マイナンバーカードの特徴の1つである電子証明書を使ったJPKI(公的個人認証)。マイナンバーカードのICチップ内に電子証明書を保管して、オンラインでの本人確認を確実に行えるというメリットがある。
そのJPKIをスマートフォンにも搭載する動きが進められている。今回はその「電子証明書のスマートフォン搭載」に関して解説する。
前回の記事で説明した通り、マイナンバーカードのICチップにはアプリケーション(AP)として複数の機能拡張が可能となっている。その中に公的個人認証APがあり、そこには2つの電子証明証書が保管されている。
現代のスマートフォンは、カードのICチップと同等の安全性を備えた領域があり、ICチップと同じ仕組みのSE(セキュアエレメント)、SoCのプロセッサ内のセキュア領域であるTEE(Trusted Execution Environment)、それと似た仕組みのApple独自実装であるSecure Enclaveの3種類が一般的だ。こうした領域には、例えば決済用にクレジットカード情報が保管されており、AppleウォレットやGoogleウォレットでも活用されている。
こうした領域はICカードのチップと同レベルのセキュアな環境なので、安全に電子証明書を保管することができる。そうして実現したのが、「スマホ用電子証明書搭載サービス」だ。これによって、スマートフォンだけでマイナンバーカードのJPKIと同等の機能を実現しようとしている。
スマホ用電子証明書は、マイナンバーカードを使ってスマートフォン内に電子証明書を発行することで実現する。マイナポータルアプリを使ってスマホ用電子証明書発行を選ぶと、マイナンバーカードをスマートフォンにタッチして本人確認をした上で、証明書を発行する。
基本的には、主となるマイナンバーカードの電子証明書に対してサブという位置付けだが、機能としてはおおむね同じことができる。スマートフォンに内蔵されているため、物理カードが不要になるのが最大のメリットだ。
スマホ用電子証明書では、利用者証明用電子証明書と署名用電子証明書の双方が利用でき、利用者証明用電子証明書の場合、暗証番号の代わりに、スマートフォンのロック解除機能(生体認証)を使うこともできるため、利便性も向上する。
同様に、署名用電子証明書ではスマートフォンだけで身元確認などができるようになる。この場合、従来のeKYCのようにカード券面と自撮りを撮影することなく、単にパスワードを入力するだけなので、仮に電車内で立ったままでも、サッと身元確認をして携帯電話を契約する、といったこともできる。
この利便性の高さと安全性の高さの両立が、スマホ用電子証明書によるJPKIのメリットだ。
対応するのは、現時点ではAndroidスマートフォンのみ。さらにデジタル庁が検証して安全性が確認された機種で利用ができる。対応機種はマイナポータルのサイトに掲載されている。一時期は新機種の対応が遅れていたが、最近は確認が早くなってきているので、最新機種でも比較的早期に対応するようになった。
Androidの場合、GlobalPlatform仕様のセキュアエレメント(SE)である「GP-SE」が搭載されていることが多い。2023年にはGlobalPlatform仕様のSE搭載端末は世界で620億台が出荷されたという。2024年には全てのSE搭載端末の90%がGlobalPlatform仕様のSEだったそうだ。
国際標準の仕組みだが、スマホ用電子証明書ではフェリカネットワークスが担当しており、おサイフケータイ対応端末に限定されている。そのため、基本的に使えるのは「日本で発売されている」「日本向けにおサイフケータイに対応した」端末のみだ。結果として、グローバル端末をそのまま販売している場合に対応できない点は課題だ。
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