品メーカーも国内メーカーの部品を多く使っています。中には既に携帯電話向け部品から撤退していた会社が、数年ぶりに再登板してこの製品のために起こしていただいた部品もあります。いろんな技術者の方が「ぜひこのモックアップを形にしてみたい」と塗料を作ってもらったり、金属を加工してもらったり。塗料、成形、加工メーカーといろいろなところからベテラン技術者が再結集して、G'zOne TYPE-XXを作り上げました。

近藤氏 国産の折りたたみケータイが主流だった3G時代は、国内でもボタンやヒンジのようなパーツを作れるメーカーさんがたくさん存在しましたが、スマホシフトが進んだ現代では、部品メーカーさんも携帯電話向けの製造から撤退していたり、そもそもメーカーさん自体が無くなっていたりするような状況となっています。

 折りたたみ機構やサブ液晶もある折りたたみケータイは、部品点数で言えばスマートフォンよりも圧倒的に多く、複雑な構成の製品です。こうしたデザインを形にして、モノを作りきるという点では、困難な時代に入ってきたなと、製品化を通して実感させられました。

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