1月24日、日本でApple Music Classicalのサービスが開始された。その名が示す通り、クラシック音楽向けに最適化されたストリーミングアプリで、既存のApple Musicサブスクリプションに登録しているユーザーであれば、追加料金なしで、500万曲以上のカタログから楽曲を楽しめる。対応する端末は、iOS 15.4以降を搭載した全てのiPhoneとiPadモデルおよびAndroidデバイスだ。
Appleはなぜ、クラシックジャンル専門のアプリの提供を開始したのだろうか。話は2021年にさかのぼる。この年の8月、Appleはドイツのクラシック音楽専門のストリーミングサービス「Primephonic」を買収した。
Primephonicは、クラシック専門をうたうだけあり、検索性、キュレーション、楽曲解説においてクラシックの特異性を意識したユーザー体験を提供していた。その一方で当時のApple Musicのクラシックジャンルにおけるユーザー体験は、相対的に見て優れたものとは思えなかった。
それだけにAppleは、この買収によりPrimephonicのノウハウを獲得しようとしたものと思われる。その上で、従来のApple Musicアプリから独立した専用アプリとして仕立て上げることで、愛好家をも満足させられる高度なユーザー体験を提供しようともくろんだのだろう。
高度なユーザー体験とはどのようなものだろうか。Appleは検索機能の高度化を第一に掲げる。クラシック音楽は、同じ楽曲名でもバリエーションが多い。例えば、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」には、指揮者や楽団の違いで多くの録音が存在し、Apple Musicにも多数登録されている。
多数の検索結果の中から、お目当ての演奏家や指揮者といった、特定の作品を探し当てるのに時間がかかることも多いのが実情だ。Apple Music Classicalは、専用アプリ化することで、クラシック音楽の特異性を考慮した使い勝手の向上を狙っている。
このような検索機能の他にも、限定コンテンツや録音作品も提供、あるいは提供が予定されている。まさに、世界有数の音楽プラットフォームらしい力業でのサービスといえよう。例えば、チケットの入手が難しいウィーン・フィルの楽友協会における定期演奏会を空間オーディオで聴くことができる。ウィーン・フィルとの連携で実現したコンテンツだ。
ウィーン・フィルの他にも、ベルリン・フィル、メトロポリタン歌劇場といった、世界有数の会場やオーケストラがパートナーとして名を連ねている。日本からは、Bunkamuraオーチャードホール、新日本フィルハーモニー交響楽団、サントリーホールなどが参加している。
発表イベントでは、Apple Music Classicalを統括するジョナサン・グルーバー氏がアプリの特徴を説明した。前述のように、クラシックジャンル向けの検索機能の強化についての説明や限定コンテンツの紹介、ならびに、ハイレゾロスレス配信、Dolby Atmosによる空間オーディオコンテンツなどへの対応を紹介した。
続いて、アーティストアンバサダーに就任した指揮者の佐渡裕さんとギタリストの村治佳織さんがゲストとして登壇し、Apple Music Classicalへの思いを語った。
佐渡裕さん、村治佳織さん共に各種メディアでの取材や出演経験が豊富なだけに、話者としての力量は折り紙付きで、Apple Music Classicalに対する期待や、最新テクノロジーとクラシック音楽に対する考え方を披露していた。
また、イベント後半では、村治佳織さんのギター演奏を堪能することができた。オリジナル曲「エターナル・ファンタジア-薬師寺にて」、ナルシソ・イエペスの「愛のロマンス(禁じられた遊び)」、フランス人ギタリスト、ローラン・ディアンス作曲の「タンゴ・アン・スカイ」の3曲をしなやかで優麗な指さばきで演奏し、オーディエンスを魅了していた。
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