イベント終盤では佐渡さんと村治さんに対する質疑応答の時間が設けられた。筆者としては、Apple Music Classicalの運営方針や実務レベルについての質問がしたかったのだが、アンバサダーのお二方に聞くことがためらわれる内容だけに、肩を落としていたら、デモ体験の場で、ジョナサン・グルーバー氏が囲み取材に応じてくれた。
まず聞きたかったのは、独立系レーベルの楽曲の取り扱いだ。メジャーレーベルの作品については、Appleは直接レーベル側と相対でビジネスを行っている。その一方で、筆者が運営するレーベルも含め、独立系レーベルの多くはアグリゲーターを介してビジネスを行っている。
アグリゲーターを介した場合、アルバム名や曲名といった基本情報以外のより詳細な情報、例えば、アーティストのプロフィールや楽曲の背景など、詳しい情報などの提供が難しいという課題を抱えていた。メジャーレーベルとの間に発信情報の格差が発生しているのだ。独立系レーベルの中には、愛好家が歓喜する掘り出しモノ的な作品をリリースするところも多い。
その点についてグルーバー氏は、「ビジネスは従来通りアグリゲーターを介して行ってもらうことになるが、音楽についての情報の共有は独立系レーベルであっても直接話をしている」と明かしてくれた。
ちなみに、筆者のレーベルで提供しているアルバムもApple Music Classicalに早速登録されていた。ただ、前述のように、アグリゲーターにメタデータとして提供しているアーティスト名や楽曲名など、必要最低限の情報に限定されていた。
もう1点気になることがあった。買収される前のPrimephonicは、キュレーターが顔を出して、名前や顔が見える形でレコメンドやプレイリストの公開を行っていた。ユーザーからすると「この人が推薦するなら」という安心感につながっていた部分もある。
これは筆者の想像だが、各キュレーターには、特定のファンが付いていたのではないだろうか。Apple Music Classicalにおいても、同様の仕組みは提供されるのだろうか。
「興味深い質問だ。これまでApple Musicでは、キュレーターは自分の名前を伏せて情報を提供していた。クラシック音楽には多様性が求められる。アーティストやサントリーホールなどの施設でない限り、誰か特定の人物が名前を出してキュレーションをすることは重要なこととは思えない」(グルーバー氏)
すごく遠回しな回答だが、Apple Music Classicalも従来のApple Musicを踏襲し、特定のキュレーターの名前や顔が前面に出ることはないということらしい。
そして、最後に「クラシカル・クロスオーバー」のようなポピュラーとクラシックを融合したジャンルの扱いはどうなるのか聞いた。著名なところでは、サラ・ブライトマンとアンドレア・ボチェッリの「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」などがある。
グルーバー氏は「当然、Apple Music Classicalでも提供する」と言い切った。クラシカル・クロスオーバーには珠玉の作品も多いだけに、リスナーの耳に触れる機会が多くなることは大歓迎だ。
多くのクラシック音楽愛好家の期待を背負い船出したApple Music Classicalだが、ある程度時間をかけて使い込んでいかなければ、アプリが提供する本質的な優位性を見いだすことができないと感じた。筆者も早速ダウンロードして、広大なクラシック楽曲の大海原に漕ぎ出してみたいと思う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.