auが黒部峡谷鉄道で“圏外”を解消 山岳地帯の狭小トンネルにどう挑んだ? 現地でチェック!(2/2 ページ)

» 2022年10月25日 07時00分 公開
[石井徹,ITmedia]
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「エリア化できるのか」、深夜にトンネルの実地検証を重ねて実現

 さまざまな困難を乗り越えて、KDDIはトンネル区間を含む黒部峡谷鉄道全線のエリア化を完了しさせた。エリア構築を統括したKDDIの金月昭太氏は「これはエリア化できるのか、という難易度の高い場所もあった」と振り返る。

黒部峡谷鉄道auエリア化 auエリア化に関わった面々

 特に難しかったのは、トンネル区間のエリア化だという。繰り返しだが、黒部峡谷鉄道はナローゲージでトンネルも非常に狭い。一般的な鉄道トンネルなら通信設備を設置するすき間を確保しやすいが、黒部峡谷鉄道のトンネルにはそのような余裕はほとんどない。

 KDDIでは今回、障害物に強い“プラチナバンド”の800MHz帯を活用してエリアを構築した。トンネルでは主に入り口付近から電波をビームのように送り込む「吹き込み」という手法を多用してエリア化した。

黒部峡谷鉄道auエリア化 トンネル区間の携帯電話エリア化のイメージ図。黒部峡谷鉄道のエリア化では、トンネル入り口に設置したアンテナから電波を送り込む「吹き込み」という手法を多用している

 観光客向けの1つ目の途中駅、黒薙駅近くにあるトンネルはエリア化の難易度が高かったという。黒薙駅は崖に面して設置されており、欅平駅方面へ発車する直後に大きな鉄橋を渡り、トンネルに入る構造となっている。もしもこの鉄橋に光ファイバーのケーブルを通すとなると、かなり大掛かりな工事となってしまう。そこで、ここでも“吹き込み”によるエリア化が採用されている。具体的には、黒薙駅構内に「バズーカアンテナ」と呼ばれる大きなアンテナを設置し、トンネルの入り口めがけて直線的に電波を飛ばしている。

黒部峡谷鉄道 黒部峡谷鉄道の黒薙駅北側のトンネル。トラス橋である後曳橋に隣接して設置されている
黒部峡谷鉄道auエリア化 黒薙駅に設置された通信設備。通信機器が収まる箱は、環境に配慮して茶色に塗装されている。バズーカアンテナは塗装すると出力が落ちるため、ライトグレー色となっている
黒部峡谷鉄道auエリア化 左上の円筒が黒薙駅のバズーカアンテナ。写真中央の後曳橋の先にトンネルに向けて携帯電話の電波を吹き込んでいる

 ただ、このトンネルも当然ながら列車ぎりぎりの大きさで掘られている。ゆえに、列車が通った際の通信品質の確保が課題となる。金月氏は「トンネルのすき間が狭いため、乗客を載せた列車がトンネルを通過すると、トンネル内にすき間がほぼ無くなってしまう。このようなトンネルは類例がなく、ノウハウがほとんど無かった」と説明する。事前に行ったシミュレーションでは「本当に電波が浸透するか」の確信が持てなかったため「運行終了後の23時にトンネル内に測定機器を持ちこんで、何度も電波の入り具合を調査した」そうだ。

 また、吹き込みは内部で曲がりくねるトンネルのエリア化には弱い。そこで、一部のトンネルではアンテナだけをトンネルの途中まで引っ張り込み、そこから電波を発出する対策も実施している。例えば宇奈月駅と柳橋駅の中間にあるトンネルでは、トンネル内部の2カ所(宇奈月駅から700mの地点と柳橋駅から400mの地点)にもアンテナを設置している。

黒部峡谷鉄道auエリア化 宇奈月駅と柳橋駅の中間にあるトンネルの宇奈月駅側の入り口。トンネル入り口の通信機材は、積雪に耐えられるように横並びで設置されている
黒部峡谷鉄道auエリア化 宇奈月駅側からトンネルを700m進んだ先に、アンテナがもう1基設置されている

 結果として、黒部峡谷鉄道の全線のエリア化作業には、約3年という期間を費やした。そのうち1年ほどが事前検証に要したという。今回のエリア化工事で計50カ所にアンテナを設置し、エリア化を完了していた5駅と合わせて全線でau携帯電話が使えるようになった。

黒部峡谷鉄道auエリア化 黒部峡谷鉄道のトンネル内のエリア化は4キャリアの中でもauのみ。通信速度は実測値で30Mbps〜60Mbps程度。SNSに紅葉の写真をアップするにも十分使える速度だ

 携帯電話キャリアがエリア拡大にしのぎを削り、地道にエリア構築を進めた結果、4G LTEの人口カバー率は3社で99.9%を超えている。競争の主軸は5Gのエリア展開に移っているが、山間部や離島などに“圏外”はまだまだ存在する。

 5Gの普及期には自動運転やドローンなどの用途も広がり、人が定住しない所での通信需要も発生するようになる。そううした地域をエリア化する手段として、複数キャリアの共用アンテナの活用や、低軌道衛星やHAPSによる空からのエリア化といった、さまざまな技術の実用化されつつある。エリア整備の地道な取り組みを続けた先には、いつの日か“圏外”が無くなる時が訪れることになるだろう。

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