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ソフトバンクが6G時代の先端技術を披露 上空エリア化から自動運転、障害に強いネットワークまで(1/3 ページ)

» 2023年03月23日 19時00分 公開
[石井徹ITmedia]

 ソフトバンク 先端技術研究所は、技術展示イベント「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」を開催。「次世代ネットワーク」「HAPS」「次世代電池」「自動運転」「次世代コンテンツ」「量子技術」の6つのテーマで研究開発中の技術を紹介した。

 3月22日に実施した報道向け説明会から、展示の様子をお伝えする。

ギジュツノチカラ ソフトバンクの技術展示イベント「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」

ソフトバンク 先端技術研究所とは

 ソフトバンクは2022年4月にR&D部門を改組し、「先端技術研究所」を発足した。今回のイベントは同研究所として初のオープンハウス(技術展)となる。

 湧川隆次所長は「ソフトバンクの研究開発の特徴について、事業開発としての技術開発を重視していることだ」と説明する。研究サイクルは、大学などの基礎研究が10年程度のスパンで運用されているのに対して、先端技術研究所は3年スパンという短期型を採用。新分野の技術をいち早く社会に取り入れ、役立つサービスへと昇華されることにフォーカスしているという。

ギジュツノチカラ ソフトバンク 先端技術研究所の湧川隆次所長
ギジュツノチカラ 社会実装を意識した短いスパンでの技術開発に特色があるという
ギジュツノチカラ ソフトバンク先端技術研究所の注力分野
ギジュツノチカラ 「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」の展示の様子

上空から携帯エリア化する「HAPS」と次世代電池

 ソフトバンクの研究開発の中でも、特に野心的なプロジェクトがHAPS(ハップス、成層圏プラットフォーム)だ。HAPSとは成層圏を飛行する通信プラットフォームの総称で、モバイル通信規格としては6Gにおける標準化の検討対象となっている。

 一般に無線通信網は高い位置から電波を吹くほど広範囲のエリアをカバーできる。高度20キロを飛行する無人航空機に基地局を載せれば、1つの基地局で直径200kmの広範囲をカバーできる。HAPSの導入により山間部の携帯エリア化が実現できる他、ドローンなどで活用するための空中のエリア化も可能となる。

ギジュツノチカラ ソフトバンクは子会社のHAPSモバイルにおいてHAPSで使う無人飛行機機の研究開発を行っている

 ただし、HAPSの実現には課題もある。とりわけ重要なのは機体の開発だ。HAPSには、モバイル通信用の機器を載せて飛行し、宇宙空間に近い成層圏で長時間対空できる無人飛行機が必要となる。ソフトバンクは傘下のHAPSモバイルという子会社を2017年に設立し、HAPSで活用するための機体の開発と技術実証を進めてきた。

 HAPSモバイルは現在、Sungliderという無人飛行機を開発し、米国で試験飛行を繰り返し行っている。Sungliderは、尾翼のないグライダー型の飛行機で、一度離陸すると上空を周回しながら、6カ月滞空できる能力を有する。翼に備えたソーラーパネルで充電し、10個のプロペラを回して高度を保つ仕組みだ。

ギジュツノチカラ HAPSのオペレーター向けのシミュレーターを今回初めて公開した

 このHAPSに搭載するため、先端技術研究所ではリチウムイオン電池の研究も行っている。ソフトバンクはEnpower Japanとともに電池セルを開発し、エナックスと共同でHAPS向けの電池パックとしてパッケージ化している。HAPS用に開発したリチウム金属電池は、軽量さと高い出力を両立させており、市場で流通している高性能リチウムイオン電池を上回る高効率だという。

ギジュツノチカラ HAPSで用いられているリチウム金属電池のセル

 一方で、リチウム金属電池には弱点もある。充放電を繰り返すとセル内にリチウムデンドライトと呼ばれる樹脂状の不純物が堆積し、電池寿命が減少しやすいという性質がある。この性質は充放電中のバッテリーセルに高い圧力をかけると緩和されることが知られている。先端技術研究所では電池に圧力をかけ続ける機構の研究も行っている。

ギジュツノチカラ HAPS向けのリチウム金属電池のパッケージ。耐環境性能と軽さ、性能の両立を図っている

 HAPSと地上局とのモバイル通信でも技術開発を進めている。これまでのモバイル通信は地上での利用を前提としたもので、空中環境での利用は想定されてこなかった。ソフトバンクは、空中で電波がどう伝わるのかを確かめるために、セスナ機に基地局アンテナを取り付けて、その性質を確かめる実証実験を行っている。

遠隔監視プラットフォームで自動運転のコスト軽減を目指す

 各国で実用化に向けた実証実験が進められている自動運転技術。ソフトバンクでは、自動運転技術を開発するMay Mobilityと協力し、東京・竹芝エリアで自動運転車両の実証運行を実施している。

ギジュツノチカラ 竹芝エリアで公道を走行する自動運転の実験車両

 先端技術研究所では、自動運転の関連技術として遠隔監視プラットフォームの開発を進めている。鉄道における列車運行管理システムのように自動運転車両を遠隔監視する仕組みだ。

 2023年4月の道路交通法改正により、自動運転の「レベル4(特定環境下での無人運行)」が解禁となる。現状の法制度下では緊急時に停止操作が行える運転士が乗車していない場合に自動運転が実施できないが、法改正後は遠隔地で自動運転車両を監視し、緊急時に速やかに停止する体制を整えれば無人での運行が許可されることになる。

ギジュツノチカラ 自動運転の管制システム

 ただし、自動運転の普及においては、技術面だけでなく、コスト面でも課題が残されているという。自動運転車両は多数のセンサーや自動運転用のソフトウェアなどを搭載するため、車両1台あたりの単価は割高になる。運転士の人件費がかからないとしても、遠隔地で運行管理を行う人員は必要となるため、現状ではタクシーやバスの有人運転よりも多くのコストがかかる状況だという。

 ソフトバンクでは現状、3台の車両を1人で管制する体制で自動運転車両の実証実験を行っているが、その体制を取っても有人運転よりも割高となっている。そこで先端技術研究所では、自動運転の運行コストを削減するための将来的なサービスとして「1人の運行管理者が100〜1000台の車両を管制できる遠隔監視プラットフォーム」の開発を進めている。

 次世代の遠隔監視プラットフォームでは、AIによる処理で情報をふるい分け、対応が必要な情報のみを運行管理者に通知する。車両などのカメラ映像を人の目で監視する現状のシステムと比べて、より多くの台数を効率よく管理できるようになるとしている。

ギジュツノチカラ AIを遠隔監視に活用することで、人が画面を注視する必要がなくなり、10台から100台の自動運転車を監視できるという

 車両側の対応だけでなく、道路におけるセンシングや、デジタル地図の整備などの技術的な課題も存在する。前者においてソフトバンクでは、セルラーV2Xを活用して路上の障害物を検知するシステムの技術検証を行っている。デジタル地図の整備については、点群データなどを韓国NAVERグループの開発したデジタルツイン技術を採用し、航空写真などを活用した効率的な地図整備を進めている。

ギジュツノチカラ セルラーV2Xの技術検証
ギジュツノチカラ 路面などに反射した電波も捉えられるコネクテッドカー向けのアンテナ
ギジュツノチカラ 航空写真から高精度な3D空間地図を作成できるNAVERのソリューション。ソフトバンクではVRゲームなどに活用できるモデルの作成や、携帯基地局の電波のシミュレーションへの活用も研究している
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