新体制で再出発の楽天モバイル 矢澤新社長は「国内ナンバーワンキャリアを目指す」と宣言(1/2 ページ)

» 2022年02月25日 22時41分 公開
[石井徹ITmedia]

 楽天モバイルは2月25日、3月30日付で実施する社長交代の人事を発表。新代表が今後の事業戦略を紹介した。代表取締役CEOにタレック・アミン氏(現副社長兼CTO)が就任、代表取締役社長に矢澤俊介氏(現副社長)が就く“両輪”体制となる。

楽天モバイル タレック・アミン氏(左)と矢澤俊介氏

 楽天グループCEOで、現在は楽天モバイルのCEOも兼務する三木谷浩史氏は、楽天モバイルのCEOを退任し引き続き会長を務める。現社長の山田善久氏は楽天グループの相談役に就任する予定。

楽天モバイル 2022年3月から新体制に移行する

4年で携帯キャリア立ち上げを遂行した楽天モバイル

 楽天モバイルは2017年にフルサービスの携帯電話キャリアとして新規参入を表明。周波数免許の割り当てを受け、2019年末に4G LTE網のモバイル通信サービスのプレサービスを展開。2020年4月に提供開始した。

 “第4のキャリア”として新規参入を表明した当初から、モバイル業界のディスラプター(破壊的創造者)を志向し、当初は“1年間無料”の料金を打ち出し、ユーザーを獲得。その後もデータ料金は月額0円〜2980円という、先行3社よりも割安な料金でサービスを提供してきた。

 ネットワーク構築においては、汎用(はんよう)サーバ上で基地局の機能を実現する「完全仮想化」のアプローチを採用。保守や機能追加で拡張性を柔軟に実施できるネットワークの構築を進めてきた。

楽天モバイル 楽天モバイルは基地局設備を汎用サーバ上に構築する“完全仮想化”のアプローチを取っている

 商用サービス化後、たびたび通信障害を発生させるなどして、総務省から累計8回の行政指導を受けつつも、ネットワークの回収を進め、2021年2月には内閣府から災害対策基本法に基づく「指定公共機関」に認定されるなど、通信キャリアとしての信頼感を高めてきた。

 通信網はサービス開始当初、東京都以外の大部分をKDDIからのローミングに依存していたが、2022年には4G LTE網で人口カバー率96%を達成。自社回線の接続率は90%に達している。当初、総務省に提出した開設計画を「4年前倒し」で達成したとしている。契約数は500万人を突破し、自社MVNOを含めると550万人を数える。

楽天モバイル 基地局建設を破竹の勢いで進め、4G LTEエリアを拡大してきた

 国内での事業展開と並行して、完全仮想化ネットワークの技術を海外に販売する楽天シンフォニーを設立。ドイツの携帯事業者へ技術を提供するなど、自社技術の海外展開も進めている。

 楽天はこれまで、携帯キャリアの立ち上げに“投資”としてグループの資金や人材を集中投入。新規ユーザーの獲得費用や基地局展開の前倒し、KDDIへのローミング費用の支払いにより、2021年度はグループ全体で過去最大となる1338億円の営業損失を計上するなど、支出が続いている。ただし、自社のネットワークが拡大したことから2022年第2四半期以降はKDDIへのローミング費用が逓減し、収益性は改善している見通しとしている。

 つまり、2017年末に携帯キャリアへの参入を表明してから約3年で、国内の4G LTEネットワーク構築が一段落し、収益化を狙える段階に入ったというのが楽天モバイルの現況だ。

海外・国内の両輪体制

 新体制ではアミンCEOが楽天モバイルとしての企業戦略を策定し、海外事業の楽天シンフォニーを統括。矢澤社長は楽天モバイルの国内事業の責任者となる。

 楽天モバイルの新CEOのタレック・アミン氏は、海外の携帯キャリアを経て楽天モバイルに参画。完全仮想化ネットワーク構築を推進した功労者だ。アミン氏には三木谷会長からも絶大な信頼を寄せており「一言で言うとモバイルネットワーク界のスティーブ・ジョブズか、イーロン・マスク。既存の概念にとらわれない力がある。IT大手のIntelやQualcommのトップを巻き込んで進めていく経験と信用力は、(サッカーで)イニエスタがヴィッセル神戸でプレイしているような貴重な人材」(三木谷氏)と評している。

楽天モバイル 「楽天モバイルは黎明(れいめい)期を過ぎた」と語るアミン氏

 アミン氏はプレゼンテーションにおいて、「4年前に来日したとき、日本の携帯市場には驚かされた。非常に高価で分かりづらい料金プラン。ユーザーはデータ容量をどのくらい消費したかを気にしている。楽天モバイルはこの状況を変えた。日本の携帯料金を6割逓減し、全国の96%のエリアをカバーしている」と振り返った。CEOに就任後は、海外展開に積極的にいっそう注力していく方針で「日本で生まれた技術を世界に売り込んでいくのが楽天モバイルの戦略のコアにある」と表明した。

 対する新社長の矢澤俊介氏は、楽天市場から移籍し、基地局の用地確保や総務省との渉外など国内キャリア事業の全般を陣頭指揮してきた。三木谷氏は矢澤氏に対して「当初楽天モバイルが苦労していた基地局の用地確保を、他キャリアとは異なるユニークなやり方で成功させた」と評価している。

 矢澤氏は「楽天モバイルはオペレーションとイノベーションという両輪で、たくさんのことを成し遂げてきた」として、独自開発のネットワークと着実な基地局開拓、店舗運営などの結果として、楽天モバイルの実績があると話した。そして、国内事業においては、「数年後には国内ナンバーワンの携帯キャリアを目指す」と表明。当面は屋内エリアを拡充に注力する方針を示した。

楽天モバイル 矢澤氏は国内ナンバーワンキャリアを目指すと宣言

法人向け事業の拡大目指す

 25日に楽天モバイルが開催した記者会見では、新CEOと社長による抱負の表明に大部分の時間を割いたが、楽天モバイルの新展開についても言及された。三木谷会長は「2022年の前半は法人向けのビジネスを展開していく」と表明した。

楽天モバイル 楽天モバイル会長の三木谷氏

 企業向けビジネスの具体例として企業を対象とした「Rakuten Link(通話サービス)」の展開、工業・倉庫などでの「プライベート5G/LTE」の導入、ロボットや産業用機器など「エンタープライズIoT」のソリューション展開が挙げられた。

楽天モバイル 三木谷氏はIoT分野で楽天モバイルの強みが生かせると強調した

 このうちエンタープライズIoTについては、三木谷氏いわく「楽天モバイルならでは」のサービスが提供できるという。基地局機能を仮想化しているため、新たな機能の追加実装がソフトウェア上の処理で完了するためだ。アミン氏も「楽天モバイルはモバイルエッジコンピューティングにおいて、1000以上のデータセンターを有している」とこの分野での優位性を強調した。

 事業展開の目標について三木谷氏は「楽天グループとして40万社の企業との取引があり、その4分の1の企業は『楽天モバイルにする』と声をいただいている」として、“法人向け市場で4分の1程度のシェア”を目標として掲げた。ただし、この目標は三木谷氏の目算であり、どの法人向けサービスに注力するかなど、具体的な事業計画に基づくものではないようだ。

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