「格安スマホ」の10年と今後 政府の圧力でハシゴを外されたが、2024年は追い風が吹く 石川温氏が語る(1/2 ページ)

» 2024年04月07日 10時00分 公開
[房野麻子ITmedia]

 テレコムサービス協会MVNO委員会は3月22日、「ユーザが望むこれからのMVNOとは」というテーマで「モバイルフォーラム2024」を開催した。MVNOが「格安スマホ」として市場に認知され始めて10年、ユーザーはどのように感じ、市場はどのように変わったのか。また、今後、ユーザーはMVNOに何を望み、MVNOが担うべき役割は何なのかを議論した。

 今回はスマートフォン/ケータイジャーナリストの石川温氏による基調講演「格安スマホと呼ばれて早10年 MVNOはMNOとどう棲み分けるべきか」の内容を紹介しよう。

石川温 スマートフォン/ケータイジャーナリストの石川温氏

総務省の施策に振り回された10年

 石川氏はまず、「バブルに沸く『格安スマホ』、流行語で終わらせないためには」というタイトルで自身が10年前に執筆し、2014年11月21日に公開された記事を紹介した。2014年はイオンがLG製スマホ「Nexus 4」とSIMをセットで発売し、既に存在していたMVNOが一般にも認知されるようになった年。イオンスマホがヒットし、日経新聞が見出しに「格安スマホ」という言葉を使ったことで一気に広まっていった。

 石川氏のその記事の中では、楽天の三木谷浩史氏が、MVNOだった楽天モバイルで端末を「3年間で1000万台を売る」と豪語したこと、フリービットの石田宏樹氏が格安という表現を否定して、新しい価値の提供を目指していることも記されている。また、この頃から既にY!mobileが注力されていて、ソフトバンクショップでY!mobileを販売するようになったこと、KDDIもMVNO事業に参入することが書かれている。

 記事は「2年後でも安心してMVNOを使い続けることができ、そのよさが口コミとして伝わり、多くの人がMVNOに変えられるかどうかは、まさにこれからのMVNO事業者の踏ん張りにかかっている」とまとめられおり、「ずっとこういった課題を抱えて10年間過ごしてきた業界」と振り返った。

 石川氏はこの10年を「総務省に振り回された10年」とし、「あくまでメディアの立場として、1人のフリーランスライターとして」と断りつつ、総務省のさまざまな施策について批評した。

割引規制で日本メーカーが厳しい状況に

 2万2000円から4万4000円に引き上げられた端末割引については「ガイドラインに無理が生じている」と手厳しい。新しい仕組みは2023年12月27日から適用されているが、翌日にソフトバンクが(1年後の端末返却を前提に)1円で販売した。また、キャリアは端末の買い取り価格が将来的にいくらになるか「買取等予想価格」を決めて公表しなくてはならない。これを「もう限界に来ているというか、無理がある」と批判的だ。

買取等予想価格 石川氏は端末割引規制に対し厳しい見方をしている。スライド右の表はキャリアが公開している買取等予想価格

 「毎年同じような端末が出てくるiPhoneは価格がつけやすいが、まったく新しいメーカー、例えばつい最近ZTEが出したnubiaの端末をいくらにすべきかとなったら、正直分からない。それによって不公平感も出てくる。机上の空論とは言い過ぎかもしれないが、こういうことを現場に強いるのは限界。キャリアの方が圧倒的にいろんなことを考えている。キャリアに対して規制をかけたところで、うまくいくものではない」

 また、端末割引によって、FCNTが一時、民事再生手続開始の申立てを行うなど「日本メーカーが苦しい立場に追いやられた」と語る。上限2万2000円の割引規制を作ったことによって、少しでも安い端末を売りたいキャリアのために、メーカーは2万円で端末を作らなければならない状況になった。そこに昨今の円安で部材の調達が難しくなり、少ない利益がさらに圧迫された。「ルールを作ったことによって、通信端末を作る日本メーカーが窮地に立っている。由々しき事態だと思う」と警鐘を鳴らした。

メーカーの意図とは異なるSIMフリー端末の拡大

 通信と端末代金の分離は、端末のSIMフリー化を進めた。10年前はSIMフリー端末を調達するのが大変だったというMVNOの声もあるが、最近はどのメーカーもSIMフリーのオープンマーケットモデルを出すようになった。ただ、メーカーに話を聞くと「必ずしも自分たちがやりたかったことではなかった」という言い方をしているそうだ。

SIMフリー 多くのメーカーがSIMフリー端末を出し、自社で売るようになったら、否応なくという面もあるという

 「メーカーは2年後、3年後、キャリアにスマホを納入する計画を立て、商品を企画し、部材を調達する。しかし、キャリアに納めようとすると『いらない』と言われる。端末が高騰しているのに、キャリアは割引ができないし、端末をさばけない。2、3年前は調達の計画があったかもしれないが、できないからいらないと言われ、結果としてメーカーが在庫を抱えてしまう。そのため、メーカーはかなり早いタイミングでSIMフリー化して自社で売るか、キャリアに無理やりお願いしてオンラインショップだけで売ってもらうようにするという状況がある」

 SIMフリー端末の増加はユーザーにとってはうれしいことだが、メーカーにとっては厳しい状況でもある。「今後、ハイエンドスマホを作りにくくなる状況になるかもしれない」と危惧した。

 総務省のさまざまな施策によって、「iPhoneを買っておけば安心という状況になっている」と石川氏は言う。iPhoneはグローバルで流通しているので、中古市場で圧倒的な人気機種。また、7年、8年前の端末でも使えるように、端末のライフサイクルが長い。iPhoneを買っておけば長く使え、中古ショップで高く買い取ってくれる。1円で買えるiPhoneもある。「総務省の施策が日本メーカーには厳しく、Appleに優しい状況になっている」と指摘した。

 そんな中で変わったのが「Googleが本気を出してきたこと」。Google Pixelがシェアを伸ばしているが、石川氏はテレビCMなど「広告の影響が大きい」とみている。

SIMフリー Googleは大々的な広告や大幅な割引でシェアを伸ばしている

 「Google検索でもうけた広告収入が、そのままテレビの広告に流れているという状況。広告の力と、端末の割引原資をGoogleが負担していることが非常に大きい」

 iPhoneの割引原資はキャリアが負担し、PixelはGoogle自身が負担。米国企業2社のシェアがどんどん上がる構図だ。日本メーカーは「自社の利益だけで広告を出し、割引もしなければならず、厳しい状況になっている」と説明した。

 なお、石川氏は日本でHuaweiの勢いが低下したことについても言及。「通信業界におけるHuaweiの存在価値は大きい。コストをできるだけ抑えていたMVNOと通信料金を安くしたいユーザーにとって、Huawei端末は非常にコストパフォーマンスのいいデバイスだった。Huaweiがシェアを落としているのは、日本のみならず、世界的に大きな損失」とコメントした。

海外でも端末と料金のセットで5G展開を推進

 日本は5G展開が遅いといわれている。各社にミリ波が割り当てられているが、対応端末が20万円を超える高額とあって端末の売れ行きが悪い。また、Sub-6GHz帯も通信衛星との干渉があり、電波の出力を抑えなくてはならなかった。2024年、その問題がようやく解決し、「なんとかこれから5Gが盛り上がってくる」(石川氏)ことが期待されている。

 日本で5Gの盛り上がりが欠けたことについて、ソフトバンクやKDDIが当初からやってきた4G周波数を5Gに転用する、いわゆる「なんちゃって5G」のエリアが広がったため、「5Gでも4Gと変わらないというイメージが付いてしまったことも要因としてあると思う」と石川氏は述べた。

5G 日本で5G展開が遅れた理由

 また、2月末に開催されたMWC Barcelona 2024のT-Mobileブースに展示されていた「T PHONE」を紹介。T-Mobileが5Gを普及させるために、自社で企画・開発した200ユーロ台の端末だという。

T-Mobile MWCでT-Mobileブースで展示されていた「T PHONE」

 「キャリア自らが端末を企画して売るという、ひと昔前の日本のキャリアのようなことをやっている。しかも、端末と料金をセットで売っている」

 MWCの会期前日にXiaomiが新製品発表会を開催したが、そこでXiaomi 14がドイツのT-Mobileでは1ユーロで売られることが発表された。石川氏が確認したところ、頭金が1ユーロで、代金としては89.95ユーロ×24回払い。89.95ユーロは端末と通信料金のセット価格になっているという。海外に倣うという総務省の意向で日本は端末と通信料金が分離されたが、「海外でも端末と料金を一緒にして安くして、5Gを普及させようとする動き」が起きているのだ。

Xiaomi Xiaomi 14シリーズの発表会。ドイツでは1ユーロスマホとして売られる
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