楽天グループは7月30日から8月1日までの3日間、グループ最大級のイベント「Rakuten AI Optimism」をパシフィコ横浜で開催している。
2024年までは、ビジネスパーソン向けの講演・展示だけでなく、家族や友人同士で楽しめる展示もそろえた「Rakuten Optimism」を2019年から開催してきたが、2025年は「Empowering the Future」をコンセプトに、AIに焦点を当てたビジネスイベントに変わった。
初日には楽天グループ 代表取締役 会長 兼 社長の三木谷浩史氏がオープニングキーノートに登壇した。ここではキーノートで語られた内容を紹介する。
講演ではまず、楽天グループの歴史を振り返った。元銀行員であった三木谷氏が、インターネットの可能性を信じて「楽天市場」を始めた経緯を語った。当時のインターネットの回線速度は14.4kbpsと低速だったが、「世の中の情報は全てつながっていく。電線が切れようがピアツーピア(P2P)であらゆる通信が可能になり、世の中が根本から変わる」(三木谷氏)という信念のもと、特に地方の中小企業を支援するために楽天市場を始めたという。このときの「チャレンジのスピリットは今も変わっていない」と語った。
その後、楽天はトラベル事業の買収、世界初のインターネット上の大規模ポイントシステムの構築、証券や銀行事業への参入、プロ野球への参入と立て直し、社内公用語の英語化、そして携帯キャリアへの参入と、「世の中の常識を逆手に取る形でさまざまな大きなプロジェクトに挑戦」(同氏)してきた。その結果、Eコマース、クレジットカード、オンライン銀行、オンライン証券などで国内トップの地位を確立。楽天トラベル、楽天GORA、楽天モバイル、ポイントといった多様なサービスを擁するエコシステムを構築している。
楽天グループは事業をグローバルに展開している。米国最大級のキャッシュバックサイト Rakuten Rewards(楽天リワード)、携帯電話向けソフトウェア技術を提供する楽天シンフォニー、メッセージングアプリのViber、欧州を中心としたビデオストリーミングサービスのRakuten TV、電子書籍の楽天Koboなどを紹介した。
現在、1億超の日本人が楽天IDを持ち、月間4400万人以上が楽天グループで何らかのサービスを利用している。世界では約20億人が利用し、年間6000億から7000億ポイントが発行される。楽天グループ全体で70以上のサービスを提供しており、多くのユーザーは複数のサービスを利用。楽天モバイルは7月7日に900万回線を突破し、年内に1000万回線を目指していることを三木谷氏は述べた。
講演のメインテーマであるAIについて、三木谷氏は「AIは基本的に(ネットワークに)つながっていないと使えない」とし、楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」は通信が安価に利用できると強調した。
楽天モバイルユーザーの月間平均データ利用量は31GB以上で、若年層のユーザーは70から80GBものデータを利用しているという。「日本国民のインターネット、モバイルの使い方が大きく変化した。楽天が(携帯電話事業に)入ったことによって、日本全国津々浦々、あるいは海外に行ったときも無制限で(通信が)使える時代に変わってきている」(同氏)と胸を張った。
楽天モバイルを契約する際に、AIアバターがSIMの発行や販売を行う「最強くん」と呼ばれる未来の自動販売機についても紹介した。このAIアバターによる接客体験は、エキシビションエリアの楽天モバイルブースで体験できる。
「AI時代は世の中が変わる。でも携帯料金が高かったらダメだと思う。AIが世の中を変えていく時代に、プラットフォーム、コネクティビティはできるだけ安くて、速くて、そしてつながるということが重要だと思っている」(三木谷氏)
楽天モバイルのネットワーク管理も、ほぼ全てAIが行っているという。また、楽天モバイルは2025年、電力消費量を20%削減しようとしているが、これもAIが担っていると三木谷氏は語っていた。
「楽天グループが目指しているのは最強のAI」と三木谷氏は語るが、それについて説明する前にAIの進化について振り返った。
深層学習からLLM、生成AIへと発展してきたAIは、ここ数年間で飛躍的な進歩を遂げている。10年単位で考えられてきた技術の進化が、インターネットの世界では「ドッグイヤー」と呼ばれて3年程度で進むとされたが、AIの進化はそれをはるかにしのぐスピード。「3年くらいで起こると思っていたものが3カ月で起こるほど学習速度が高い」(三木谷氏)。
AIの能力は急速に人間に迫り、超えつつある。2016年には平均的な人間の能力に比べて20%劣っていたAIが、2024年には特定の分野では人間の能力を上回るまでになっている。
しかし、現在のAIは「質問に対する答えを出す、辞書や百科事典のスーパー版」にすぎないと三木谷氏はみる。重要な進化ポイントは、AIが「単純な回答からアクションに変わってきた」こと。つまり「AIエージェント」になることだ。三木谷氏はそれを「スーパー秘書」と表現する。
「ユーザーの意図を理解し、『きっとこんなことなんだろうな』『こんな趣味なんだろうな』ということをかみ砕き、忖度(そんたく)して、その上で実際に取引を実行する。実行することが非常に重要」(三木谷氏)
自動運転の他、旅行代理店やホテルのコンシェルジュ、ショップ店員、弁護士、会計士といった、これまで人間が行ってきた「代理人の役割を、AIがある程度できるようになる」時代が近づいていると述べた。
一方で、三木谷氏は日本人のAI活用の遅れを懸念している。AIの普及速度は非常に速く、2025年6月末現在で12億人以上がAIを利用しており、「インターネットやスマートフォンの普及速度と比較しても圧倒的」と指摘。しかし、アメリカを100とすると、日本の「AI力」は20で、中国、ヨーロッパ、韓国、インドよりもはかなり遅れている。特に生成AIの利用率では、中国が80%以上であるのに対し日本は26.7%(2024年末時点)にとどまっている。
「AIを使いこなす、使い倒せるかどうかが、国の力の大きな差別化になってくるのではと思っています。楽天グループが、皆さんにAIをエンパワーメントしていくことは極めて重要な役割、仕事の1つ」(同氏)と語り、「楽天のミッションは、皆さんが意識しないでもAIを使えるようになること。一般ユーザーも店舗運営者もAIを使う状態にしていかなくてはならない」と語った。
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