南極の極限状況下でも安定した通信を――KDDI南極観測隊が語る越冬生活 KDDI MUSEUMで企画展も

» 2024年08月20日 22時07分 公開
[石井徹ITmedia]

 KDDIは、企業ミュージアム「KDDI MUSEUM」(東京都多摩市)で企画展「空が見えれば、どこでもつながる 南極観測の世界展」を開催している。会期は2024年7月30日から11月1日まで。

 本企画展は、2004年に南極・昭和基地にインテルサット衛星による通信が整備されてから20年を記念し、国立極地研究所の協力のもと、南極観測隊の活動と、それを支えるKDDIの役割について紹介している。

KDDI MUSEUM KDDIから南極地域観測隊に参加した三井俊平さん(第63次隊員)と中村映文さん(第64次隊員)
KDDI MUSEUM 企画展会場の様子

 報道関係者向けの内覧会では、南極地域観測隊の第63次隊員である三井俊平さんと、第64次隊員の中村映文さんが、南極での1年間の越冬生活について紹介した。

 「南極では隊員の専門分野に関係なく、その時々の状況に応じてお互いに支援し合う必要があります」と中村さん。除雪やコンテナ輸送など、基地の運営に必要な作業は全員で協力して行うのだという。

KDDI MUSEUM 南極観測船しらせは、砕氷しながら南極・昭和基地に接岸する

 南極観測隊は11月に日本を出発し、12月下旬に昭和基地に到着する。越冬隊員たちは1年2カ間、昭和基地での共同生活を送る。

 到着後は、夏期間の白夜の中、基地への物資輸送や引き継ぎ作業が行われる。2月からは本格的な観測活動や設営作業が始まり、6月の極夜期にはミッドウインター祭というイベントを開催。観測に協力することもある。9月に実施されるペンギンの個体数調査で、全員で何千羽ものペンギンを数える作業に追われる。

KDDI MUSEUM 到着した荷物の運搬は隊員全員で協力して行う。南極は日本ではないので、大型免許を保有していない隊員もトラックを運転できるという
KDDI MUSEUM 卵を抱えたペンギンをカウントする「ペンギンセンサス」は多くの隊員が協力して行う

 そんな南極観測隊の活動を通信から支えているのが、KDDIの南極観測隊員だ。KDDIから参加する隊員の主な任務は、インテルサット衛星を介した昭和基地のインターネット回線の維持だ。「昭和基地と日本との通信を守ることがミッション」と中村さんは語る。年に一度、1月に行うアンテナの潤滑油交換や無線機の切り替え作業は、細心の注意を払って行われる。

KDDI MUSEUM 会場には昭和基地の模型上にプロジェクションマッピングを行う展示も
KDDI MUSEUM 昭和基地の本部から400mほど離れた場所にあるインテルサット衛星のアンテナが、KDDIの隊員の職場だ
KDDI MUSEUM 1年に1回の衛星メンテナンス作業は緊張の瞬間だ

 さらに、KDDIの隊員は、観測隊員が日常的に使用するインターネット回線の管理も担当している。「限られた通信帯域の中で、観測データの送信を最優先としつつ、余裕のある帯域を利用して隊員のプライベートな通信にも対応します」と三井さん。「観測活動に支障をきたさないよう、ネットワークを柔軟に運用していくことが求められます」と中村さんも話す。

 南極の過酷な環境の中で通信インフラを守り続けることの難しさについて、中村さんはこう語る。「ブリザードの中、昭和基地から400mも離れた通信施設まで、命綱を頼りに移動し、機器の復旧作業を行ったこともあります。予備の部品も限られる中、トラブルに臨機応変に対応しなければなりません」。

KDDI MUSEUM ブリザードの中で回線がつながらなくなったときは、命綱をたどって通信回線を復旧しに行ったこともある

 こうした極限状況下でも安定した通信を確保するため、KDDIと極地研は常に新技術の導入を模索している。2004年のインテルサット衛星導入以降、2022年には最大7Mbpsの通信速度を実現。さらに2024年、KDDIと極地研の共同研究により、世界で初めて南極からの8K映像リアルタイム伝送に成功した。

 2024年には、イーロン・マスク氏が開発した衛星インターネット「Starlink」の実証実験を昭和基地で実施。広帯域・低遅延という特徴を生かし、より高精細な映像伝送に挑戦する。将来的には、Starlinkとインテルサットの併用も視野に入れつつ、ネットワークの冗長性と安定性の向上を目指すという。

KDDI MUSEUM 南極の通信を変えそうなのがStarlinkだ。8K通信でリアルタイム映像伝送を実現しており、今後南極での活用も検討されている

 南極での1年間の経験について、三井さんは「人間関係という観点でいうと、かなり鍛えられました。南極での経験を通して、一人一人に合わせた接し方や、リーダーシップの取り方など、マネジメントの大切さを学びました」と振り返る。中村さんは「南極でのトラブル対応を通して、ネットワークの知識が深まり、通信技術者としてのスキルアップにつながりました。また、この経験を子どもたちに伝える南極セミナーを開催する予定です。南極での経験を通して、子どもたちに科学の面白さを伝えられればと思います」と語った。

KDDI MUSEUM 南極観測隊の防寒着
KDDI MUSEUM 南極上陸時に持ち込んだ「私物」の展示も
KDDI MUSEUM 南極観測隊の歴史も学べる
KDDI MUSEUM 記念撮影ブースでは「マチカメ」を使って南極にいるようなセルフィーを撮影できる

 企画展「空が見えれば、どこでもつながる 南極観測の世界展」では、南極観測隊の活動と、それを支えるKDDIの役割について学ぶことができる。越冬隊員の1年の生活を追体験できるほか、「しらせ」の船内を再現した展示や、観測活動を疑似体験できるコーナーも用意されている。入館には事前予約が必要で、入場料は300円(常設展込み)となっている。

 会期中には、南極観測経験者によるトークイベントやワークショップなども予定されている。特に、9月28日と29日に開催される「KDDI南極アカデミー」では、南極での活動や暮らしを観測隊経験者が解説。衛星通信を活用した南極との8Kライブ中継も予定されており、現地の観測隊員と交流できる貴重な機会となっている。南極からのメッセージは、私たちの日常に新たな視点を与えてくれるはずだ。

企画展「空が見えれば、どこでもつながる 南極観測の世界展」

  • 開催期間:2024年7月30日〜11月1日
  • 場所:KDDI MUSEUM(東京都多摩市鶴牧3丁目5番地3、LINK FOREST内)
  • 見学方法:KDDI MUSEUM公式サイトから事前予約
  • 入館料:一般300円(常設展込み)

特別イベント:元南極地域観測隊員による企画展の解説

  • 日時:2024年8月24日 10:30〜17:00(最終受付16:00)
  • 場所:KDDI MUSEUM
  • 参加方法:当日受付で申込み(施設見学は要事前予約)
  • 入館料:KDDI MUSEUMの無料見学日のため、無料

ワークショップ:KDDI南極アカデミー】

  • 日時:2024年9月28日 15:00〜17:30
    2024年9月29日 14:00〜16:30
  • 場所:LINK FOREST 3階 研修室(東京都多摩市鶴牧3丁目5番地3)
  • 対象:子どもとその保護者計60組(各日30組)
    ※1組あたり保護者2人まで同伴可能
    ※推奨学年:小学5年生〜中学3年生(推奨学年以外も参加可)
  • 参加費:無料
  • 参加方法:専用サイトから・事前予約(定員になり次第受付終了)

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