2023年時点では5Gが普及途上にあるが、その先の世代、いわゆる6G/Beyond 5Gを見据えた次世代ネットワークの開発が始まっている。ソフトバンクでは、モバイル通信サービスを構成する無線アクセス、RAN、コアネットワークの3つの要素でそれぞれ研究開発を行っている。
無線アクセスでは、6Gではテラヘルツ波の活用が視野に入る。テラヘルツ波は5Gのミリ波よりも高く、電波と光の境界面となる帯域だ。ミリ波の3倍以上の広大な帯域幅の活用が見込まれるが、直進性が高く、障害物の影響を受けやすいという性質がある。
ソフトバンクは、テラヘルツ波を活用するために「回転反射鏡アンテナ」を開発している。端末の位置に応じて360度回転し、効率的な通信を実現するアンテナだ。高速な回転も可能としており、テラヘルツ波のビームを全方位でスキャンし、通信効率を高められるという。
イベントでは、回転反射鏡アンテナがデバイスの位置に応じて回転し、300GHz帯テラヘルツ無線の電波を回転反射鏡アンテナで受信するデモンストレーション展示が行われた。将来的にはアンテナをチップ化し、小型化した上で実用化を進める方針だという。
テラヘルツ波のさらに先、光の領域における無線通信技術の開発も行われている。いわゆる光無線通信で、赤外線から可視光線までの間の波長の電磁波を用いて遠方の機器との通信を行う技術だ。
光は数十キロ先まで通信できる直進性を持つが、その直進性の高さゆえに活用が困難とされてきた。例えば、無線発射角が1度ずれると、10km先の到達地点は174mものずれが生じてしまうという。また、遮蔽(しゃへい)物にも大きく影響されるため、例えば「雨が降ると通信できない」など通信品質が気象に大きく左右される。これらの課題から、これまでモバイル通信としての実用化は困難とされてきた。
ソフトバンクは、光無線通信を実用化するため、数年にわたって検証を重ねている。発射角・入射角のコントロールにおいては、鏡によって正対制御機構を備えた通信装置を開発しており、今回のイベントでは撮影不可の展示として公開した。
光無線通信の2つ目の課題となる気象への対応については、1年間の技術検証でデータを蓄積し、空気中の水分量がどの程度あると通信への影響が生じるのかを検証しているという。デモでは、光無線通信のためのシミュレーターを開発し、反射光を制御して通信を行う仕組みも紹介した。
ソフトバンクは、光無線通信を商用の無線サービスのバックホール回線として活用できないか検討を進めている。光無線通信を離島との通信網のバックホールとして活用することで、晴れた日には5Gによる高速通信が可能となるという。
3月には小豆島に光無線通信を行う試験局を開設し、実環境での検証を開始している。今後、1年程度かけて通信品質を検証し、一定の通信品質が確保できる場合は、商用サービスへの導入も検討するとしている。
ソフトバンクは今後、ドローンやHAPSと地上局の通信への、光無線通信への応用も模索していくという。対ドローンでは、最大10Gbpsの高速通信が可能となるため、4Kや8Kの大容量映像を圧縮なしで送信するなど、新たな用途の発掘も期待される。
vRANでは、ソフトバンクが検証している2つのアプローチを紹介した。vRANとはvirtual Radio Access Networkの略称で、無線アクセスネットワーク携帯電話基地局のアンテナからコアネットワークまでをつなげる部分(RAN)の機能を、汎用(はんよう)プロセッサを用いて実装し、カスタマイズ性を高める取り組みを指す。
ソフトバンクはvRANにNVIDEAの技術を活用し、5G RANとMECを融合した通信環境の構築を検証している。MECとは5G基地局内でエッジコンピューティング処理を行う技術で、自動運転車の映像の処理や対戦ゲームのストリーミング配信など、即応性の高い処理への活用が期待されている。通信負荷が高い状況では汎用GPUをvRANで活用し、負荷が低い状況では汎用GPUをMECとして用いることで機器の使用効率を高め、ネットワーク運営全体のコストを抑えることができるという。
また、ソフトバンクは日本に本拠を置くスタートアップ企業EdgeCortixと提携し、AIを高速で処理する技術を無線アクセラレーターに応用する検証を進めている。この技術を適用するのはRANの中でも「低密度パリティチェック(FDPC)」という処理で、vRANの実現を進める中で計算負荷が課題となっていた部分だ。この処理にEdgeCortixの推論技術を適用することで、市販のFPGAエンコーダーによる結果と比較して10倍高速な、36Gbpsのスループットで処理が行えることを確認したという。
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