―― 新料金に合わせて初期費用を抑えるエントリーコードを販売しましたが、アクセスが殺到していたように見えました。急きょ、販売を楽天市場に広げたのも確認しています。実際、いかがでしたか。
猪腰氏 エントリーコードは想定の10倍ぐらい売れています(笑)。1000、2000ぐらい売れればいいかと思っていたのが、実際には万単位でした。しかもサーバが落ちてしまい……。バックアップで走らせた楽天市場からも、普段とは異なるお客さまが流入してきました。
―― 万単位はすごいですね。全員が移ってきたらかなりの純増になると思いますが、最初は33円だったので、取りあえず買ったという人も含まれているのでしょうか。
猪腰氏 今、まさに分析しているところですが、開通率は今のところ50%を切っています。この期間中(料金プラン発表からインタビューまで。インタビューは9月19日に実施した)にいろいろな出来事があったので、別の検討をしている方もいるかもしれません。要因が重なりすぎていてなかなか分析しきれない部分があります。
―― 確かに、再びahamoがデータ容量を増量したことで料金が動き始めています。日本通信も料金を改定しました。
猪腰氏 正直に言うと、ahamoショックより日本通信ショックの方が大きかったのですが(笑)。ただ、昨日の今日なので、まだ日本通信とは話をしきれてはいません。本来、うちはMVNOと戦うのではなく、ahamoと戦う体でやっていたので、もともと日本通信には値段を合わせていませんでした。ただ、日本通信が容量を上げてきたので、うちも上げられるなら上げていきたい。少なくとも、価格なり容量なりは変えていきたいと考えています。
日本通信もahamo対抗でああいったプランを出したのだと思います。本来刺そうとしていたのはうちではなくahamoのはずなのですが、うちも近くにいて被弾した状況ですね(笑)。
―― MVNEなのに(笑)。
猪腰氏 ただ、50GBの部分を大きく狙っていたかというと、そこまで大きなマーケットではありません。対策するなら、うちも容量を上げますというようなことをすると思います。一方で、10GBプランは日本通信の「合理的みんなのプラン」とのバランスも取って値付けしていたつもりでした。あれが20GBになるのであれば、もう少し値段を下げたい。価格のとがり方が鋭角になれば、プラン自体の価値は戻ってくると考えています。
―― 料金改定が相次ぎましたからね……。
猪腰氏 iPhone発表のタイミングを狙われたのだと思います。うちも本当はもう少し早く発表したかったのですが、完全にかぶらなかったのが唯一の救いですね……。
―― 今回、かけ放題も5分から6分にしました。この狙いを教えてください。
猪腰氏 5分からはみ出している人の30%が、無料の範囲に収まるようになるからです。別の言い方をすると、6分だと秒課金が発生しない方が3割増えるということです。その微妙な1分に、結構な数の方がいらっしゃった。どうやってお客さまにアプローチしようか調べていたときに、面白い数値のかたまりがありました。
―― HISモバイルは、従量部分の料金も30秒9円で他社と比べて安くなっています。ここを目当てに契約する人もいるのでしょうか。
猪腰氏 そこが目当てかどうは分かりませんが、従量課金の部分は安くしています。ただ、かける人は5分かけ放題をつけています。また、かけ放題に入っていているにもかかわらず、全然使わないという人もそれなりにいます。実際に使っているのは全体の2、3割ですね。1GBプランでそのまま使わず、サブ回線として持っている人は当然電話もしないですから。比率でいえば、そこも大きいかもしれません。
―― それでいうと、メインとサブどちらとして使っている人の方が多いのでしょうか。
猪腰氏 サブの方が多いと思います。1GBプランをサブという認識でお話ししていますが、全然使っていない人もそれなりにいますね。ある程度使って1GBに収まっている人もいて、バックアップ的に使われているのだと思います。これは旅行の特典もそうですが、まずはドアを開けていただき、スマホの中に入らせていただく。そこに入りさえすればアプローチすることができます。そういう意味で、280円は非常に大事なプランです。そのためには、マイページの充実化が必要ですが、前段としてAIを入れることにしました。
―― AIはどういう使い方になるのでしょうか。
猪腰氏 AIを使わなければ、これからのビジネスは成り立ちません。どんな使い方ができそうなのかということは、2年ぐらい前から調べてきました。まずはコールセンターで、ヘルプデスクの自動化を進めるうえで以前のチャットbotには限界がありました。これをAIにやらせると、回答精度がぐんと上がり、使えるねという話になりました。その使えるAIをどう次に生かすのかという中で、料金プランもトライアルとしてはやりやすい。完全従量制だとAIが出てくる場面はありませんが、AIとの対話で店頭に行ってやっていたこと(料金プランの相談)をやれるようにしたい。
質問と回答のラリーをするだけで、「気付いていないけどこういう使い方ができますよ」という提案や、「こういう料金プランがありますよ」というような提案をAIができるようにしていきたいと考えています。今はデータを食べさせながら実証実験をしていますが、まずは料金を安くするところから自然な形で導入したいですね。
―― 自由自在プランを出してから、契約数はどの程度まで伸びましたか。
猪腰氏 増えてはいますが、まだ数10万程度です。ただ、純増は昨年の20%アップぐらいで伸長しています。ストックが増えると解約率も増え、伸びが鈍化するところがありますが、新料金の10GBプランのところで解約率を下げたい。当然新規契約も上向かせないといけないので、そこを意識しながらやっています。
満を持して投入した新料金プランだが、どちらかといえば10GBなどの中容量プランで解約を抑止する狙いが強かったようだ。裏を返せば、100MB未満の安さが受け、新規契約は順調に獲得しているということ。旅行関連の特典が加わり、その魅力はさらに増している印象だ。HISならではのMVNOとして、他社との違いも打ち出しやすくなっている。
一方で、データ容量を30GBに増やしたahamoや、そこに対抗した日本通信SIMのあおりを受けていることも分かった。特に、合理的みんなのプランが1390円のまま、10GBから20GBに増量される影響は大きいという。10GB、20GB、30GBの料金プランはahamo対抗として打ち出しただけに、改定は急務といえそうだ。
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